<少子化加速>国の存続、危機的状況=出産・子育て支援へ大胆政策必要―出産一時金の大幅増額を

長田浩一    2022年10月23日(日) 6時0分

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少子化に関するショッキングなデータが相次いで発表された。

少子化に関するショッキングなデータが相次いで発表された。国内で今年上半期に生まれた赤ちゃんは約38万5000人にとどまり、前年同期より2万人以上落ち込むとともに、初めて40万人を割り込んだ。若い独身女性の中で、結婚したら子供を持つべきだと考える人がわずか36%程度にとどまっていることも明らかになった。先に米国の実業家、イーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」とツイッターに投稿して話題となったが、ありえないと一笑に付すことなどできない状況だ。少子化に歯止めをかけるには相当思い切った措置が必要。政府は、出産一時金の増額を検討しているというが、これを機に出産・子育てをしやすい社会への転換に向けた大胆な政策パッケージを打ち出すべきではないだろうか。

◆上半期の出生数、前年比5%減

厚生労働省が9月初めに公表した人口動態統計によると、今年上半期に全国で生まれた子供は38万4942人で、前年同期より2万0087人、約5%減少した。上半期で40万人を切ったのは現在の形で統計を取り始めた2000年以降では初めて。21年の年間の出生数は81万1604人で過去最低を更新したが、今年はそれをさらに下回るのは確実だ。

1970年代前半の第2次ベビーブーム当時には200万人を超えていた出生数は、その後漸減し、2000年には約119万人に。15年まで何とか100万人台を維持していたが、16年には約97万7000人と大台を割り込んだ。20年からは新型コロナウイルスの影響もあり、減少テンポが加速している。

少子化は、多かれ少なかれ先進国に共通する現象であり、緩やかに進むのであれば何とか対応可能だ。だが、これほどの急激な出生数の落ち込みは、将来の国力(経済力)の急低下や世代間負担の不均衡を招き、国家としての安定的な存続にも懸念が生じる。早急に歯止めをかける必要がある。

◆「結婚しても子供はいらない」女性が増加

しかし、事態は今後さらに悪化する恐れがある。国立社会保障・人口問題研究所がこのほど発表した出生動向基本調査によると、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と答えた人は、6年前の前回調査に比べ、男性が85.7%から81.4%、女性が89.3%から84.3%と、いずれも低下した。それ以上に衝撃的なのは、「結婚したら子供を持つべきか」の問いに対し、女性の賛成がわずか36.6%と、前回に比べ約30ポイントも低下したことだ(男性は75.4%から55.0%に低下)。結婚への意欲がしぼんだ上に、結婚しても子供を持ちたくないというのでは、少子化の一層の進行は不可避だ。

この調査では、結婚相手の条件についても質問している。女性が男性の家事・育児の能力や姿勢をより重視するようになったというのは想定通りだが、女性の経済力を重視する男性が増えた(前回の41.9%から48.2%へ)という結果は身につまされる。自分の経済力に自信がないため、女性の稼ぎを当てにする男性が増えているということだろうか。

◆若い世代が結婚にも出産にも後ろ向き

少子化が進んでいる背景には様々な要因があるが、大きく言えば(1)収入の減少、子供の養育コスト増大などの経済的要因(2)結婚・出産に関する価値観の変化―の二点に集約される。少子化に歯止めをかけ、可能であればトレンドを逆転させるためには、この両方について効果のある対策をまとめた政策パッケージを策定する必要がある。

内閣府が3月初めに発表したリポートによると、25~34歳の若者世帯の年間所得は、1994年の470万円から2019年には429万円に減少した(4月6日付当欄参照)。25年間で40万円以上も減収になったのなら、若い世代が結婚にも出産にも後ろ向きになるのは当然だ。

収入減が少子化の要因の一つであるなら、政府が検討しているという出産一時金の増額は、経済的な対策の中心となる。現在の危機的状況を踏まえると、個人的には現行の42万円から数百万円に増額してもいいと考えている。それは難しいとしても、東京都で約55万円とされる平均的な出産費用をカバーするだけでなく、それ以上の水準に設定し、出産へのハードルを引き下げることが望まれる。

もちろん、子供に関わる親の負担は出産時だけで終わるわけではない。内閣府によると、子育てへの公的支援を中心とする家族関係社会支出の国内総生産(GDP)に占める割合を見ると、日本は1.65%で、ドイツ(2.4%)、フランス(2.93%)、イギリス(3.19%)、スウェーデン(3.42%)など欧州諸国に比べ相当低い。それだけ社会が子供を育てるというメカニズムが働いていないわけで、児童手当の増額や教育費の低減などもパッケージに盛り込む必要がある。

◆女性議員増へクオータ制導入を

結婚・出産に関する価値観の変化については、生き方の多様化が進むのは時代の流れでもあり、必ずしもネガティブにとらえる必要はない。ただ、経済的な面だけでなく、気持ちの上でも子育てしやすい環境を整えることは重要だ。具体的には、保育所の増設や男性の育児休業取得の義務化などが考えられる。

今でも電車内などで「ベビーカーは邪魔だ!」と怒鳴る輩がいるそうだが、そうした行為を戒めるキャンペーンも有効かもしれない。要するに、「子供は社会の宝。みんなで子育てを支援していこう」という雰囲気を醸成するための施策が必要。それにより、若いカップルが出産・育児に前向きになることが期待される。

もう一つ、女性国会議員の占める割合が衆議院で約1割、参議院で約2割というのはやはり低すぎる。どんな時代になっても男は妊娠できないし、授乳もできない。子育てに関しては女性の方が良く理解しており、育児環境を整える政策への”感度“も違うだろう。そもそも、人口の半分を占める女性の代表が、国会に1、2割しかいない現状が異常であり、男女平等ランキングで116位と主要先進国中断トツの最下位に低迷する最大の理由だ。

そうであるなら、世界の約120カ国で実施されているというクオータ制(議員の一定割合を女性に割り当てる制度)は選択肢になる。現在の自民党における男性支配の構図を見るととても受け入れられそうにないと絶望的な気分にもなるが、本気で少子化のトレンドを覆そうとするのであれば、導入を検討すべきだ。

◆中高年世代の責任

出産・育児支援の政策パッケージを策定すべきだという立場から、私論を述べてきた。異論反論は当然あるだろう。個人的には、これらの施策に必要な財源は高齢者福祉を削るしかないと考えているが、そうなるとお年寄りの反発は必至(私もすでに前期高齢者だが…)。独身者からも不満が出るかもしれないし、男性議員の多くはクオータ制に対し首を縦に振らないだろう。

ただ、一つ言えるのは、今のままでは、あるいは小手先の対策を取るだけでは、少子化のトレンドは変えられないということだ。我々中高年世代には、若者の年収が25年前より40万円以上も減り、結婚・育児に慎重にならざるを得ない社会を作った責任もある。今後の議論の行方に注目したい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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