「アベノミクス株高」頭打ち、円安・公共投資に勢いなく=“官製相場”も買い余力に限界―中国景気・米利上げも懸念材料

八牧浩行    2015年8月5日(水) 7時21分

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「アベノミクス相場」といわれ上昇傾向をたどってきた東京証券市場の日経平均株価が頭打ちになっている。財政支出、異次元緩和によるデフレ脱却と円安誘導、公的資金による株式買い上げなどにより、株価を押し上げてきたが、そのいずれも剥げ落ちつつある。写真は東証。

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2015年8月、「アベノミクス相場」といわれ上昇傾向をたどってきた東京証券市場の日経平均株価が頭打ちになっている。今年6月24日に2万868円と18年ぶりの高値を付けた後は軟基調となり、このところ2万500円前後で推移している。安倍政権の経済政策・アベノミクスは積極的な財政支出、異次元緩和によるデフレ脱却と円安誘導、日銀資金や年金基金など公的資金による株式買い上げにより、株価を押し上げてきたが、そのいずれも剥げ落ちつつある。

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安倍政権が発足した2012年12月以来、東証株価が上昇したが、その特徴は“官制相場”の様相が濃かったこと。(1)積極的な公共投資、(2)日銀の異次元緩和と上場投資信託(ETF)買い入れ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式購入比率拡大に伴う大量買い出動―などが相場上昇につながったためだ。

GPIFは世界最大の政府系ファンドで、総額約140兆円。国民の年金資金を原資とし、従来は国債中心に運用していたが、昨年10月末、運用ポートフォリオ(資産構成割合)の見直しを行った。国債の運用比率を下げ、国内株式の割合を全体の12%から25%まで拡大した。これにより新たに18兆円が東京株式市場に流入する計算だ。 国家公務員共済などの共済基金も同様に株運用の比率を高め、政府系のゆうちょ銀行も株価を購入している。ところがGPIF運用資産の国内株比率は既に22%に達している。

日銀によるETF買い入れは株式購入と同義語。日銀保有のETFは推定時価が8兆6000億円。2000年代前半の銀行保有株買い取りも含めると保有時価は10兆円を超える。日本株の2%弱を保有する計算で東証株価押し上げ要因となってきた。余力資金は3兆円といわれるが、価格形成の機能が低下する問題がつきまとう。日銀は買ったまま売らないため市場で流通する株が減少、価格形成が歪む恐れもある。一方で、日銀が将来「出口」戦略を余儀なくされ、売りに転じれば株価の下押し要因となってしまう。日銀保有株の副作用も考慮する必要がある。

これら公的資金の買い余力は総計で十数兆円に達するといわれていたが、既に底を突きつつあるとの試算もある。元本が保証されない株式というリスクマネーは株価が急落した場合、国民の負担となってしまう。

公的資金による相場の押し上げが、その後の相場の長期低迷につながるのは1990年代初めの「PKO(株価維持策)」の失敗で証明済み。市場のプロも「官製相場はいずれ底が割れて株価は下がる」と懸念する。

外需に目を転じると、中国で景気失速懸念が拡大。ロシアやブラジルでは資源価格安が株式や通貨の下落につながっている。

米国でも、原油安やドル高の影響で景気減速懸念が浮上。米国株式市場でも、リーマン・ショック後の2009年3月から続いてきた強気相場は変調をきたしている。中国景気の減速懸念により、アップルなど中国市場が占めるウエイトが大きい銘柄を中心に売られ、米株式相場の上値を重くしている。米株式市場、米連邦準備理事会(FRB)の利上げへの警戒感も広がる。「9月にも利上げの可能性がある」との見方が広がり、成長期待から買われていた新興企業が大きく売られる例も目立つ。

一方、円相場も1ドル=123円前後の横ばい圏内で推移。これ以上の円安は期待できない。黒田東彦日銀総裁が6月上旬に国会で「ここからさらに円安に振れることはありそうもない」と為替相場水準に異例の言及。米国で円安ドル高に対する警戒感が出ていることや輸入物価高など日本の実体経済に及ぼす負の影響に配慮したものだ。

◆IMF、これ以上の円安をけん制

国際通貨基金(IMF)は7月下旬に発表した対日年次報告の中で、「円安が進むにつれ日本企業の国際競争力は高まったが、輸入が縮小した」とし、「決断力ある構造改革を伴わない追加的な量的緩和は、国内需要を委縮させるだけでなく、円安への過剰依存をもたらし兼ねない」とけん制した。

公共事業への財政支出も、13年度こそ補正予算を含め大幅な伸びとなったが、14年度は伸びが大幅に鈍化、今後も国地方を通じた財政余力の縮小や建設労働者需給のひっ迫などにより期待薄だ。

アベノミクスは世論調査の内閣支持率と株価上昇の2枚看板によって支えられてきた。ところが一時60%超あった支持率は安保法案の強引な推進によって30%台に低下、株価も頭打ちとあって安倍政権の経済政策、アベノミクスは正念場を迎えていると言えよう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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