米、物価高抑止狙い対中関税減免へ=世界を覆うインフレ圧力―ウクライナ侵攻で資源・食料急騰

八牧浩行    2022年5月17日(火) 7時50分

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世界主要国をインフレが覆い始めた。写真はサンフランシスコ。

世界主要国をインフレが覆い始めた。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めで米長期金利の上昇が加速。米株式をはじめ世界の市場が巻き込まれ混乱している。

ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.5%も上昇、約40年ぶりの高水準だった。資源高によるガソリン価格高騰などで消費者や企業経営者の不満は募る。米国の1~3月期実質国内総生産(GDP)がマイナスに転じており、インフレの進行が企業業績にも波及しつつある。

◆米労働市場逼迫がインフレ圧力に

4月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から42万8000人増えた。増加水準は前月と同じで、労働市場の逼迫による賃上げが、インフレ圧力となる構図が続く。さらに急激な利上げが必要になれば、景気後退リスクも高くなる。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「経済対策や金融政策による支援が弱まれば雇用創出は鈍化する」と冷静だが、労働市場の逼迫をコロナ禍前に戻すには、求人数を1150万人から約700万人に減少させる必要がある。

FRBは米景気の強さを理由に「景気後退なきインフレ退治」は可能と楽観的だが、景気が強いほど大幅な利上げが必要になり、景気後退のリスクは高まる。

米中間選挙が半年後に迫る中、バイデン政権は長引くインフレなどで支持率が低迷し、与党・民主党は上下両院での過半数維持が危うい状況だ。インフレ抑止はバイデン政権にとって最優先課題である。

こうした中、米通商代表部(USTR)は中国製品に課す制裁関税を見直す作業を開始した。高インフレに対処するため関税引き下げを求める声が政権内や産業界で高まっていることが背景にある。

トランプ前政権は中国の知的財産権の侵害を食いとめるため、2018年7、8月に、25%の制裁関税をかけたが、この関税引き上げが米国の物価高を招いていると言われる。イエレン財務長官は4月22日、「対中関税見直しは高インフレの抑制へ望ましい効果がある」と指摘し、関税の引き下げを検討する考えを示した。

米ピーターソン国際経済研究所の試算によると、対中関税などトランプ前政権が発動した関税を取り下げれば、CPIを1.3ポイント減らす効果があるという。特に米産業界ではコスト負担となっている関税の削減を求める声が多い。

◆日本でも値上げ相次ぐ

世界的なインフレの波は日本にも及んでいる。4月の国内企業物価指数は113.5と、前年同月比で10.0%上昇した。前年の水準を上回るのは14カ月連続。石油・石炭製品など資源関連を中心に幅広い品目で価格が上昇し、第2次石油危機の影響が残る1980年12月(10.4%)以来約41年ぶりに2ケタの伸びを記録した。

4月の東京都区部の消費者物価指数は前年同月比1.9%上昇し、約7年ぶりの高い伸びとなった。エネルギーや食料品の価格上昇のほか、携帯電話の通信料の押し下げ効果が薄れたことが影響した。ソニーグループが国内向け家電製品の出荷価格を引き上げたほか、日本航空はエコノミークラスの普通運賃などを値上げした。

全国の物価上昇率は民間シンクタンクの予測によると、平均で10月に2.2%に達する見込みだ。一方で需要不足は続いており、2023年以降はインフレが鈍るとの見方が大勢だが、今後、資源高が消費者物価に本格的に及ぶと見る向きも多い。

電気代も電力会社が燃料費の増加分を転嫁するのに制度上、約半年の時間差があり、電気代は夏にかけて一段と上昇するとの予想も根強い。需要の回復や賃金上昇が物価を安定して押し上げる理想的な構図はほど遠い。

基本的に景気回復の遅れが深刻だ。IMFによると、22年の需給ギャップは米国のプラス1.6%に対し日本はマイナス1.7%。日本では需要不足状況が続き、今年1~3月のGDPもマイナスとなるとみられる。

◆世界の企業業績、急ブレーキ

日本は1990年代後半にデフレとなり、その後も物価上昇率はゼロ近くを行き来する。デフレ下では、カネを借りてリスクを取ろうとする人が減り、経済成長が強く制約される問題がある。

IMFによると21年の消費者物価(CPI)上昇率は米国が4.7%、ドイツが3.2%のプラスだった一方、日本は0.3%のマイナス。日本の物価がマイナスに陥った要因として、値上げを嫌う消費者、値上げを避ける企業、弱い賃金上昇率、成長志向に乏しい財政政策などが指摘されている。

こうした状況下、世界の企業業績の拡大に急ブレーキがかかっている。2022年1~3月期の主要企業全体の純利益は前年同期比2%増にとどまり、約6割の増益だった21年10~12月期と比べ増益ペースが鈍化。素材企業は資源高の追い風が吹いたが、新型コロナウイルス禍に伴うテレワークなどで需要が増加した情報通信が減益に転じた。米国のマイナス成長や、ロシアのウクライナ侵攻の影響も機械などの製造業や金融に影を落とした。4~6月期の増益率も市場予想ベースで前年同期比3%増にとどまる。中国のロックダウン(都市封鎖)長期化などサプライチェーンの混乱が引き続き重荷となる。

1970~80年代には先進各国で不況なのに物価が上がる「スタグフレーション」が発生した。2010年代には、景気回復にもかかわらず物価上昇率が高まらない「ディスインフレ」が課題となった。開発途上国も含めた世界経済は当面厳しい時代が続きそうだ。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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