<日本の海洋資源開発>地球環境に配慮した効率的開発必要=再生可能エネルギーとの両立を

山本勝    2022年3月12日(土) 8時30分

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脱炭素社会への掛け声のもと、石炭、石油、天然ガスにたいする風当たりが強い。これら化石燃料は人類発展の原動力であり、安価、安定的、エネルギー効率のよさという利点は当面揺るぎそうもない。

脱炭素社会への掛け声のもと、石炭、石油、天然ガスにたいする風当たりが強い。これら石化燃料は人類発展の原動力であり、安価、安定的、エネルギー効率のよさという利点は当面揺るぎそうもない。メタンハイドレードなど新たな資源の眠る海洋開発はわが国では緒についたばかり。化石燃料をふくめて地球環境に配慮した海洋資源の効率的開発と利用に注力していくことが、国際社会に貢献する道である。

“脱炭素社会の実現”を合言葉に化石燃料にたいする風当たりが強い。化石燃料とは、大昔に地中に埋もれた有機物が長い年月をかけて変化し、燃料となったもので、石炭や石油、天然ガスがこれに相当する。

いうまでもなく人類はこの化石燃料を手に入れたことで、産業革命を経て爆発的な経済の発展をみた。人口の増加を可能にしたのも高エネルギー源として利用できる化石燃料であり、人々の暮らしを豊かにしてきたのもあらゆる素材の元となる化石燃料があってこそのことである。

化石燃料の本格的開発、利用は産業革命を起こした石炭から始まった。20世紀に入り石油の時代に移り、天然ガスは採掘方法が異なるシェールガスもふくめて近年急速に開発、利用が進んできた。

石炭は世界にあまねく豊富に存在し、古くから陸上の鉱山で採掘がおこなわれてきた。石油、天然ガスはその存在に地理的偏りがあるものの急速な需要の拡大とともに開発がすすみ、20世紀に入ってからは海底油田に生産がひろがった。現在では約4割が海底からのものとされる。

海底油田の開発には、海上という厳しい自然環境と、海底下の掘削という技術的困難さがつきまとう。大型リグ(石油プラットフォーム)による安定的操業が可能になったのは20世紀の半ば以降である。さらに掘削技術の革新やICT技術の導入により、より深い海底下の掘削が可能となり、現在では数千mを超える深海での採掘もおこなわれていて、その進歩は驚異的だ。

わが国の石炭鉱山はすでに採算上の理由ですべて閉鎖され、石油や天然ガスも新潟沖や千葉県などでホソボソと採掘されているだけで、化石燃料はほぼすべて海外からの輸入に頼っているのはご存知のとおりだ。

現在世界で海底油田からの採掘が大規模に行われているのは、メキシコ湾、北海、ブラジル沖、西アフリカ沖などで、こうした海域で活躍する掘削船と掘削技術者は地の利もあって欧米に独占され、日本の技術や人の影は極めて薄いのが現状だ。

海底には既存の化石燃料だけでなく、新しいエネルギー源としてのメタンハイドレートをはじめとして、コバルトやニッケルなどの希少金属が豊富に存在し、しかも日本近海に広く分布していることが明らかになっている。

わが国が600億円をかけて建造したJAMSTEC(海洋研究開発機構)の地球深部探査船「ちきゅう」が中心となって2005年から探査を続けてきた成果である。「ちきゅう」は研究調査船であるが、同時に世界屈指の掘削能力をもつ商業掘削船でもある。資源の乏しいわが国にあって、欧米に後れをとった海底資源開発の技術獲得と人材の育成が「ちきゅう」のもうひとつの重要な役割といっていい。

わが国で唯一の海の総合大学である東京海洋大学では2017年、「海洋資源環境学部」が新設され、地球環境への配慮とともに海洋性の資源の開発、利用に関する研究と人材の養成が始まり、2021年には初めて卒業生を社会に送りだした。

78億の世界の人口がおしなべてより豊かな生活に移行するには、安価で、安定的、エネルギー効率の高い化石燃料に当面頼らざるをえないことは自明の理である。

既存の化石燃料の利用を維持するためにも、CO2削減技術の開発を急ぎ、再生可能エネルギーとのベストミックスを現実的なスケールとテンポで進めることが最良の道だと信じる。

環境問題のみにとらわれ、石化燃料を否定するごとき政策を押し進めることの危うさを正しく認識し、これを煽る一部投資家の言動やマスコミの論調に惑わされないことだ。

わが国は、緒についたばかりの海洋資源開発の意義と方向性を再確認し、化石燃料もふくめて地球環境に配慮した海洋資源の効率的開発と利用に注力していくことが、国際社会に貢献する道である。

■筆者プロフィール:山本勝

1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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