米中が今月に戦略・経済対話や共同軍事演習、「共存関係」を確認=「南シナ海問題」でも徹底抗戦を回避―G7首脳宣言で浮かび上がったこと?

八牧浩行    2016年6月4日(土) 5時30分

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米国はハワイ沖などで6月下旬に開催される海軍主催の環太平洋合同演習「リムパック」に中国人民解放軍を招待、中国も参加する方針を表明した。また米中両国が経済や外交の懸案を話し合う戦略・経済対話が6月6、7の両日、に北京で開催される。資料写真。

米中両国は南シナ海問題などで対立しているが、軍事・政治交流を推進している。米国はハワイ沖やカリフォルニア州南部で6月下旬に開催される海軍主催の環太平洋合同演習「リムパック」に中国人民解放軍を招待、中国も参加する方針を表明した。米中両国が経済や外交の懸案を話し合う戦略・経済対話が6月6、7の両日、北京で開催され、米国のルー財務長官、ケリー国務長官、中国の汪洋副首相、楊潔チ国務委員(副首相級)ら主要閣僚や多くの政府・民間企業幹部が出席。両国の懸案事項を協議する。

中国は南シナ海の岩礁を埋め立て軍事施設を設置、周辺国や米国などからの抗議にもかかわらず、これらの活動を停止していない。中国は南シナ海の島々が中国領であると主張。中国が強国になった現在、実力行使できるようになったという論理が中国国内ではまかり通っているが、国際社会では容認できない独断的な考え方だ。

米国は世界の成長センター、アジアを重視するリバランス政策を展開。米国が重い腰を上げ、イージス駆逐艦を南シナ海に派遣、「航行の自由」作戦を展開したが、米国は尖閣諸島の帰属と同様、領土紛争には介入せず、国連海洋法条約上の航行の自由原則を確認しているにすぎない。

◆米国民の脅威は中東・IS、北朝鮮

米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が、2015年末に米国人を対象とする「脅威認識」についての調査を行ったところ、米国にとっての主要な脅威として挙げられたのは、IS(83%)、イランの核開発問題(62%)、北朝鮮の核開発問題(59%)の順。第4位に地球温暖化と並んで、ようやく中国の台頭が入った(49%)。米世論は冷めており、「南シナ海問題」は大統領候補の討論会でも大きな争点になっていない。

毎年開かれる米中戦略・経済対話は、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が経済や安全保障分野の懸案、国際的な課題について意見交換する大規模会議で、米中交互に開催されている。昨年7月に米国で開催された対話では、閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス1000人近くが出席。中国側は400人以上の代表団を送り込んだ。この米中戦略対話では、温室ガス削減問題、米中投資協定、人民元の国際化など約200項目で合意したほか、6つの大掛かりなプロジェクトを立ち上げ、民間部門が技術協力を推進することで一致した。今年の戦略対話ではこのフォローのほか、中国の鉄鋼の過剰生産や人民元制度、南シナ海の軍事拠点化問題などが議題となる。

米国との間には、日本にはこのような定期的な戦略的大規模対話はない。オバマ大統領と習近平主席の会談は年に数回、長時間開催されており、米中は互いの立場を暗黙裡に理解し合う「阿吽(あ・うん)」の関係にあるとの見方も多い。

米国にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、軍事費の削減と、世界最大の中国消費市場の取り込みが不可欠。中国は米国の最大の輸出相手国である。これに加えて、中国は米国債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。一方、中国も経済発展の途上にあり、大掛かりな軍事紛争になれば発展が阻害されるので、米国と本気でコトを構える気はない。

安全保障面でも米軍と人民解放軍の協力関係にある。昨秋も中国海軍は上海近海において米中合同軍事演習を行い、今年6月末から8月にかけて行われるリムパックにはミサイル駆逐艦や護衛艦などの艦船やヘリコプターを派遣する。陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流もスタートしている。

中国も、米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国と経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。

◆共同軍事演習に駆逐艦・護衛艦を派遣

先のG7伊勢志摩サミット「首脳宣言」を分析すると、米欧の対中国姿勢が浮かび上がる。中国が南シナ海で進めている埋め立てに対して、名指しの非難声明は見送られた。首脳宣言は、前文から結語まで、31ページにも及ぶ長文だった。世界経済全般や保健、女性問題や難民問題に多くのページが割かれ、その後に懸案事項となっている国・地域の懸案が列挙されている。シリア、イラク、イラン、北朝鮮、ウクライナロシア、リビア、アフガニスタン、中東和平プロセス、イエメン、アフリカ、ベネズエラ…。G7として重要と思われるものから、「強く求める」「要求する」といった厳しい表現が並ぶ。

最後の12番目に「海洋安全保障」という項目が出てくるが、短い記述の大半は、「国際法を守ることの重要性の確認」という一般常識を述べただけ。「海賊との闘いの強化」を謳い、「東シナ海及び南シナ海における状況の懸念」が示されたが、中国に対する非難もなければ、要求もなかった。

 

米国と同様、日本にとっても中国は最大の貿易相手国。2万2000社が進出し、日本人21万人が中国に滞在している。日米中が力を合わせて世界の成長センター、東アジアのさらなる繁栄に向け努力することが肝要だ。軍事に頼らない平和的な手段で他国の尊敬を得た方が、外交も経済もスムーズに機能する、結果として国家の安全保障を高めることになることを、中国に対しひたすら辛抱強く訴えるべきであろう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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Record China主筆 八牧浩行

時事通信社で常務取締役編集局長を務め、ジャーナリストとしての活動歴は40年以上。
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