<中国は今!>マカオ返還15周年なのに、主役は香港長官?=習近平主席と親しげに握手―香港・マカオ現地ルポ

Record China    2015年1月24日(土) 6時5分

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「中央政府はあなたと香港特別行政区政府を一貫してずっと支持する」(中国習近平国家主席)。習氏は12月下旬、中国返還15周年の祝賀行事に参加するためマカオ入り。その際、梁振英香港行政長官や香港政府の主要幹部と会見した。写真は「一国良制」を求めるスローガン。

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「中央政府はあなたと香港特別行政区政府を一貫してずっと支持する」。

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こう述べるのは中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席だ。習氏は12月下旬、中国返還15周年の祝賀行事に参加するためマカオ入り。その際、梁振英(リャン・ジェンイン)香港行政長官や香港政府の主要幹部と会見した。

習氏は会見場所に現れた梁氏を認めると、「よく来たね」と満面に笑みをたたえて、梁氏に近寄り親しげに握手。梁氏もうれしそうに笑みを返し、習氏の手を何度も握った。「まるで、この日の主役は崔世民(ツイ・シーミン)マカオ行政長官でなく、梁氏のようだった」と同席した香港政府幹部は語る。

習氏と梁氏は11月初旬にも北京で会っており、ほぼ1カ月に2回も会見するのは異例だ。しかも、習氏が梁氏を弟のようにもてなしたのは、9月下旬から香港の繁華街を占拠していた学生や民主派グループの強制排除に成功したからだ。

前出の政府幹部は、この事情を次のように明かす。

「習主席は前回の会見で梁氏に『12月20日の返還15周年記念日にマカオに行く。その時までに学生らを排除しなければ、君とは会わない。何としてでも運動を終わらせろ』と厳命したのだ。梁氏は『運動を終わらせなければ、クビが飛ぶ』と震え上がり、警察トップを呼びつけて、『何としても学生らを排除しろ』と命令。さらに、中国政府幹部とも相談して、中国の諜報組織である国家安全部や武装警察部隊、中国人民解放軍も協力を要請したほどで、まさになりふり構わぬやり方だった」。

梁氏は11月25日、約3000人の警官隊を動員して、強硬派の多い九竜地区の旺角(モンコック)のデモ隊の強制排除に取り掛かり、200人近くの負傷者を出しながらも鎮圧に成功。12月11日には最大の占拠現場である香港島・金鐘(アドミラルティ)でも7000人もの警官隊を配備してバリケードなどを撤去、座り込みを強行する学生や民主派人士ら一人一人を数人の警官で抱え上げて現場から排除、逮捕した。15日には最後に残った銅羅湾の占拠地区でもデモ隊を強制排除。梁氏はかろうじて習氏が定めた20日までの期限を守ることができた。

だが、マカオ入りした習氏が学生らの反撃を警戒していたのは間違いない。筆者は20日、香港からマカオに入ったが、税関では厳重警備体制が敷かれており、バッグや手荷物などは徹底的に調べられるなど、厳重なセキュリティチェックで長蛇の列ができていた。

この日は民主派学生や民主化指導者20人がマカオ入りしようとしたが、香港当局はマカオ行きのジェットフェリー搭乗を拒否。マカオ当局も税関で民主派学生らをブラックリストでチェック、同姓同名の1歳の赤ちゃんや80歳の老人を含む100人以上がマカオに入れなかったほどだ。

さらに、習氏が専用車から降りると、即座に目つきの鋭い屈強な若い男性ボディガード8人が習氏の回りを固めるという物々しさ。習氏はよほど学生が怖かったのか、マカオ大学を訪問した際も、習氏と面会する選ばれた学生以外はキャンパスから締め出すという徹底した警戒ぶりに他の学生から「マカオ大学は我々の大学であり、習近平の大学ではないはずだ」との抗議の声が起きたほどだ。

「習氏がこれだけ警戒するのは、香港の民主化運動が中国本土に浸透することを恐れているからだ。習氏はこれを機に、香港の民主化運動を根絶やしにしようと考えているに違いない」。

こう語るのは世界有数のチャイナウォッチャー、林和立(ウィリー・ラム)香港中文大学教授だ。

その一つの方法が今回の強制排除で逮捕された1000人近い学生ら運動活動家の政治的権利の制限だ。香港警察トップの曾偉雄(アンディ・ツァン)香港警務処処長(警察庁長官に相当)は「処分保留で釈放された1000人の逮捕者の取り調べを最優先し、3カ月以内に処分を決める」と発言し、逮捕者の政治活動の禁止など法に則って定めることを示唆。

「すでに、香港では民主派指導者らは当局の監視下にある」と林氏は指摘する。

民主派寄りの立法会議員(国会議員に相当)がいつも不審な車で尾行されたと警察に訴えたところ、逮捕されたのは中国籍の男2人だったが、すぐに釈放され、姿を消したという。

今回の「雨傘革命」の立役者の一人、17歳の学生、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんは今年4月、台湾の学生運動を支援するため、友人数人と台北を訪問。現地でホテルを決めたが、その際、部屋で「命を大事にしろよ」との脅迫電話を受けた。しかも、それは外線電話でなく、ホテルの内線電話を使っていた。彼は「香港から尾行してきたとしか考えられない」と憤る。

中国当局が最も恐れているのが、反中的な姿勢を貫く現地紙「リンゴ日報」の創設者、黎智英(ジミー・ライ)氏だ。中国当局は今回の運動の背後に「海外の民主派勢力が潜んでいる」と言いはやす。中国系テレビ局ATVの劉瀾昌(リウ・ランチャン)高級副総裁(報道・広報担当)は「黎氏が2億5000万香港ドル(約37億5000万円)もの金を寄付したことは事実だが、その金がどこから出たかは明らかにしていない」と指摘し、米政府系民主化団体が資金源であることを示唆した。

黎氏は占拠運動で逮捕されたあと、同紙社長を辞任し、台湾に渡った。劉氏は「彼の経済基盤が危うくなっている。このままだと、社会的に葬り去られることも考えられる」と予測する。

「香港民主化の良心」とも呼ばれる民主党創設者、李柱銘(マーチン・リー)氏も逮捕され処分を待つ身だ。彼も「いつも誰かに監視されているような不気味な気配を感じる」と語る。

前出の林氏は「香港では中国の影響力が強くなっており、個人の自由が制限されている。この状態が進めば、香港はチベット自治区や新疆ウイグル自治区と同じような状態になることも考えられる」との危惧を口にする。香港ではチベットなど両自治区同様、すでに100万人もの中国人が移住しているほか、香港株式市場上場1500社のうち4割を占める600もの中国企業が香港に進出し、政治的にも、経済的にも中国による香港支配が進んでいる。「まさに香港のチベット化だ」と林氏は警戒する

習氏はマカオ返還15周年記念式典で、「中国政府は香港、マカオの『一国両制』(1国における社会主義と資本主義の共存)を守るが、1国の原則を堅持しなければならない」と述べて、香港とマカオの管轄権は中国政府にあるとの原則を改めて強調した。これは、香港などが中央政府の意向に従わない場合、一国両制を破棄することもできるという立場であり、香港の民主化を牽制する狙いがある。

運動の最後の拠点となった銅羅湾は香港最大級の繁華街で、クリスマスを控え、多くの人々で埋め尽くされ、運動の余韻は全く感じられなくなっていた。

だが、筆者は人々が忙しく行き交う町の片隅にある変圧器のカバーに書かれたスローガンを見つけた。そこには「打倒一国両制、我要一国良制」と書かれていた。香港に「一国良制」が根付く日が果たして来るのだろうか。

◆筆者プロフィール:相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。

著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。

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