なぜ中国人は日本代表を応援するのか?=サッカーアジアカップ、1月開幕

長田浩一    2023年12月29日(金) 10時0分

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男子サッカーのアジアカップが1月12日にカタールで開幕する。アジアの代表チームのトップを決める大会であり、日本代表にとってはW杯に次ぐ重要なタイトルだ。写真は2022年カタールW杯の日本代表。

男子サッカーアジアカップが1月12日にカタールで開幕する。アジアの代表チームのトップを決める大会であり、日本代表にとってはワールドカップ(W杯)に次ぐ重要なタイトルだ。レコードチャイナでも中国メディアが報じた同大会関連の記事が数多く掲載されており、中国国内での関心の高さをうかがわせる。その中国で、一部かもしれないが日本チームを熱心に応援するファンがいるという。中国の対日感情はまだまだ悪いと思っていたのに…どういうことなのか?

ドイツ、スペイン戦の勝利にハイタッチ

2022年11月から12月にかけて、やはりカタールで開催されたW杯で、日本は優勝経験国であるドイツ、スペインを破り、世界的に話題になった。この両試合の中国国内でのパブリックビューイング(PV)の模様がいくつか動画投稿サイトにアップされている。私が見た動画は、映画館のようなところで行われたPVの様子だが、そもそも自国が出ていない試合のPVが行われ、ほぼ満員であることに驚く。日本だったら、決勝戦ならともかく、他国同士のグループリーグの試合でPVを実施しても人は集まらないだろう。

それ以上に目を奪われるのが、日本の得点や、試合終了のホイッスルが鳴ったときの観衆の反応だ。多くの人が歓声を挙げて拍手し、中には立ち上がってハイタッチする者も。まるで自国チームが勝ったような喜び方だった。こちらとしてはうれしい半面、「どうしてそんなに日本を応援してくれるの?」と当惑してしまう。

何しろわれわれには04年アジアカップでの暴動騒ぎの記憶が生々しく残っている。中国で開催されたこの大会、日本の試合は相手国への応援一色となり、試合前の君が代の演奏は観衆のブーイングでかき消される。決勝戦は日中対決となったが、日本の勝利に腹を立てた一部観衆が日の丸を焼いたり、日本大使館の車のガラスを破壊したりしたことから、欧米メディアは「中国で暴動」と報じた。小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝などで反日感情が高まっていたためとされるが、政治・外交問題がここまで露骨にスポーツの世界に持ち込まれたことに衝撃を受けた記憶がある。それだけに、ドイツ戦やスペイン戦での中国人ファンの振る舞いには驚かされた。

これまでにも日本人が中国で人気者になった例はあった。例えば俳優の故高倉健さんや、先に死去した歌手の谷村新司さんは大スターだったというし、現在は引退したが卓球福原愛さんや石川佳純さんの人気もすごかった。ただ、俳優や歌手、卓球選手は基本的には個人として評価される。しかし団体競技、とりわけサッカーの代表戦はナショナリズムがぶつかり合う場でもあり、他国を応援するケースは多いとは言えない。特に歴史認識問題を抱え、現在も外交面でギクシャクしている日本の代表チームを、一部かもしれないが中国の人たちが熱心に応援するのはかなりの奇観と言えるのではないか。

「藍武士は唯一のホームチーム」

実は、中国のサッカーファンの間で日本代表の人気が高まっているとの情報は、2010年代半ばからちらほら聞こえてきた。サッカーファンである習近平主席がバックアップしているにもかかわらず、W杯予選で敗退を繰り返し、アジアカップでも04年大会を最後に上位に進出できない自国代表に比べ、日本代表のプレーが魅力的に映ったのだろう。

共同通信の古畑康雄氏が19年に著した「精日―加速度的に日本化する中国人の群像」によると、18年のロシアW杯の時点で、日本代表を応援する若者のグループが上海に存在した。なぜ日本を応援するのかとの同氏の問いに対し、ある青年は「低迷が続きワールドカップの出場を逃した中国代表に比べ、私はアジアカップで4度も優勝するなど、アジアで何度もトップになった日本代表が絶対的に好きです」と答えた上で、「私の心のなかで『藍武士(サムライブルー=日本代表の愛称)』は世界で唯一のホームチームなのです」と語ったという。04年の暴動の話を持ち出したところ、「時代が違います」と一笑に付されたそうだ。

もちろん、このように熱心に日本代表を応援するのは一部のサッカーファンに限られており、多数派ではないだろう。PVで声援を送った人たちの中にも、日本というよりアジアの代表の活躍に拍手しただけという向きもいたかもしれない。とはいえ、日本代表のサッカーが一部の中国人ファンの心を捉えたのは事実。前述の「精日」の表紙には、日本代表のユニフォームを着た中国の4人の若者が、「中日友好」と書かれた日の丸と五星紅旗(中国国旗)をつなぎ合わせた旗を掲げながらほほ笑んでいる写真が掲載されている。外国との関係において、スポーツや文化・芸能の果たす役割は過小評価できないと改めて感じる。

準々決勝で日中戦の可能性

最後に、間近に迫ったアジアカップを展望してみたい。レコードチャイナが配信した中国スポーツメディアのビッグデータを使った予想記事によると、優勝確率は日本が36.36%でトップとなり、以下イラン17.57%、オーストラリア14.84%、韓国13.11%の順。世界ランクでアジア首位の日本が、2位以下を大きく引き離して優勝候補筆頭に挙げられている。確かに敵地でドイツに4-1で勝利するなど、6月以降8連勝の森保ジャパンの充実ぶりは心強い限りで、頂点に最も近いことは間違いない。

日本は、ベトナム、イラク、インドネシアで構成されるグループDを1位で突破すれば、準々決勝までは強豪国との対戦はなく、比較的順調に勝ち進む可能性が大きい。準決勝はオーストラリアかサウジアラビアとの対戦となりそうで、頂点への第一関門となる。ここを突破すれば、決勝の相手はイランか韓国だろう。もちろん、サッカーはラグビーやバスケットに比べ番狂わせの起きやすい競技なので、予想が大外れする可能性もあるが…。

中国は、優勝確率0.35%で参加国中12位となった。過去に優勝経験はないものの、2回決勝に進出し、準決勝にも4回進んだ実績を持つ国としては寂しい数字だ。グループリーグは地元カタール、タジキスタン、レバノンと同組。楽な相手はいないが、前回優勝のカタールは当時に比べ戦力ダウンしているようなので、首位通過も不可能ではない。また、2位で突破して決勝トーナメント1回戦も勝ち上がった場合、準々決勝は日本との対戦となりそうで、実現すれば中国で大きな関心を集めるだろう。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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