八牧浩行 2016年7月9日(土) 6時50分
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アベノミクスは「異次元の金融緩和で円安株高に導き、消費や投資を刺激、財政支出による需要拡大」を推進する政策。増税などを先送りする「先楽後憂」政策といえるが、人口減少社会、低成長時代にはツケが後世に残り将来を危うくする。写真は日銀。
日本経済は岐路に立っている。アベノミクスは「異次元の金融緩和で円安株高に導き、消費や投資を刺激、財政支出による需要拡大」を推進する政策。規制緩和や支出抑制、増税などを先送りする「先楽後憂」政策といえるが、高度成長時代ならいざしらず、人口減少社会、低成長時代にはツケが後世に残り将来を危うくする。
日本政府の累積債務残高は約1050兆円と(GDP)の2倍以上に膨らんでいる。潜在成長率のアップや徹底した歳出削減、増税で解消するのが真っ当な対策だが、消費増税の先送りと経済成長の低迷により政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支)を20年度に黒字化する「財政健全化」目標の実現は絶望的。円高や企業収益の悪化で税収はさらに落ち込む懸念もある。楽観的なシナリオに頼り、不人気な税・財政改革を怠っていては、財政はさらに悪化してしまう。
深刻な事態に直面しそうなのは2020年度以降。19年10月の消費税引き上げと、20年8月の東京五輪が日本経済に大きな影響を与える。消費増税前の「駆け込み」と「五輪景気」の2つの特需の反動減に直面してしまう。25年度にはいわゆる「団塊の世代」が75歳以上となり医療や介護の支出が膨らむ。政府与党が志向する「成長と分配の好循環」が「停滞と負担の悪循環」に陥らないよう、今から備える必要がある。
安倍首相は国民に「アベノミクスはまだ道半ば。エンジンを最大限にふかす」と訴える。しかしアベノミクスが打ち出されて3年半。「インフレ率2%」のデフレ脱却目標は遠のくばかりで弊害も目立つ。
◆「トリクルダウン」起きず
第2次安倍政権は、3年8か月前に誕生して以来。(1)大胆な金融緩和(2)機動的な財政出動(3)アベノミクスでは、デフレ脱却に向けた大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間需要を喚起する成長戦略の「3本の矢」で経済の好循環の実現を目指した。第2の矢(財政政策)を第1の矢(金融緩和)で支え、日銀に財政資金を用立てさせる「財政ファイナンス」の構図である。
アベノミクスが志向した「富める者が富めば貧困層にも恩恵が及ぶ」という「トリクルダウン」も起きなかった。非正規や中小企業の労働者の賃金が思うように上がらず、貧富の格差は広がるばかり。しかも実質GDP(国内総生産)は、14年度0.9%減、15年度0.8%増と政府目標の実質2%成長に達していない。米国が2%台、欧州各国でも1%台の成長を確保している。
経済協力開発機構(OECD)が6月初めに発表した経済見通しによると、日本の2016年の実質成長率は0.7%増と、前回の昨年11月の見通しから0・3ポイント引き下げた。17年の成長率見通しは0・4%増と、同0・1ポイントの下方修正。世界経済全体の16年の見通しが3・0%増、17年は3・3%増と堅調だけに日本の低迷ぶりが際立つ。
日本には非正規雇用の増加や所得格差の拡大、将来の社会保障への不安といったさまざまな課題がある。それらを解決せずに経済の好転はない。
アベノミクスの一枚看板である「円安株高」の流れも逆回転。日経平均株価は昨年2万円台を回復、年末終値は1万9000円台だった。ところが、年始から株価が下落傾向をたどり、現在1万5000円スレスレに低迷している。異次元金融緩和、マイナス金利に加えて、信託銀行などを通じた実質的な日銀による株式購入などで株価を買い支えていたが、その効果が剥げ落ちた格好である。
今年度決算見通しで、輸出企業を中心に業績の下方修正が相次いでいる。政府は財政規律を保ちながらどのようにこれ以上の財政出動を可能にするのか。一歩踏み誤れば、民間企業の世界との競争力にマイナスの影響を与える恐れもある。
◆年金基金を株に突っ込む
国民が支払う厚生年金と国民年金保険料は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に預けられ、そのうちの半分の50%は株で運用されているが、この間の株価下落で約7兆〜8兆円の損失が出ているといわれる。
現在GPIFが運用しているのは約135兆円。従来、年金積立金は日本国債などを中心に低リスクで運用されていたが、14年10月にアベノミクスの一環として、日本株式による運用比率が12%から25%へ引き上げられた。加えて外国株式も25%で、リスクが大きい株式への運用が50%を占めている。
政府は財政規律を保ちながら、いかにして政出動を可能にするのか。一歩踏み誤れば、民間企業の世界との競争力にマイナスの影響を与える恐れもある。政府日銀には、景気回復とハイパーインフレ防止の二兎を追うぎりぎりの綱渡り的な政策が求められる。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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