<コラム>アフターコロナ時代の日中ビジネス(4)日中サプライチェーンの緊密化

松野豊   2020年8月4日(火) 6時40分

日本でコロナの感染問題が拡大し始めた頃、中国で日本政府のある政策が話題になった。4月に日本政府が閣議決定した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」である。写真は中国国際輸入博覧会。

日本でコロナの感染問題が拡大し始めた頃、中国で日本政府のある政策が話題になった。4月に日本政府が閣議決定した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」である。この政策は、感染が拡大した日本において、感染防止や雇用維持、事業継続のための措置などを定めたものであるが、同時に感染収束後の企業のサプライチェーン改革などが盛り込まれていた。日本では感染問題に関心が行っていたのでほとんど話題にならなかったが、この政策は中国の政府筋の注目を浴びたのである。

「一国依存度が高い製品・部素材について生産拠点の国内回帰等を補助するとともに、…(中略)…、ASEAN諸国等への生産設備の多元化を支援する」とある。報道によれば、この補助金の適用企業の例も既に出ているようだ。

しかしこの文章をよく見ると、「一国依存度が高い製品」という枕ことばが記されている。つまり企業戦略から見れば、ある程度当たり前のことだとも言える。日本企業から見れば特に意識するほどの内容ではないと思うが、中国側は少しナーバスになったようだ。

2018年から激化した米中貿易摩擦は、コロナ感染が米国に拡大してしまったことが相乗効果を生み、さらに激化の様相を見せている。今中国政府が最も危惧しているのは、米国政府が主導する米中の産業チェーンやサプライチェーンの切り離し、いわゆるデカップリングである。米国だけでも困るのに、もし西側先進国が結集して同じような対応を取り始めると、中国と他の先進国との貿易関係までもが希薄化してしまう可能性がある。

中国のメディアは連日、米中貿易摩擦に関してトランプ批判を繰り広げている。我々から見れば、貿易摩擦が起こった背景には中国側にも少なからず原因があるのだが、中国内の世論を見る限りほとんどそのような論調はないようだ。

中国は、今後日本に対して日中のサプライチェーンの安定化・緊密化という「秋波」を送ってくるだろう。日本からは新たな技術関連投資も求めたいのだと思うが、今の段階ではまず現在のサプライチェーンを安定的なものにしておきたいということだ。中国からの秋波だと書いたが、もちろん日本側も現在のサプライチェーンを安定化することには大きなメリットがある。

近年の日中貿易額の推移をみると、日中二国間だけの数値では日本の輸入超過になるが、製造業などでは香港経由の大陸への輸出も相当数あるので、日中貿易は近年ほぼ均衡している状態である。

製造業における日本と主要国との輸出入データから2国間の「輸出競争力指数」を計算してみた(図)。日中間の指数は2000年代前半には指数値が増加して競合度が高まっていたが、2010年頃からは指数の増加が止まっている。マクロに見ると日本と中国の間に、いわゆる産業補完が進んできていると考えてもよいかもしれない。


つまり日本側も中国との貿易が安定している現在の状態は望ましいのである。日本としては、米国から入手できなくなったハイテク部品を中国に供給するというようなことは難しくなるだろうが、現状のように日中の産業補完状態が続く限り、日中の産業チェーンやサプライチェーンの安定化・緊密化については大いに協力ができるだろう。

実は1970~80年代に日本は、米国との間で激しい貿易摩擦を繰り広げた。最近中国政府や企業は、この時の日米摩擦の経緯を分析している。米国の手口は、今も昔もあまり変わってはいないと思われるからだ。

しかし筆者は、「この時米国に屈したから、日本経済は衰退し失われた20年となった」という論調には組しない。確かに日米貿易摩擦は、米国の露骨な日本叩きによって日本経済にマイナスをもたらした面も多い。しかしこの時の「外圧」によって日本の規制緩和や流通業等の規制緩和が進み、日本の産業構造転換や企業のグローバル化を促進したことも忘れてはならない。

このことはぜひ中国に伝えて教訓にしてもらいたいと思う。日本は、中国に対して規制緩和と市場開放を求めていくべきだと思う。

もうひとつ重要なことは、中国企業のグローバル化の促進だ。日本も1980年代のバブル経済期の海外投資はかなり失敗に終わったが、2000年代以降の海外投資については一定の収益を生んでおり、それが現在の国家としての経常黒字につながっている。

中国の経常収支を見ると、まだ貿易黒字に依存しているところが大きい。中国の経済規模や産業の国際競争力を考えると、中国企業はグローバル投資を加速すべき時期だと思う。資本政策によって海外投資が抑制されている中国の現状は、中国企業にとってはつらいだろう。次稿では、企業のグローバル化における日中連携を取り上げる。

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