<コラム>「慰安婦合意は破棄されるべきか」―韓国内でこれほどのことが言える人も少ない

木口 政樹    2017年8月31日(木) 15時40分

拡大

「慰安婦合意は破棄されるべきか」という内容で、韓国メディアが記事を書いている。普通の人なら韓国ではなかなか発言できない内容だ。写真は元慰安婦らが共同生活を送るナヌムの家。

慰安婦合意は破棄されるべきか」という見出しで、韓国メディアが記事を出している。普通の人なら韓国ではなかなか発言できない内容だ。筆者の文章も加味してその骨子を以下にご紹介する。

韓国では今でこそ日本の文化を自由に入手できるが、1996年ごろに日本大衆文化開放の議論があり、その頃のある調査では、賛成は25.5%、反対は52.5%だった。圧倒的に日本文化開放に反対する声が多かった。

かつてはCDも漫画本も何もかも、秘密裏に入手は可能であったが、正式には日本のものは入手不可能だったのだ。理由は「日本の低質文化が押し寄せる」というもの。しかし98年、当時の金大中(キム・デジュン)大統領が日本文化の開放を宣言した。

結果はどうか。「韓流が日本列島に広がる一方、漫画を除いた日本の大衆文化は韓国の地に足を踏み入れることもできなかった」と記事は書いている。韓国側の大勝利になったわけである。あの時は、金大中大統領が大きく見えたものだ。

「最近、2年前の慰安婦問題をめぐる日韓合意が『第2次日韓協約』並みの反民族的行為だとして罵倒される雰囲気だ」と記事は韓国の現況を伝えている。第2次日韓協約とは1905年に締結された条約で、韓国が日本の保護国(植民地)になっていくきっかけとなった条約である。韓国人なら誰でもこの条約を忌み嫌う。2015年12月の慰安婦問題日韓合意もそれくらい嫌われているということだ。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今年6月、米ワシントンポスト紙のインタビューで「慰安婦合意は韓国国民が情緒的に受け入れられず、特に被害者(元慰安婦)が拒否している」と述べた。ところで合意履行のために韓国には「和解・癒やし財団」が設置された。これまで財団関係者が接触した元慰安婦47人のうち36人が慰労金1億ウォン(約1000万円)を受け取ったか、受け取ることを決めているという。「多数の被害者が合意を拒否している」とは言えないのである。

一方、慰安婦問題解決のため活動する韓国挺身隊問題対策協議会という団体は、「正確な合意内容を正しく知らせることもなく資金を受け取るように強要するのは不当な措置」と主張している。

韓国は政権が変わり、今は朴槿恵(パク・クネ)政権ではなく文政権となった。慰安婦合意は朴政権の所産であるけれど、「過去の政権の作品であっても外交的な合意を覆そうとするのは大きな問題」というのが記事の指摘だ。後々新しい妥協案が引き出された時、「今回は破棄しないということを本当に信じてもいいのか」と日本側が尋ねてきたら答えようがないからだ。

以下、指摘されているポイントを少し長くなるが記事から引用する。

合意があった15年末は、「日韓関係の改善が急がれる」というのが世論の大勢だった。当時、日韓関係について韓国人の67.2%、日本人の67.8%が「改善されるべき」と答えている。さらに、平均90歳の被害者が少しでも補償を受けるには、一日も早く解決策が出されるべきだという緊急性も合意を催促した。「迅速な日韓関係の改善および被害者補償」、対して「国民100%が満足する日本側の謝罪および措置」という二つの選択肢のうち、朴政権が前者を選んだからといって非難できるかは疑問だ。

20世紀最高の法学者ハンス・ケルゼンはこのように指摘した。「二つの価値が衝突する時、どちらがより重要かは、合理的な認識で決めることはできない」と。相反する価値が存在する時は、何が正義かは誰も断言できないということだ。

再交渉の声が高まるのは、安倍晋三政権の責任も大きい。安倍首相から謝罪の誠意が感じられないのだ。昨年10月、日本の国会で慰安婦被害者に謝罪の手紙を送る考えがあるのかという質問が出た時、「毛頭ない」と答えたのが端的な例だ。従来の合意を土台に首相の謝罪の手紙の伝達など、補完策を添えるのが望ましいだろう。北朝鮮と核ミサイル問題で対立する状況で、非常時支援基地になるはずの日本と協力するどころか戦線を形成するなど、これほど非理性的なこともない。

以上が記事骨子だが、韓国内でこれほどのことが言える人も少ない。日本人の方が見たら、なんだこれくらい、と思うかもしれないけれど。安倍氏がもう少し温かい対応を取っていたら、これほどまでにこじれることもなかったのだが。「I am not Abe」と叫びたくなる理由だ。お互い、お隣さんとは今後永久に仲良くしていかなければならないことを、推して知るべしである。

■筆者プロフィール:木口政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

著書はこちら(amazon)

Twitterはこちら
※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携