アベノミクス「成長戦略」の目玉・農協改革は成功するか=反TPPの牙城・農協中央会の権限縮小―中国向け輸出を積極推進

八牧浩行    2015年3月13日(金) 9時3分

拡大

安倍政権が規制改革の主軸と位置づけた農協改革が先ごろ決着した。政府は農産物の流通の半分を握る地域農協の競争と創意工夫を促し、農業再生につなげたい考えだが、この農業改革が日本農業の構造改革や農家の所得向上につながるのか未知数だ。資料写真。

(1 / 2 枚)

安倍政権が規制改革の主軸と位置づけた農協改革が先ごろ決着した。日本の農業分野では、全国農業協同組合中央会(全中)が1954年の発足以来、農村票を武器に大きな発言力を示してきたが、大幅に権限が縮小されることになった。政府は農産物の流通の半分を握る地域農協の競争と創意工夫を促し、農業再生につなげたい考えだが、この農業改革が日本農業の構造改革や農家の所得向上につながるのか、未知数だ。

その他の写真

安倍政権は農協改革をアベノミクスの第3の矢「成長戦略」の目玉と位置づけ、並々ならぬ熱意を示した。農業を成長産業に変える戦略を描く。全中の統制力をなくして各農協の組合長の経営感覚を磨き、新しい農産物の開発を促す。中国をはじめとする国々への輸出など販売ルートの開拓にも期待する。

反対勢力が強かった自民党も農協改革を大筋了承。個別農協の経営の自由度を高める方針を表明した。

今回の農協改革により、2019年3月末までに全中が一手に引き受けてきた監査・指導権を廃止。地域農協などから監査料の見返りなどとして集めていた負担金(年間約80億円)も全廃され、任意の会費制となる。農協監査は公認会計士による外部監査に移行、地域農協の経営の独立性と透明性を高める。全中の監査部門は新たに監査法人として出発することになる。

行政に意見を述べる「建議権」もなくす。建議権は、かつては米価引き上げ闘争で農林水産省の審議会に委員を送り込んだり、農業予算の増額をめざして農相に会談を申し込んだりと、政治力の象徴とされてきた。農産物の集荷・販売を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)は株式会社に転換され、経営力のある農協が出資を増やして発言権を高めることも可能になる。農地を所有できる農業生産法人への出資比率も現行25%から50%未満まで広げて企業が参入しやすくする。

TPP交渉妥結も念頭に

TPP(環太平洋経済連携協定)も念頭に置いた。全中は全国の農協から指導・監査などの対価として年間約80億円を集めている。首相側は、全中がその潤沢な資金と動員力で、TPPに対する反対運動を繰り広げていることを問題視。TPP交渉が妥結へ向けて進展する中、全中の勢いをそぐ狙いもあり改革を押し切った。政権与党が昨年12月の衆院選で大勝し、首相の指導力が強まったのに加え、来夏の参院選まで大きな国政選がないこともあり、農林族を中心とする自民党内の抵抗も抑えられた。

 

安倍政権は12年12月に発足してから、段階的に農業改革を進めてきた。13年11月には、コメの価格を維持する「減反」(生産調整)の廃止を決定。14年春からは、専業農家に農地を集約する「農地バンク」を各地に設立し、農業の大規模化に道を開いた。

最後に残った農協改革の狙いは農協が自由に経営できるように改め、農家の所得を増やすことだったが、それが農業の活性化につながるか不確実だ。

これまで全中は「生産者代表」として政治家や官僚との調整を一手に担い、全中の方針に従わない農家に対しては厳しく対応してきた。「全中の重しがとれるだけでも創意工夫が図られ農業の活性化が期待できる」との見方もある。

 

ただ、農業の現場では課題が山積している。農地バンクが集めた土地は目標の1%にも達していない。減反廃止の代わりに導入した飼料米への転作支援も、手厚い補助金がいつまで続くか疑問視する農家が多く、初年度の作付面積はここ数年とほぼ横ばいにとどまっている。

12年度の農業生産額は約8.5兆円で20年前より2割近く減少。農家の平均年齢は65歳。全国で約1万2千あった地域農協は694に減った。全中はコメの価格を維持しようと生産調整の強化を求め、企業の農業参入や輸出を伸ばすことに消極的だった。意欲ある専業農家より、兼業農家や農家でない組合員を大切にしてきたとも言え、自立した経営を目指すには良い機会だろう。

ただ農政専門家の間では、「抜本的な改革ではなく農業の振興にも、農家の所得向上にもつながらない」との批判も根強い。「狙いはTPPに反対する全中に政治的な打撃を与えることと、成長戦略の成果として内外にアピールすることだろう」と冷ややかに見る声も多い。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携