<追求!膨張中国(5)>米国との「新大国関係」へまい進=オバマ大統領、「米中協力はアジア重視戦略の核心」と呼応―北朝鮮・中東でも協調へ

八牧浩行    2015年1月4日(日) 7時21分

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北京で2014年11月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習近平政権は、太平の世に多くの国が訪ねてくる「万国来朝」を演出。国家の威信を内外にアピールすることを狙った。最も重視しているのは対米関係である。資料写真。

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中国・北京で2014年11月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習近平政権は、太平の世に多くの国が訪ねてくる「万国来朝」を演出。国家の威信を内外にアピールすることを狙った。この期間中だけ青空を取り戻した「APECブルー」の空の下、花火打ち上げをはじめ2008年の北京五輪以来となる派手な歓迎式で、習国家主席は満面の笑みをたたえて、オバマ米大統領をはじめとする21カ国・地域首脳を迎えた。

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習主席は域内の経済圏づくりやインフラ投資を主導する野心を隠さず、「アジアの盟主」としての存在感を国内外に誇示。連日、各国首脳と精力的に会談し、韓国と自由貿易協定(FTA)交渉で妥結し、カナダとは金融協力を決めた。約3年にわたり途絶えていた日本との正式な首脳会談にも応じた。

中国での前回のAPEC開催は2001年。当時、米国の8分の1、日本の3分の1の規模だった中国経済は、いまや日本の2倍に達し、OECD(経済協力開発機構)やIMF(国際通貨機関)によると米国を10年以内に追い抜く見通し。中国の急速な台頭は国際秩序の変革を迫る。

◆10時間に及んだ蜜月会談

習主席はAPEC後、オバマ大統領を約5時間にわたって夕食でもてなし、翌日さらに正式な会談を行った。2日間で食事も含め10時間に及んだ会談後、両首脳は異例の共同記者会見を行い、温暖化対策への取り組み、軍事衝突を回避するための危機管理策、テロ対策、北朝鮮の非核化、エボラ出血熱封じ込め策―など多岐にわたる合意事項を披露。このうち、温暖化対策と軍事衝突防止策は画期的成果であると強調した。

オバマ大統領は共同会見で、「米中協力はアジア重視戦略の核心だ」と明言、従来より踏み込んだ表現で対中関係を重視する姿勢を示した。習主席は「我々は引き続き、『新しい形の大国関係』の構築に力を注ぐことに同意した」と語り、「アジア太平洋地域の安全に中国と米国が協力して貢献するべきだ」と力説した。

 

米国と中国の関係は一見対立しているように見えて、水面下で手を握り合っているのが実情。米国は、中国の海洋進出やサイバー攻撃などを問題視し、国際政治経済の各種ルールの順守を中国に期待しつつも、「中国を封じ込めることはしない」(ケリ―国務長官)と明言している。

米中は大規模な戦略・経済対話を毎年開催しており、昨年7月上旬に北京で開催した戦略・経済対話には多くの主要閣僚とイエレンFRB(連邦準備制度)議長ら百人以上が出席、(1)中国は事情により為替介入を削減する一方、米FRBは金融緩和の対外的影響に配慮する、(2)情報技術合意を拡大し、相互投資協定について交渉を進展させる、(3)エネルギーや大気汚染、地球温暖化問題での協力―などで合意した。

中国は米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。

◆軍事面でも協力

米国は14年夏に米ハワイ諸島沖で行われた米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国を初めて招待、同国は駆逐艦や病院船など4隻を派遣した。ハワイでは海軍だけでなく、陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流もスタートした。

米中にとって共通の外交課題は朝鮮半島の非核化。外交関係筋によると、米国は「核開発を放棄して生き残るか、核開発を続けて崩壊の道を歩むのか」との選択を北朝鮮に迫るべきだと中国に要請、原油の供給をストップするよう求めたという。核開発継続や北朝鮮の親中派改革開放論者・張成沢氏の粛正などを問題視した習主席がこれに呼応。石油の供給を極端に絞ったことが中国の貿易統計で明らかになった。習主席は朴槿恵韓国大統領と蜜月関係にあり、慣行を覆し韓国を北朝鮮より先に訪問した。米中は「韓国による朝鮮半島統一」の方向に舵を切ったとの見方さえ出ている。

昨年末、ソニーの米映画子会社の新作上映がサイバー攻撃などで中止に追い込まれた問題で、米国は中国に協力を要請、王毅・中国外相はケリー米国務長官との電話で、北朝鮮のサイバー攻撃を批判、協力を約束した。このほか、米国は手を焼いているイスラム国、イラン、アフガニスタンなどの問題でも中国に協力を要請している。

日本では米国の「アジア重視」表明や米軍の「太平洋回帰」を「対中包囲網の一環」と捉える向きが多いが、米政府は「対中封じ込めは行わない」と明言。米国にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、軍事費の削減と、世界最大の中国消費市場の取り込みが不可欠。これに加えて、中国は米国債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。「米中協力はアジア重視戦略の核心だ」とオバマ大統領が明言したように、米国の「アジア重視」は「中国重視」と置き換えることができる。

中国は16年のG20(20カ国首脳会議)の誘致に成功、この重要会議でも「万国来朝」の機会をフルに活用して、存在感を誇示することになろう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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