<東アジア新時代(3)>習近平の“虎退治”、江沢民派や人民解放軍に向かう―「歴代王朝は腐敗で亡びた!?」

八牧浩行    2016年1月2日(土) 8時10分

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習近平氏が2012年11月に共産党総書記に就任して以来、これまでに10万人以上の党員が汚職容疑で処分された。党幹部の綱紀粛正、格差拡大の温床になっている国有企業改革、政敵打倒による権力基盤強化の「一石三鳥」を狙ったものだ。写真は北京・天安門。

中国の大がかりな汚職・腐敗撲滅運動は2015年も衰えなかった。習近平氏が2012年11月に中国共産党の総書記に就任して以来、「虎もハエも叩く」の掛け声のもと、これまでに10万人以上の党員が処分された。この運動は、党幹部の綱紀粛正、格差拡大の温床になっている国有企業改革、政敵打倒による権力基盤強化の「一石三鳥」を狙ったものだ。

胡錦濤政権時代に最高指導部の党政治局常務委員を務めた周永康氏が「重大な規律違反」容疑で起訴され、15年6月に無期懲役判決が出た。周氏は公安・司法分野の責任者を務めたほか、有力国有企業の中国石油天然気集団(CNPC)のトップの経歴もあり、長らく石油産業の中心人物でもあった。

従来、党政治局常任委員経験者は逮捕されないとの不文律を破ってまでも断行された背景には、中国国内の格差拡大と腐敗のまん延を放置できなくなったことがある。共産党統治の正統性が問われていることに危機感を抱き、司法が及ばないとみられた周氏のような大物をサプライズ的に失脚させることで、汚職一掃に真剣に取り組んでいるという強いメッセージを国民に送ることができると考えたようだ。

中国国内のインターネット空間には、習国家主席による汚職追放キャンペーンを肯定するメッセージが溢れている。かつての薄煕来(元重慶市総書記)裁判のように、収賄、横領、権力乱用の訴求に対し、反論の機会を与えながら、腐敗撲滅に賭ける強い決意をアピールしている。公判報道は国民大衆への格好の教宣材料となるのだ。

◆権力基盤強化など「一石三鳥」狙う

習近平政権の反汚職運動で、多くの被疑者が厳しい取り調べを受けている。拷問などの横行から2012年から15年前半までに少なくとも50人以上が「異常な死」を遂げている。8月には中央紀律委員会の巡視取り調べを受けた第一重型機械株式公司の呉生富・董事長がオフィスで自殺した。

国外逃亡した汚職官僚もターゲットになっている。14年から始まった「天網運動」では国外逃亡者を連れ戻すべく、自首勧告や逃亡先の政府との交渉を進められている。中国国家預防腐敗局の劉建超・副局長は15年12月の記者会見で、天網行動開始以来800人以上もの汚職官僚、汚職企業幹部の連れ戻しに成功したことを明らかにした。半数弱は他国との交渉成功による引き渡しで、残りは自首によるものだという。

習近平の汚職腐敗撲滅運動は、派閥に関係なく展開されている。胡錦濤前国家主席を輩出した共産主義青年団(共青団)出身の令計画・党統一戦線部長が15年7月に収賄容疑で逮捕された。事情通によると、江沢民元国家主席ら保守長老を牽制し権力基盤を強化することも狙っている。

江、胡両氏は党の中核だった元幹部や有力者の家族に対する摘発を抑制すべきだと進言したものの習氏はこれを一蹴した。国家主席や政治局常務委員経験者であっても摘発の例外としないことを示すことによって、政務や人事への介入を慎むよう警告する意味合いもあろう。

◆習主席、人民解放軍を掌握―江沢民派も牽制

習氏は江沢民氏の牙城の上海に、腐敗を取り締まる党中央規律検査委員会の中央巡察隊を100人規模で送り込み、党・政府・軍機関はもちろん、江沢民の息がかかっている国有企業などを徹底的に調べ上げ大量の重要文書を押収。その調査結果から、「一部の幹部の配偶者や子女らが経済・商業活動に携わり、不正な収入を得ている」として、市トップの韓正・党委書記に幹部のファミリービジネスを止めさせるよう指示した。

これより先14年4月には、江沢民氏に近い華潤グループ(電力会社)の宋林・董事長が巨額の汚職の疑いで捕まったが、宋林氏は、電力界の大物、李小鵬氏と緊密な間柄。父親の李鵬・元首相や妹の李小琳とともに、中国の電力界をリードしている。また同年9月には袁純清・山西省党書記が解任されている。ともに共青団の有力メンバーである。電力閥は、江沢民派でも共青団も差別なしに、「虎退治」のターゲットになっているのだ。

中国共産党幹部の腐敗が救いようがないほど蔓延し、習氏は、このままでは中国が滅びてしまうとの危機感を抱いている。石油閥の後は電力閥が次の退治のターゲットになっているのは、ともに巨大な独占的利益集団である国有企業だからだ。国有企業を抜本的に改革しなければ、中国の経済発展が行き詰まると考えているという。

人民解放軍も腐敗撲滅運動の例外ではない。制服組元トップの徐才厚・前中央軍事委員会副主席は2014年10月に起訴され、収賄や職権乱用の容疑がかけられていたが、15年3月、裁判が始まる前に病死した。

15年2月から人民解放軍の財務問題調査がスタート。すでに続々と問題が発覚している。経費の流用、予算案を超えた支出、規則違反の銀行口座開設、基準以上の福利厚生支給、規定以上の豪華接待、ニセ領収書を使った経費搾取、隠し口座などが見つかっている。

習近平国家主席への圧倒的な権力集中を背景に、規制緩和、権限委譲、国有企業改革、経済改革、司法改革、戸籍改革、地方財政改革を断行する構え。習主席は「2020年までに改革達成」へ背水の陣を敷いており、これらの大胆な改革が実現するかが中国の命運を握る。

習近平政権の特徴として、(1)権力の集中と党内派閥(太子党、共産主義青年団)の解消(2)空前絶後の腐敗撲滅運動(3)大胆な改革(4)厳しい言論統制(5)改革派だけでなく保守派とも協調―などが挙げられる。広範な階層から支持されており、「皇帝が進める市場化改革」と言えるが、民主化や言論の自由なしに進展するかどうか。改革が進展しなければ、急速にレームダック化する可能性もある。

毛沢東トウ小平以来の「後継指名」果たせるか

習氏は「党内では絶対に仲間を呼び寄せて徒党を組むような『封建時代の結託』を再現してはならない。全てが平等に取り扱われ、平等に権利を持たなければならない」と警告している。既得権益者=独占国有企業グループの腐敗にメスを入れなければ、これまでの歴代王朝時代と同じように、中国共産党「王朝」が崩壊する崖っぷちに追い込まれていることを自覚しているのだろう。

習氏が見据えるのは、党最高指導部の政治局常務委員7人のうち、党規約の年齢制限で習氏と李氏以外の5人が入れ替わる17年党大会だ。22年から始まる「ポスト習」時代の最高指導部の陣容もこのとき見えてくる。江沢民、胡錦濤両氏は次期党総書記を選べなかった。習氏が自ら指名できれば、毛沢東、トウ小平両氏以来となる。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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