ウクライナ戦争で国連は本当に無能なのか―日本外交に出番のチャンスも 

山崎真二    2022年3月31日(木) 8時20分

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「国連無能論」や「国連無用論」がまたぞろ、噴出している。写真は国連。

◆不条理な拒否権という高い壁

「国連無能論」や「国連無用論」がまたぞろ、噴出している。今回は、ロシアウクライナ侵攻という国際法を無視した暴挙に対し、国連が何も有効な手立てを打てないという批判や不満に基づくものであることは指摘するまでもない。2月末の国連安保理で対露非難決議案がロシアの拒否権行使により、葬り去られたことは今更ながら安保理の限界を印象づけた。ロシア、米国英国、フランスおよび中国が安保理常任理事国として拒否権を持つ以上、他の非常任理事国10カ国がすべて賛成したとしても、この5カ国の1カ国でも反対すれば安保理として何ら決定ができないという仕組みは不条理とも言える高い壁である。周知のとおりその後3月初め、国連総会の緊急特別会合が開かれ、ロシアを非難し、軍部隊の即時撤退を求める決議案を圧倒的賛成多数で採択した。この国連総会の緊急特別会合は安保理の要請によって開催された。ここまでは日本の大手メディアも報じているが、同決議をめぐる安保理と国連総会の手続きの重要な意味についてはほとんど伝えられていない。安保理と国連総会の関係について若干細かい説明しよう。

◆実は機能していた安保理と総会の仕組み

今回、安保理は対露非難決議不成立を受け「平和のための結集決議」に基づき国連総会の緊急特別会合の開催を求める別の決議案を11カ国の賛成によって採択している。この決議案の採決ではもちろん、ロシアは反対したが、同じ議題を安保理から総会に移すことは「手続き条項」とされ、拒否権が適用されないのである。さらに「平和のための結集決議」というのは、「常任理事国の不同意のため安保理が国際平和と安全の維持について、その主要な責任を果たせない場合」に総会を緊急に招集できるというもので、1950年の総会で採択された。正確に言えば、常任、非常任を問わず安保理の9カ国以上の賛成によっても、また国連加盟国の過半数の賛同があれば招集可能とされている。今回はまさに、安保理と総会の仕組みが機能したからこそ、総会の緊急特別会合の開催が実現したことになる。同会合での対露非難決議案に賛成した国は国連加盟国193カ国のうち、141カ国に上り、国際社会の大多数がロシアの暴挙を糾弾する強い意思が表明される形となった。もしも、同会合が開かれねば国際社会のメッセージを示す場はなかったわけで、この点では国連の存在意義があったと言えるだろう。ただし、国連総会での決議には法的な拘束力がないため、この決議の実際の有効性が疑問視されるのは当然だ。

◆「平和のための結集決議」で停戦実現の可能性も

実は、国連総会は単なる決議採択以上の措置を取ることが可能との説が有力である。それは、安保理が機能不全に陥った場合、総会が軍隊の使用を含む集団的措置を勧告できる旨、「平和のための結集決議」でうたっていることに依拠する。1956年のスエズ動乱(いわゆる第2次中東戦争)の際、「平和のための結集決議」に基づき、今回同様に緊急特別会合が開かれ、即時停戦を求める決議が採択された。同決議によって停戦が実現し、休戦ラインに国連緊急軍(UNEF)が派遣され、紛争当事各国の撤退への道が開かれた。当時は国連とともに米国とソ連が英国、フランス、イスラエルに停戦圧力をかけるという、現在とは全く異なる国際情勢だったが、総会が安保理に代わり国際平和と安全の維持に重要な役割を果たした異例のケースとして記憶される。

◆ブラジル、ドイツ、インドと連携して安保理改革を

スエズ動乱の即時停戦を求める決議案作成に携わった明石康・元国連事務次長は「当時のハマーショルド国連事務総長とカナダのピアソン外相が寝食を忘れて緊密に協力したことが実を結んだ」と回想する。ピアソン外相はこの功績でノーベル平和賞を受賞している。では、今回のロシアのウクライナ侵攻で国連が同様の行動を取れないのかというと、筆者が取材した複数の国連関係者は手続き上は可能だとしながらも、「ロシアの停戦意思が希薄な上、戦火が大規模に拡大している現状では困難」と口をそろえる。それでも、どこかの国なり政治家が果敢にイニシアチブを取り、国連に協力すれば停戦合意につなげることは不可能ではなく、国連憲章第6章の下で国連平和維持活動(PKO)部隊を派遣することが想定できるという。国連の存在意義を示す余地がまだあるというわけだ。

「外交の柱に『国連中心主義』を唱える日本が単なるお題目ではなく、本当に国連外交を進めるなら、ウクライナ戦争の今がその時」(元外交官)との声も聞かれる。何も日本一国だけでやらずとも、安保理改革に向け連携しているブラジル、ドイツ、インドと一緒に、すなわちG4として行動を起こすことも考えられる。先に、ウクライナのゼレンスキー大統領が国会演説でロシアの侵攻に対し安保理が機能マヒに陥っている現状を指摘、国連改革に向け日本のリーダーシップへの期待感を示したことも思い起こされる。ウクライナ戦争は日本外交のチャンスになるかもしれない。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

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