<東アジア新時代(4)>大気汚染、天津大爆発、ガンの村、格差拡大…中国の「負の遺産」噴出―怒る民衆、政府も危機感!

八牧浩行    2016年1月3日(日) 8時0分

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驚異的な経済成長を遂げた中国だが、「負の遺産」も膨大だ。日本が40年近くかけて達成した高度経済成長を、中国はわずか二十数年で実現。さらに成長し続け、しかも人口、国土も日本の10倍、26倍。多くの「歪」が噴出している。写真は北京市の大気汚染。

驚異的な経済成長を遂げた中国だが、「負の遺産」も膨大だ。日本が40年近くかけて達成した高度経済成長を、中国はわずか二十数年で実現。さらに成長し続け、しかも人口、国土も日本の10倍、26倍。多くの「歪」が噴出している。中国は工業生産の急拡大につれて「世界最大の公害発生国」となっており、地球生態系に及ぼす影響は甚大だ。有害化学物質による水質汚染や大気汚染など環境関連事件が多発、深刻な健康被害が続出している。

15年12月、北京市、天津市、河北省とその周辺で大気汚染が深刻化、北京市ではPM2.5の濃度が基準値の数十倍に達し、当局は最高レベルの「赤色警報」に引き上げられた。北京市当局は、自動車のナンバーによる交通規制を行い、市内の小中学校に休校にするよう呼びかけた。また、北京市内の2100社の企業に対し、生産停止や減産措置が行われた。

ガンの発症率が多い、いわゆる「ガンの村」の存在を、中国政府は公式に初めて認めた。外国調査機関によると、その数は少なくとも400カ所を超えるという。中国でのガンによる死亡者数の統計を見ると、70年代には年間平均で70万人にとどまっていたものが、90年代に年間117万人に急増。2012年には270万人とさらに増え、20年には400万人を超えると予想されている。

15年8月、天津市浜海新区天津港の瑞海国際物流有限公司の危険物倉庫で大規模な爆発が4回起きた。当局の発表で死者は173人、負傷者は798人に上った。事故現場の倉庫には劇薬のシアン化ナトリウムなど3000トンに及ぶ危険物が保管されており、これが消火の際の水と化学反応を起こしたとみられている。この事故で、瑞海国際物流の会長ら10人が危険物取扱認可をめぐり政治家や警察幹部との癒着があったとして拘束された。また、天津市当局の交通運輸委など幹部11人も職権乱用などの疑いで拘束された。

深センの土砂崩れも人災

12月には広東省深セン市の工業団地で大規模な土砂崩れが発生。死者・行方不明者は90人以上。積み上げられていた土砂が崩落した。この場所は元採石場で、最近2年ほどの間に、周辺の工事現場や地下鉄掘削の残土が運び込まれていた。1日に数百台のトラックが往来し、高さは100メートルほどにもなっていたという。安全管理が不十分だったことによる人災との見方が強まっている。

中国政府によると、全国で15年上半期に起きた大きな産業事故は498件で、死者は2136人。下半期も11月に50件発生し、217人が死亡・行方不明となるなど増大している。コストがかかる安全対策は後回しにされ、業者と結託し監督を怠る当局者も多い。

急成長のもう一つの「負の遺産」は、格差が驚くべきスピードで拡大したことだ。所得格差を表すジニ係数は、中国政府発表で0.474。0.4を越えると、所得格差から不満が高まり、社会騒乱が多発する警戒ラインとされ、0.6を越えると、社会不安につながる危険ラインとされている。中国の大学の独自調査では0.61に達しているという。公式発表の数字でも、既に社会騒乱多発の警戒ラインを越えている。 

都市部では若者が運転するBMWやポルシェなど高級輸入車がわがもの顔で疾走し、自転車やリヤカーが粉塵(ふんじん)を浴びるアンバランスな光景が日常的にみられる。貧困層は4億人ともいわれ、フラストレーションを爆発させる一歩手前ともいわれる。

中国指導部は、農村から都市への人口流入を促すことで内需を掘り起し、投資主導型経済から消費主導型経済への転換を図ろうとしている。しかし、現在の土地・戸籍制度の下では、農村から都市への出稼ぎ労働者(農民工)は都市戸籍を持たないために出稼ぎ先で必要な社会保障を受けられない。一方で、農地も自由に売買することができず、安心して都市で働き、消費を増やすことができないのが実情だ。中国全体で農民工は約2億人に上るといわれる。

 

農地に対する農民の明確な権利が保障されていないため、地方政府が農地を収用し、開発業者に転売することで歳入を確保している。農地を収用された農民の中には、補償が公正ではないなどとして不満も根強い。急速な都市化により、6400万世帯が土地の収用、もしくは家屋移転を余儀なくされたとされる。

 

◆「格差是正は待ったなしの最優先課題」

「明」と「暗」がこれほど際立った国は世界に見当たらず、習近平政府も「格差是正は待ったなしの最優先課題」と危機感を隠さない。戸籍制度、土地改革、一部セクターの民間・外資への開放など具体的な改革方針が打ち出され、実行されつつある。

 

土地などこれまで「集団所有」が原則とされてきた農村の資産を、農民に株式の形で分け与えることを可能にした。株の譲渡や相続を認めることで、個人の財産に近い権利として使える道を開いた。都市開発に伴う土地の値上がり益を、農民に公平に分け与えることも打ち出した。これにより都市開発の際には地方政府が強制的に収用した上で、転売益を独占する行為の抑止を狙った。

 

一方で、農民が圧迫される原因となっていた地方政府の財政難を解消するため、地方の財源として不動産税や消費税の導入・拡大を盛り込んだ。社会保障や大規模プロジェクトなどの費用も中央が一部負担することで、地方の財政難を解決する方針だ。

 

「都市化」は経済改革の目玉であり、15年12月、政府は2000万人の違法な移住労働者に対して、現在雇用されている場所での居住許可を与えると、発表。同月の「中央経済工作会議」で確認された。これらの労働者に対して、教育、医療、などの社会サービスを供与するという。

環境改善と格差の解消は緊急課題。習近平政権はこれまでにない危機感を抱いており、汚職・腐敗撲滅と同様、最優先課題として取り組む構え。まさに正念場と言える。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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