ロシア軍がウクライナに侵攻した「地政学上のメカニズム」とは―中国人専門家が読み説く

中国新聞社    2022年3月7日(月) 21時50分

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北京航空航天大学高研究院/法学院の田飛竜准教授が、ロシアが開戦に踏み切った「地政学上のメカニズム」を解説した。

ロシア軍がウクライナに攻め込んだ。日本及び西側諸国ではロシアのプーチン大統領を非難する声が極めて強い。ただ、ロシアを非難するだけでは解決策も浮かばないし、同様の事態の再発防止にも結び付きにくい。北京航空航天大学高研究院/法学院の田飛竜准教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、ロシアが開戦に踏み切った「地政学上のメカニズム」を解説した。以下は田准教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■ウクライナには「危機回避能力」が欠如していた

主権の概念の確立が始まったのは、欧州で30年戦争を終結させるために1468年に締結されたウェストファリア条約だった。その後、第2次世界大戦後のヤルタ体制まで、主権国家の安全保障のためのさまざまな制度が発展してきた。

しかし安全保障体制は固定されたものではなく、主要大国の勢力範囲と権限が変化しつつある中で、その時々の状況に応じたバランスを取ることで維持されてきた。

そして、例えばウクライナが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を望むなどの同盟関係の構築は、主権国家としての権利の問題であるだけでなく、大国間の勢力バランスの問題に直接に絡む。従ってウクライナのような大国に挟まれた国の指導者は、自国が置かれた微妙な状況と政策決定がもたらす結果あるいはリスクを慎重に評価せねばならない。

ウクライナの政界では「親西側派」が多数を占めている。彼らは必然的に「反ロシア」だ。そして、民主主義の歴史が短いウクライナは文化的にも政治的にも成熟しておらず、国際政治のはざまで生きる知恵や地政学的リスクに対する判断力や管理能力は未発達だ。

■NATOはソ連崩壊直後の言葉に反して「東方拡大」を続けてきた

ロシアは開戦に踏み切る前に、NATOに対して事実上の「最後通告」として、自国の安全についての懸念を払拭するような、法的拘束力を持つ文書を作成することを求めていた。NATO 側は応じなかった。NATO側は1990年代に、「東方拡大」は行わず、ロシアの安全を保障することを約束したが、かつては東側陣営だったポーランドやチェコスロバキアなどを次々にNATOに取り込んできた。

米国をはじめとするNATO各国は、なし崩し的にNATOの「東方拡大」を行って、ロシアの戦略的安全空間を極度に圧迫してきた。それは、ロシアが「新たな現実」を受け入れざるを得なくする方策だった。このことは、ソ連崩壊後の米国を中核とする「自由帝国」の拡大が、節度がなく信用もされない方式だったことを意味する。

西側が望んだのは「ぼろぼろになったロシア」だった。しかし結果として、ロシアのナショナリズムは絶えず刺激され、強まることになった。

従って、ロシアのウクライナ侵攻の本質は、拡張を志向するNATOに対するロシア・ナショナリズムの抵抗だ。ウクライナに対する主権侵害だけを視野に入れたのでは、この戦争の背後にある歴史の重みや事態の複雑さを解き明かすことはできない。

米国は、ウクライナ危機による最大の受益者かもしれない。ロシアからドイツに天然ガスを送るノルド・ストリーム2のプロジェクトは凍結された。また、欧州から米国に良質な資本が流れ込む可能性も強まっている。さらに「ロシアによる危機」を名目に西側諸国の結束を強めることもできる。しかし米国は、建設的で制度化された解決策を提供したわけでない。

■「ロシアは大国」を容認しないと危機から脱却する出口は見えてこない

今回のウクライナ問題で改めて、国連の安全保障能力の限界が露呈した。ロシアは安保理での拒否権を持つので、安保理が動くことはできない。そこで米国側は、緊急国連総会を開催させる策に出た。そして総会でロシア非難決議を採択することに成功した。この決議に強制力はないが、米国主導のNATOの措置に、ある種の「道義的合法性」をもたらすことはできる。

歴史的経験に照らせば、大国は戦争の根源にもなり平和の礎にもなる。これこそが、国連安保理の常任理事国に拒否権を持たせた理由だ。そして大国同士が対立すれば、安保理の平和維持能力は「頭打ち」になる。ロシアの安保理常任理事国の地位を剥奪すべきとの主張があるが、軽率な意見だ。ロシアは常任理事国であろうがあるまいが、大国である事実に変わりはない。ロシアを排除した安保理は「拡大版NATO」になり下がり、効果的な安全維持をすることが、なおさら困難になる。

しかし、事態に出口がないわけではない。重要なのは地政学上の要請などから発生する安全保障の問題と国家の主権の問題を、並行して議論せねばならないことだ。主権の論理だけに基づいて制裁を実施し、軍事支援を行ったのでは、事態はますます望まない方向に進展するだろう。脅威を感じる側の国の安全保障上の関心時に目を向けて、的確で制度化された解決方法を見出さねばならない。

ウクライナ危機はまた、NATOの拡張性と紛争源の性格を改めて明らかにした。国際法の枠組みがどのようにNATOの覇権指向を抑制し、どのようにして米国がNATOを利用して世界的な拡張(特にインド太平洋)を行うのを阻止する「平和国際法」を形成するかは、安定と平和秩序を求めるための鍵でもある。(構成 / 如月隼人

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