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<インタビュー>中国膨張主義は脅威、「平和的台頭」目指せ―河合正弘・アジア開発銀行研究所長(3/3)

配信日時:2010年10月12日(火) 5時16分
<インタビュー>中国膨張主義は脅威、「平和的台頭」目指せ―河合正弘・アジア開発銀行研究所長(3/3)
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河合正弘・アジア開発銀行研究所長はインタビューの中で、アジア各国は中国の膨張主義に脅威を抱いており、中国にとって必要なのは、国際社会と調和のとれた「平和的な台頭」だと強調した。
河合正弘・アジア開発銀行研究所長はインタビューの中で、アジア各国は中国の膨張主義に脅威を抱いており、中国にとって必要なのは、国際社会と調和のとれた「平和的な台頭」だと強調した。(聞き手・八牧浩行Record China社長)

―中国は電気自動車、電子ブックなどに力を入れており、新幹線など海外にも進出しようとしている。13億人がまとまり、東アジアが安定すれば日本にとっても、有益だと思う。平和共存と相互経済発展も可能となりますね。河合所長は「平和と安全を考えるエコノミストの会」でも座長としてまとめられていましたが、世界の経済成長センターであるアジアのパワーを取り入れるべきですね。成長センターのすぐ隣という地の利もあります。

日本人は中国人と漢字文化、儒教文化を共有しており、その点有利です。地理的な近さ、考え方の近さを最大限利用していかない手はありません。日本は中国と投資協定を含む経済連携協定(EPA)を結んで、成長しているダイナミックな市場に様々なモノやサービスを売り込める態勢を整えていくことが必要です。同時に、中国の市場に進出して行って、市場ニーズにあった製品やサービスを開発していくことも、もっと大々的に始めていいでしょう。ただ、今回の尖閣諸島をめぐる問題からも明らかになったように、日本がレアアースの供給など中国に過度に依存してしまうのは好ましくありません。市場や供給先を多様化しつつ、中国との経済関係を深めていくことが重要です。

日本で普段気づかずに使っているものの中には非常にいいものがたくさんあります。日本人がいいと思ったものは、中国でも売れるはずです。

―弊社グループで中国語サイト「Record Japan」をスタートさせましたが、読者は日本の新製品、技術、漫画・アニメ、観光などに関心がある。日本人の多くは世界2位の座から転落したと意気消沈しているが、自信を持つべきですね。

たくさんの中国の人たちに日本に観光に来てもらって、リピーターを増やしたいですね。中国の観光会社が旅行代金を高く設定したり、不当に追加料金をとっているというニュースもあるので、日本のイメージをこわさないためにも是正が必要です。

―今度、規制が緩和されて日本の業者が業務できるようになりますね。

中国人観光客が増えることを期待しています。もっと一般の人々のレベルで交流して、ビジネスマンや学生などが相互に行き来すれば、お互いによいところもわかるし、文化面での理解も深まります。

一底辺を広げる努力が必要ですね。

人間と人間の接触が一番です。「東京・北京フォーラム」のアンケート調査の結果をみると、日本人で中国に行ったことのある人の割合は14.5%だが、中国人で日本に来たことがある人は0.6%ぐらいで、はなはだしい差がある。中国は人口が大きいから、それを勘案して10分の1の人口が旅行人口と考えても6%ぐらい。中国人にもっと日本に来て日本のことを知ってもらうことが大事です。中国人のもつ日本についてのイメージは、教科書やテレビ番組、映画などからつくられているようです。当然、第2次大戦中の出来事が多くカバーされているし、テレビ番組によく出てくる日中戦争時のドラマでは日本人は「鬼」と扱われている。

―残留孤児の話を聞くとそうですね。

中国人に日本人の普通の生活を見てもらいたい。日本人は本当に「鬼」なのかどうか、今の現実を知ってもらいたい。

―人材をもっと交流させればお互いに必ずファンになる。

日本の家計部門には1450兆円という膨大な金融資産があり、うち800兆円が現預金として眠っています。これをもっと動かして、アジアの膨大な投資ポテンシャルを活用することも大事だと思う。

―投資効果も上がってきますね。国債に投資するよりいいですね。安全を買う傾向が強いが、もっと外に向かうべきでしょうね。もっと外に出て行って投資をしてアジアの東京を世界の投資センターにしなければなりませんね。

東京をしっかりしたアジアの国際金融センターにして、日本のカネがアジアに回るにはどうしたらよいかをもっと真剣に考えていく必要がある。それに、アジアから日本に役立つ人材を取り込むことも重要です。フィリピンやインドネシアの介護士、看護士の中には日本に来て働きたいという若い優秀な人材がたくさんいるにもかかわらず、「産褥」など難しい言葉の壁をつくって彼らを排除しようとしている。彼らはある程度の日本語や英語ができ、コミュニケーション能力があるのに活かそうとしていない。

―役所の規制の弊害ですね。

アジアの人材を日本に呼び込むことは、親日家を増やすことにつながり、広い意味で日本の安全保障にもつながります。それなのに、日本は扉を閉ざしている。アジアと一緒になってやっていくべきことはたくさんあります。

―円高ドル安ユーロ安をどうみているか。1930年代の「通貨安による保護貿易時代」の再来ではないか。各国が不況を脱するため、通貨切り下げ競争の要素はあるのか。日本がターゲットになりつつあるのかもしれない。

世界経済の様々な動きや政策が結果的に円高につながっていて、日本がターゲットになっているわけではないと思う。2010年代は1930年代と決定的に違います。主要国がG20サミットに参加して国際協調を進めており、保護主義政策はとっていません。

中国は例外ですが、G20参加国の大半が為替をフロートさせています。ドルとユーロが通貨安になっていますが、意図的に為替を切り下げて輸出しようということではない。日米欧の経済状況と経済政策の結果が円高に結び付いていると思います。欧州では、春以来のギリシャの財政問題から経済回復に陰りがみえ、ユーロ安が進んだ。米国では、バーナンキFRB議長がこの7月に行った米経済の見通しについて「異常に不確実だ」と発言し、金融政策の出口への動きをストップさせ、必要があればさらなる金融緩和を行うという強いメッセージを出しました。それがドル安・円高基調をつくり出したのですが、それに対する日銀の白川総裁の当初のメッセージが市場から見ると弱かった。日本はデフレが続いているなか、円高はデフレを悪化させるので断固対応しなくてはならないという強いメッセージを出せないまま、円高になってしまったのではないか。

―そうですね。問題がありますね。マーケットが織り込んでいることをやっても仕方がない。

今ぐらいのデフレなら差し支えないという態度をとるのではなく、やはりデフレは問題でそこから何とか脱却しなければならない、円高はデフレを深刻化させるので良くない、円高に振れるファンダメンタルズ(基本的な条件)はないので円高には断固対処しなければいけない、というメッセージを打ち出すべきだった。

結局、政府・日銀が円高阻止のための為替介入を行いましたが、これは評価に値します。第一に、円レートは実質実効ベースでは1995年の円高ピーク時と比べるとまだ25−30%程度の円安ではあるものの、企業がこれまでの円安に慣れ過ぎていたことから、急激な円高への対応が難しい局面だった。第二に、民主党の参院選での敗北や党代表選挙など政治的な空白があり、新成長戦略の実行も遅れているなかで、今回の円高に対応しないと現政権は「無策」だと見透かされ、さらなる円高に向かうリスクがあった。第三に、今回の介入は急激な円高を是正して為替レートの動きをスムーズなものにさせるもので、中国が行っている、人民元レートを過小評価させたまま対米ドルレートの安定化をめざす為替介入政策とは根本的に異なる性格のものです。

今回の為替介入は不胎化(介入によって市中に供給された資金を日本銀行が吸収すること)を直ちに伴うものでなく、この点でも評価できます。いずれにしても、政府と日銀が連携して政策対応を行うことが重要です。その意味で、日銀が10月はじめに打ち出した一段の金融緩和は遅すぎた感もありますが、よい方向です。

―グリーンスパン元FRB議長でもバーナンキ議長でも毀誉褒貶はあるが財務省首脳と食事などしょっちゅうしていますね。

大人の関係で食事をしながらフランクに意見交換することが大事だと思います。

―日本がアジアと共に成長戦略をとりながら成長していくと同時に、財政再建を進めることも課題です。

なるべく早く、対アジア連携を軸にした新成長戦略にとりかかってもらいたいですね。そのためには、対アジア連携のネックになっている農業はじめ多くの分野で規制改革が必要です。農業では、1兆円に上ろうとする戸別所得補償制度が動いていますが、同じ金額を使うなら、専業農家がしっかりと一人立ちできるよう足腰を強くする方向に使うべきだと思います。ウルグアイラウンドでコメの市場開放を行ったときは6兆円も使ったが、その成果は目に見えていません。アジアには、日本のリンゴ、メロン、うまいコメを食べたいという消費者がたくさんいるので、農業の生産性を高めていくことのメリットが大きいと思います。大胆な改革を断行して、少子高齢化に対応していかないと失われた20年が30年になってしまう。そうなると、財政再建もできず、日本経済はまさに沈没をはじめてしまいます。

―尖閣諸島をめぐる紛争が起き、日中両国間の軋轢が高まっているが、どのように打開すればいいでしょうか。

尖閣諸島をめぐる領土問題では、日中の基本的な立場が完全に異なっています。日本政府は尖閣諸島を歴史的にも国際法上も日本の領土だと位置づけており実効的にも支配している一方で、中国政府は中国の領土だと主張しています。日本の立場は、日本政府は1895年に無人島であり清朝の支配下にもなかった尖閣諸島を自らの領土として編入、その後1951年のサンフランシスコ条約で沖縄の一部として米国の施政下に入ったが、沖縄返還協定に基づき1972年に日本に返還されたというものです。その一方で、中国は周辺海域に石油が存在する可能性が指摘され始めた1970年代に釣魚島(尖閣諸島の中国名)の領有権を主張しはじめ、1992年に領海法を定めて自国の領有と明記したのです。中国にも言い分はあるでしょうから、お互いが議論を尽くすべきです。

ただ、今回の中国の力ずくのやり方を見て、日本の国民の間で中国への信頼感が損なわれた、中国との経済連携など進めるべきでない、日本は独自の軍事力を強化して中国と対抗すべきだという意識が高まるとすると不幸なことです。中国は尖閣諸島だけではなく、南シナ海の西沙諸島・南沙諸島海域の領有権についても「核心的利益」としてとらえ、膨張主義の脅威をASEAN周辺諸国はじめ広く国際社会に感じさせています。これは中国にとっては得策ではありません。中国にとって長期的に利益になるのは、国際社会と調和のとれた「平和的な台頭」です。

東アジアは世界の成長センターであり、それが世界経済の安定と成長を支えています。日中関係が不安定なものになると、東アジア地域のダイナミックな経済発展が阻害されかねません。日中両国は東アジアの安定と発展に責任を負っているという共通の認識をもって大局的な観点から、領土問題をこえて協調しウィンウィンの関係を再構築していくべきです。(完)

河合正弘(かわい・まさひろ)
1966年県立静岡高校卒業、1971年東京大学経済学部卒業、1973年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、1977年米スタンフォード大学大学院経済学研究科博士課程修了、1978年同大学経済学博士号取得。同年ジョンズ・ホプキンス大学政治経済学部助教授、1986年東京大学社会科学研究所助教授、1993年同教授、1998年世界銀行東アジア大洋州地域担当チーフエコノミスト、2001年財務省副財務官、2003年財務省財務総合政策研究所長。2005年アジア開発銀行総裁特別顧問、2007年アジア開発銀行研究所長。『国際金融と開放マクロ経済学――変動為替レート制のミクロ・マクロ分析』(東洋経済新報社)、『国際金融論』(東京大学出版会)、『アジアの金融・資本市場―自由化と相互依存』(共編者、日本経済新聞社)など著書多数。62歳。
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