<写真特集>消えゆく街―切り捨てられる古き市井の風景

王偉毅   2016年7月17日(日) 16時0分

「現実の記録」という撮影活動に、その人独自の流儀が現れると考えている写真家の王偉毅。時に辛らつに、時に厳しく、またその中にやさしさをたたえた視線で、中国の現実を克明に捉え続けている。

写真家・王偉毅(ワン・ウェイイー)は、撮影活動をほかでもない「現実の記録」と考えている。「何を“現実”と捉え」そして「如何に“記録”するのか?」という点に、独自の流儀を表出すべく、作家としての道を歩み進めている。

彼が目に止める“現実”とは、誰かのまなざし、一筋の光、何気ない風景……といった、日常風景に溶けこんでいる普遍的なものだ。しかし彼の目は、それらに潜む神秘を確かに捉えている。それらに心を奪われた彼の目に、世界はあたかも、永遠に知り尽くせないもので溢れているように映っている。

このように、地に足の着いた創作活動に喜びを見出す彼にとって、拝金主義に溺れる中国の現代アート界は、時に批評の対象になる。以前は政治制度が芸術家から創作の自由を奪っているとされていたが、現代においては、まるで経済がアートの世界を牛耳っているかのようだと。確かに現代中国では、芸術作品は投機対象としての色彩が強い。彼によると、とくに「コンセプチュアル・アート(概念芸術=視覚効果よりも観念を重視した芸術。抽象的な作品が多い)」が写真の世界に流入してからは、写真芸術はよりインスタントなものになったという。シャッターを押しさえすれば、簡単に「ゲイジュツ作品」ができあがる世の中の潮流を、彼は嘆いている。

その潮流に対抗するように撮られた「消えゆく街(拆遷前的天津旧城)」という作品群がある。劇的な発展のもとに変遷する中国社会の奔流で、次々と切り捨てられていく「古きよき市井の風景」を、彼は克明に記録している。年月を経て磨耗したレンガの壁、誰も手入れをしない散らかった路地、置き去りにされた自転車。そんな寂しげな風景の中にはしかし、昔ながらの人情溢れる近所づきあいや、遊戯に興じる子どもたちの無邪気な笑顔が確かに存在している。寒々とした中国の「現実」を、どこか暖かな目で捉えようとする彼の流儀が感じられる連作である。(文/愛玉)

●王偉毅(ワン・ウェイイー)

1963年生まれ、天津出身のアーティスト。天津美術学院で油絵を専攻、1991年の卒業後は油絵、写真作品の創作のかたわら、芸術関連出版物の編集などに携わる。2005年に天津美術学院美術館の副館長に就任、現在に至る。写真作品は地元・天津をテーマにしたものが多く、古きよき市井の風景や取り壊される街など、中国の「現実」を記録した作品は高い評価を得ている。

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