八牧浩行 2022年1月20日(木) 7時20分
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今年は日中国交回復50周年に当たる節目の年。林芳正外相、王毅外交部長(外相)が両国の外交のリード役を担うが、両氏とも相手国を熟知した「親中」「親日」と目されている点で共通する。写真は林外相と王外相
今年は日中国交回復50周年に当たる節目の年。林芳正外相、王毅・中国国務委員外交部長(外相)が両国の外交のリード役を担うが、両氏とも相手国を熟知した「親中」「親日」と目されている点で共通する。
ただ、日中双方とも、国内には相手国に対する強硬勢力が根強く存在し、「弱腰」と受け取られる言辞や行動を封印せざるを得ない。外交交渉にも「毅然たる態度」で臨み、「タカ派」を演じている。
◆林外相「媚中ではなく知中派」
林外相は、ハト派の伝統がある宏池会に所属、日中友好議員連盟会長を務めるなど、一部からは「親中派」とも言われている。昨年11月の外相就任に当たり、「職務遂行にあたって無用な誤解を避けるため」として同連盟会長を辞任した。「米国の中で知日派という言葉があるように知中派であってもいい。媚中ではいけない」と述べ「知中派」を標榜している。
1月13日、林芳正外相が日本記者クラブで記者会見した。中国との関係について、「隣国であるがゆえに様々な問題があることを踏まえた上で対処する必要がある」と指摘。中国の南シナ海や東シナ海での行動や軍事力拡大や人権問題など、「主張すべきは主張する」と力を込めた。その上で、日中関係は両国だけでなく地域・国際社会の平和と繁栄にとってますます重要になっている」と強調。「対話をしっかりと重ねて責任ある行動を強く求めていく」方針を明らかにした。
また対中外交方針について、かつて林氏が「大国間の大人の関係」を提唱したことがあることを紹介。中国は経済的にも大きくなり大国としての責任ある行動が求められると語った。「大人の関係」の手本として、「安倍政権の時に日中が『戦略的互恵関係』を結んだこと」を挙げた。「戦略的互恵関係」は日中両国がアジア及び世界の平和・安定・発展に対して共に建設的に貢献する責任を負うとの認識の下、二国間、地域、国際社会での協力を通じて、互いに利益を得て共通利益を拡大し、日中関係を発展させる関係を指す。未来志向で歴史問題を棚上げし、相互の「利益」の拡大を追求するものである。
◆大平元首相が提唱した「楕円の理論」
さらに宏池会(岸田派)の創始者、大平正芳元首相が提唱した「楕円の理論」を紹介、「何とか一つの楕円にする努力しなければならない」と言明。米中の覇権争いが激化する中、日本としてバランスをとる必要性をアピールした。
大平氏が唱えた「楕円の理論」は調和の道を探る外交理論。林氏は「外交はほとんどの場合、相矛盾するような課題が出てくるが、大平総理は、両立の難しいことを(別々の)二つの円にたとえ、一つの楕円にする努力をしなければならない。好きな言葉だが、外務省に来て、言葉の重みをかみしめている」と語った。
自身の座右の銘を「不易流行」と紹介。「変えるべきことを変え、しかし変えてはならないところを守る。その境目をどうやってしっかりと見極めるかが大事だ」と語った。その上で「変化の激しい世界情勢の中では重心を低くして(全方位に)対応する必要がある」として「低重心外交」を目標とする方針を明らかにした。
◆中国特有の複雑な事情
一方、中国の王毅外相。駐日大使をつとめた親日派だが、王毅外相の経歴と行動をフォローすれば、中国特有の複雑な事情が浮かび上がる。
中国公船が尖閣諸島の領海に侵入し、日本政府が抗議を繰り返し、両国関係の冷え込みが長期化する状況で、日本にいい顔をすれば、国内で批判を浴びることも覚悟しなければならない…。「元駐日大使=日本通」としての深謀遠慮があるのだろう。
中国共産党や軍部の一部に反日機運が消えないなかで、王毅氏の経歴と行動は、「日本びいき」と指弾されかねない。1953年生まれの王毅氏は、高校卒業後の1969年から8年間、黒竜江省で「下放」を経験する。その後、25歳で北京第二外国語学院に入学し、日本語を専門に学んだ。29歳で中国外交部入りした苦労人だ。王毅氏は外交部で日本部門を中心に頭角を現し、2004年9月から2007年9月21日まで駐日中国大使を務めた。
筆者はこの間に度々、個人的に取材したことがあるが、極めてタフでアグレッシブだった。「日本部門は(外交部で)長らく不遇だったが、ようやく活躍できるようになった」と明かし、「日中関係改善へ尽力したい」というのが口癖だった。
赴任した2004年当時は、小泉純一郎首相の全盛時代。首相の靖国神社参拝問題がくすぶり、日中間には微妙な問題が影を落としていた。
「一人さえ辞めれば後はうまくいく」と、王毅氏は筆者に話したことがある。「一人は誰?」と訊いたら、小泉首相のことだった。用意周到に様々な情報を調べ上げていた。
◆王毅外相「日本が好きだ」
日本語、英語が堪能で、持ち前のフットワークを多方面で発揮。様々なパーティやシンポジウムで出会ったが、陽気に筆者に話しかけ、日本の政財言論界にもネットワークを広げていた。「日本が好きだ」と言っており、日本人の「王毅ファン」も多かったように思う。
2006年9月、小泉首相が任期満了で退任。後継の安倍普三首相は、小泉氏の靖国参拝問題のために途絶えていた、中国への首相の訪問を同年10月に実現。首相就任後の初外遊となり、北京で胡錦濤国家主席と会談。戦略的互恵関係構築で合意した。安倍首相の中国訪問や合意文書交渉などでは、駐日大使として奔走。安倍首相や政財界首脳クラスとも良好な関係を築き上げた。
王毅氏の趣味はテニスで、東京・麻布の中国大使館の正門を入った右奥にテニスコートがある。大使時代には在京外交団などとよくテニスを楽しんでいた。日本を含む先進・途上の各国と協調する姿勢は明白だった。
林芳正外相と王毅外相は昨年11月18日、初めて電話で会談した。林氏は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や東シナ海、南シナ海、香港や新疆ウイグル自治区の状況に対する「深刻な懸念」を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性にも言及し、こうした問題などで対話や協議を重ねたいとの意向を伝えた。日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃も要請した。
一方で林氏は、来年が日中国交正常化50周年であることにも言及し、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築など、10月の日中首脳電話会談で一致した共通認識を実現するため、ともに努力したいとの意向を伝達した。これに対し王氏も賛意を示し、経済に関して対話と協力を推進することで一致した。このほか気候変動や北朝鮮情勢についても意見交換。林氏は北朝鮮による日本人拉致問題の即時解決に向けた支持も求め、連携を確認した。
逆風が吹き荒れる中、まさに正念場である。相手国に対する深い理解と豊富なネットワークをもつ「二人の外相」には、相手国を熟知している「特技」を生かし、不退転の決意で本来の平和友好を進めてほしい。まず国交回復50周年の今年、トップ会談を実現することであろう。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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