米朝首脳会談はなぜ不発に終わったのか、背景に国際情勢と北の変化

山崎真二    
facebook X mail url copy

拡大

一時、盛んにうわさされたトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記との会談は結局実現しなかったが、その要因は何か、そして今後の見通しは?写真は板門店。

一時、盛んにうわさされたトランプ米大統領と北朝鮮金正恩・朝鮮労働党総書記との会談は結局実現しなかったが、その要因は何か、そして今後の見通しは?

韓国で高まった会談実現への期待

周知の通り多くのメディアが、先に韓国で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の折、トランプ大統領と金総書記が電撃会談するのではないかと報じた。2019年6月末、トランプ大統領が大阪での20カ国・地域首脳会合(G20)出席後、韓国を訪問し、急きょ板門店を訪れ、金総書記と会うという劇的な展開があったことを思い起こす向きも多かったろう。

もしまたトランプ・金会談が実現していたら、18年6月のシンガポールでの第1回首脳会談、19年のハノイ第2回首脳会談、同年の板門店会談に続いて4回目の両者の顔合わせになっていたはずだ。

実際、韓国では新たな米朝首脳会談実現への期待が高まっていたのも事実。APEC首脳会議開催の2週間ほど前には韓国の鄭東泳統一相が同首脳会議に合わせトランプ大統領と金総書記が会談する可能性があると述べ、南北軍事境界線にある板門店で行われる公算が大きいとの見方を示していた。

北朝鮮も一時は応じる姿勢?

4回目の米朝首脳会談実現への空気は確かに感じられていた。トランプ大統領がたびたび北朝鮮に対しラブコールを送っていたからだ。

同大統領は1月20日の2期目就任直後のFOXテレビとのインタビューで金正恩氏と再び連絡を取るのかとの質問に「そうするつもりだ」と答えた。3月31日のホワイトハウスでの記者会見では金総書記と再び接触するか問われ、「北朝鮮と意思疎通ある」「非常に重要だ。彼は非常に賢い男だ」などと発言。さらに6月27日の記者会見でも、金総書記と良好な関係を築いていると述べた。加えて8月25日、トランプ大統領は訪米した韓国の李在明大統領と会談した際、金総書記と年内に会いたいと表明、再会談への意欲を鮮明にしている。

一方、北朝鮮はしばらくの間、トランプ大統領のアプローチに反応せず、むしろ対米非難のトーンを強めていた。だが、7月末には一転、米国の接近姿勢に応じるかのような言葉が金総書記の妹の金与正党副部長の口から飛び出した。同副部長はトランプ大統領と金総書記との「個人的関係は悪くない」と述べ、米朝首脳会談の可能性に含みを持たせるような発言をした。

このような経緯を振り返ると、再び板門店で米朝首脳会談かとの憶測やうわさが流れたのも、もっともなことかもしれない。

対米対話を急ぐ必要ない北朝鮮

だが、冷静に振り返れば、北朝鮮が今、米国と対話を急ぐ状況にないことは明白だ。19年に板門店でトランプ大統領と金総書記が急きょ会った時と現在では国際環境や北朝鮮の国内事情が決定的違っているためだ。

19年当時、北朝鮮は国際的孤立が目立ち、ロシアとの関係も緊密でなかった。北朝鮮としてはそれまで2回の米朝首脳会談は決裂していたものの、何とか米国との関係を保ち、経済制裁を緩和させたいとの思いがあったと推測される。

韓国との関係は現在よりもずっと良好で、18年に文在寅韓国大統領(当時)が金総書記と3回も首脳会談を行っている点も現在とは大きく異なる。

今の北朝鮮はというと、ロシアから政治・経済・軍事技術面で支援を受けており、米国との関係を何が何でも追求する必要はない。北朝鮮はロシアへの兵士派遣や武器・弾薬の供与で大量の資金を獲得し、「ウクライナ戦争特需」を享受しているとの情報もある。

北朝鮮経済の命綱とさえ言える中国との貿易は新型コロナウイルス対策で対中国境を閉鎖したため、一時途絶えていたが、最近は急速回復しつつある。

このような事情を考えれば、金総書記がトランプ大統領のラブコールに飛びつかなかったのは当然だったと言えるだろう。

カギは北の「核保有」認めるか否か

では、今後、米朝首脳会談が行われるかどうか、見通しはどうか。米政府は最近、第1次トランプ政権時に米朝交渉に携わったケビン・キム国務省副次官補を駐韓代理大使に任命しており、依然として早期の米朝首脳会談実現をあきらめていないとの見方もある。正式大使の場合には米上院の承認手続きを経なければならず、任命まで数カ月かかることが多いが、代理大使なら直ちに赴任することができる。また、韓国の情報機関「国家情報院」は「米国との対話に備えた動きがさまざまな経路で確認されており、北朝鮮には対話の意思がある」と分析しているという。

こうした中、次の米朝首脳会談開催へのカギは北朝鮮の「核保有」を認めかどうかだとの見方が浮上している。米国の歴代政権、さらに韓国や日本もこれまで北朝鮮に対し核放棄を求めてきた。だが、トランプ大統領は時折、「北朝鮮は核保有国」と述べるなど、もはや北朝鮮に対し核放棄を求めないかのような発言をしている。一方、金総書記は「非核化は絶対にあり得ない」と主張し、米国が核の放棄を求めなければ対話が可能との認識を示している。

トランプ大統領は先の高市首相との会談で北朝鮮に非核化を求める点では一致したとされているが、金総書記との首脳会談を優先し、米国の対北外交方針の転換に踏み切るのか、日本としても大いに気になるところである。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

インフルエンサー募集中!詳しくはこちら


   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携