Record China 2008年9月2日(火) 18時44分
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今回の北京五輪で印象に残ったスポーツシーンはいくつかあるが、シンクロは確実にその一つだ。写真は銀メダル獲得を祝う中国チームと井村コーチ。
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■■■■■2008年9月1日■■■■■
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以前、シンクロナイズドスイミングの中国代表ヘッドコーチ、井村雅代さんと北京市内の景山公園にご一緒したことがある。五輪まで、まだまだ時間があるころだったので、「最後のほっと一息」だったのだろう。非常にリラックスした表情で観光をしてらっしゃった。
景山公園は、あの「ラストエンペラー」の紫禁城を上から見下ろすことができる。井村さんは、北京ならではの、きっちりと左右に対称に立ち並んでいる建物群を見て、その「センターライン上」に立ちながら、「私は真ん中が好き。ぴしっと揃っていないと腹が立つのよ」と笑っておられた。そのとき、私は「この方は根っからのシンクロ人間だなあ」と思った。
今回の北京五輪で印象に残ったスポーツシーンはいくつかあるが、シンクロは確実にその一つだ。ただ、あの中国が銅メダルを取ったチームのフリールーチンは、別会場にちょうど移動中だったため、残念ながら、生で見ることができなかった。私はそれでも、何とか試合を見たいと、最寄の地下鉄駅でタクシーを降ろしてもらった。北京の地下鉄では大会期間中、ずっと街頭テレビが各所に置かれ、大会の様子を見ることができたのだ。
ちょうど中国代表の演技が始まっていた。長い足が見事に生えるスピン、天性の体が作り出す迫力はテレビでも伝わってきた。音声は聞こえないが、映像から、会場中が声援で後押ししていることは分かる。演技が終わって、井村コーチの姿が画面に映った。本当に優しい笑顔を浮かべながら、選手一人ひとりを抱きしめておられた。
結果は銅メダル。日本が初めてメダルを逃したこともあり、「中国が日本を押しのけてメダル」などという見方をする人もいる。
だが中国代表のコーチであるからには、もちろん日本にも負けたくないだろうが、ロシアにもスペインにも負けたくないのが当たり前だ。中国チームの全ての才能を引き出して、最高の成績に引き上げるのが彼女の仕事であり、「日中で火花」「裏切り行為」などと、ことさらに強調する一部の人は、何ともスケールが小さいものだと感じる。
試合後の井村さんのコメントを聞いて、「らしい」と感じた。彼女は、泣きじゃくる選手たちを横目に、まったく涙を流さなかったそうだ。そして「今はまだ涙を流すときではない。これは私にとって、驚きでも喜びでもなく、目標だったからだ」と語ったとのこと。
井村さんは中国代表の選手たちに12時間の猛烈なトレーニングを課した。食の細い選手たちに筋肉をつけさせようと無理やり食べさせた。選手たちに「日本流」の“あいさつ”の心を植え付け、スポーツ選手としての精神面を鍛えた。そして、大切な愛弟子を涙を飲んでメンバーから切り、故郷へ帰らせたこともあった。
全ては「メダル」という最高の喜びをもたらすためだった。
そして、それは、中国選手が天性に持つ有り余る才能を引き出し、豊かな身体能力を存分に生かして、最高の「結果」を出すためだった。
井村さんにとって、その対象となる選手は、日本人であろうが、中国人であろうが、また別の国であろうがどうでもいいのだろう。ただシンクロというスポーツを愛し、ひたむきに取り組む人たちであれば…。
指導者とはそういうものだろうし、井村さんはまさに、その指導者なのだと思う。そこから生まれた「結果」への反応は“驚き”でもなく、“感動”でもなく、一つの仕事をやり終えた「ほっと一息」なのだろう。
その“仕事”を見とどけた後、私は日本だ、中国だといっていることもばかばかしくなった。日本チームの演技も素晴らしかったが、確かに中国チームは本当に見ごたえある演技だった。良いものは良い…素晴らしいものには惜しみなく拍手を送ること…それが出来るからスポーツは素晴らしい。その当たり前のことを、国境を越えた挑戦をした井村さんの“仕事”をみて、改めて感じることができた。
31日は9月初めに、大きな任務を終えて、日本に帰国する井村ヘッドコーチを囲む送別会が行われた。私は残念ながら、所用で出席できなかったが、心から「感動をありがとうございました。そしてお疲れ様でした」といいたい。
<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>
■筆者プロフィール:朝倉浩之
奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。
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