「多角的資源外交」を展開した田中角栄に続くリーダーは?=石油補給ルートの多様化迫られる日本

池上萬奈    2022年4月12日(火) 7時50分

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日本のエネルギー資源の輸入先はどうなっているのだろうか。

ロシアからのエネルギー資源供給を西側諸国が停止する傾向にある現在、石油・天然ガス・石炭の輸入のうちロシアからの依存度がそれぞれ33.9%、55.2%、48.5%と高いドイツは大きな影響を受けることになる。では、日本のエネルギー資源の輸入先はどうなっているのだろうか。下記の円グラフを参照していただきたい。2018年度でロシアへの依存度は、石油4.8%・天然ガス8.1%・石炭10.7%である。


1970年代からエネルギー資源の多角化や輸入先の分散を目指していた日本は、石油の依存度を75.5%(1973年度)から39.9%(2017年度)に低下させ、石油に替わって天然ガス(LNG)の割合を上昇させた。また、再生エネルギーなど資源の多角化も図ってきた。


かつて、エネルギー資源の多角化及び輸入先の分散が必要だと強く唱えた政治家は、田中角栄である。

1971年、佐藤栄作内閣の通産相であった田中は、日本の資源問題解決のための総合対策として『資源問題の展望 1971』と題する白書を作成し、今後の石油を必要な時に必要な量を正当な価格で入手できるような、自主性のある資源入手方式をいかにして作りあげるかを喫緊の課題として提示した。

◆田中角栄首相「軍事と資源は表と裏の関係」

1972年7月、首相になった田中は、石油資源入手における自主性の確立を重視した。田中の秘書であった早坂茂三氏の回想録には、資源獲得に対して強い熱意を持っていた田中の発言が記されている。「日本は強大な防衛力、軍隊を持たないから、国際的に防衛協調できるわけでもなく、ましてや軍事同盟等は作れるはずがない。しかし、防衛面で協力もせずに資源を必要なだけ寄こせといっても、そうそう通るわけがない。軍事と資源は表と裏の関係なのだから、国際的な軍事緊張が起これば、まず資源パイプをたたくのは世界の常識だ。それだけに、日本の資源外交は並大抵の苦心ではない。第一は石油補給ルートの多様化だ」。

◆安定的な供給確保は国家プロジェクト

石油は単なる経済商品ではなく、政治・軍事が絡む商品であるため、石油の安定的な供給確保は国家プロジェクトとするべきと考えていた田中の構想した「多角的資源外交」は、フランスからの濃縮ウランの確保、英国の北海油田開発への参加、ソ連のチュメニ油田開発への参加等を、財界資源派と呼ばれる中山素平(経済同友会代表幹事、日本興行銀行相談役)、今里広記(海外石油開発社長)、松根宗一(経団連エネルギー対策委員長・アラスカ石油開発社長)や両角良彦(前通産事務次官)らの協力をもって進めようとするものであった。

田中は、「(米国に)怯えていたら、資源外交はできない。それぞれの国家は、おのれの利害のために動いている」と語っていたように、米国に依存しない日本独自の多角的ルートを強気の態度で模索した。

その後、日本で1974年に設立されたサハリン石油開発協力㈱(旧SODECO)とソ連の間で基本契約や借款契約に関する署名が1975年に行われ、1976年5月18日に条約が発効することになった。その流れをくむサハリン石油ガス開発㈱(新SODECO)は、現在サハリン1の事業に30%の権益をもち、その権益の内訳は経産省50.0%、伊藤忠商事18.1%、石油資源開発14.5%、丸紅11.7%、INPEX5.7%となっている。また、サハリン2には、三井物産が12.5%、三菱商事が10.0%の権益をもって参画している。

ロシアの国際法違反の行為に対しサハリン事業からの撤退を表明した英シェルや米エクソンモービルとは異なり、日本の経済界はこのサハリン1及びサハリン2のプロジェクト継続の意向を打ち出している。欧米とは異なる事情を抱える日本ではあるが、岸田文雄首相が4月8日ロシア産の石炭を段階的に削減すると表明したように、西側諸国との協力体制に鑑みながらの行動が必要であろう。

◆米国が「石油消費国全体に損害を与える」と対応策

財界資源派とともに北海油田の開発やソ連のチュメニ油田への参画に向け積極的な行動をとり始めた田中の資源外交を分析した駐日米国大使館は、石油を求めて単独行動をとろうとする日本の姿勢を石油消費国全体に損害を与えるものとして位置づけ、その対応策を検討することを米国政府に進言した。これを受けて米国政府は、田中による日本独自の資源供給ルートを求める政策に、何らかの対策を講じなければならないと協議を行っていたのである。

■筆者プロフィール:池上萬奈

慶應義塾大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)、前・慶應義塾大学法学部非常勤講師 現・立正大学法学部非常勤講師。著書に『エネルギー資源と日本外交—化石燃料政策の変容を通して 1945-2021』(芙蓉書房)等。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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