<マイナンバー導入まで半年(下)>企業の大半が未対応、IT企業は特需に沸く―費用対効果も不透明

八牧浩行    2015年7月4日(土) 23時1分

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マイナンバーの情報漏れ懸念について、内閣府は「番号は暗号化してやり取りする仕組みなので、個人情報が外部に芋づる式に流出しするようなことはない」と説明するが、「保管されたサーバーが遠隔操作ウイルスに感染し情報流出につながる」との危惧も根強い。資料写真。

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内閣府の担当者は「マイナンバー制度の対象になる個人情報は、1カ所のデータベースにまとめて保管せず、従来のように、担当の行政機関ごとに分散してサーバー管理する。マイナンバーを介して別の機関の個人情報と結び付ける時には、番号は暗号化してやり取りする仕組みなので、紐付けされた個人情報が外部に芋づる式に流出したり、個人番号が漏れたりするようなことはない」と説明する。ところが「保管されたサーバーが年金機構の情報漏れのケースと同様、遠隔操作ウイルスに感染し、情報流出につながる可能性は大きい」と専門家は危惧する。

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さらに、特定の人のマイナンバーを手がかりに行政機関や企業のシステムに侵入し、その人の個人情報を盗み出すことも可能になってしまう。マイナンバーは勤務先に教える必要があり、「見える番号」として他人に知られる機会が多いため、流出したり不正に取得されたりすることも懸念される。

甘利明社会保障・税一体改革担当相は、来年一月のマイナンバー制度導入はスケジュール通りに実施することを明言したものの、年金分野へのマイナンバー利用については「今回の事件をしっかりと検証し、その上で対処したい」と延期を示唆した。

マイナンバーの導入費用は初期投資だけでも約3000億円に上るが、財政メリットなど費用対効果を発表していない。マイナンバーの経済効果は2兆7000億円以上に上るとの試算もあるが、これは金融への利用範囲の拡大が大前提。資産の正確な把握により税や年金保険料の徴収漏れを防ぐのが狙いである。銀行口座とマイナンバーの紐付けが可能となれば所得や資産を把握しやすくなる、口座への紐付けはあくまで「任意」。大手銀行の担当者は「10億件もある口座と番号を任意で紐付けることなど到底不可能だ」と指摘する。銀行口座のひも付けができなければ、効果も疑わしくなる。

こうした中、データ管理システムを構築・運用するIT企業はマイナンバー特需に沸いている。自治体や企業の準備作業は膨大。マイナンバーは政府が構築する「情報提供ネットワークシステム」を核に、都道府県や市区町村、健康保険組合など、約8000組織の情報システムがつながる。さらに企業や医療機関も連係するため、官民を挙げてのシステム整備が必要となる。

 

市区町村が住民に番号の通知を始めるのは今年10月。全国の企業や金融機関、自治体は情報システムの開発や改良に追われている。準備作業は膨大で、マイナンバー対応のためにシステム開発業界全体で2兆6000億円を超える特需が発生すると試算されている。 

◆拙速避け安全策に万全を

 2016年1月の正式スタートまで半年。国民の生活や企業活動に深くかかわるマイナンバー制だが、実態を知らない人も多く、周知徹底されているとは到底言えない。マイナンバーの周知不足も深刻で、企業の大半が十分に対応していない。6月時点の企業アンケート調査によると、システムの改修などに「すでに取り組んでいる」や「計画中」の中小企業の割合は3割以下。7割超は着手もしていない。「制度自体がわからない」「何をすべきかわからない」と回答した企業もほぼ半数に達している。肝心の自治体の中にも、「マイナンバーに万全を!」と呼びかけだけして、実際はほとんど動いていないところも多い。

 

 マイナンバーの理解が広がらない背景には、その仕組みや効果が不透明な上に、企業に様々な負担を求めていることがある。源泉徴収票や厚生年金の被保険者資格取得届などの法定調書には全てマイナンバーの記載が必要になるため、企業は従業員や家族の番号を正確に集めなければならない。本人確認や適切な番号管理の義務も課され、事務コストやデータの保護対策などの費用負担は避けられない。

 

政府は「情報の漏えいは我が国の安全保障・危機管理に影響を及ぼす」と懸念。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の監視対象を拡大し、新たな監視技術を開発する。国や地方自治体が使うシステム全体の監視体制を整備する方針も打ち出したが、このマイナンバー制度は個人に番号を割り振るため、大型のシステム投資が必要となる。同導入に当たっては、日本年金機構の情報漏れの原因の徹底的な究明がまず求められる。拙速は避け、官民が一致協力して安全で使いやすいツールづくりへ努力すべきだ。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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