<露のウクライナ侵攻>いかなる戦争も「悪」、理解不能な「理由」=「永遠の不戦」をめざせ

八牧浩行    2022年2月26日(土) 8時20分

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ロシアがウクライナに軍事侵攻した。言語道断の侵略行為で、即座に攻撃を停止すべきである。(写真はロシア駐中国大使館ウェイボ公式アカウントより)。

ロシアウクライナに軍事侵攻した。言語道断の侵略行為で、即座に攻撃を停止すべきである。「世界の警察官」役を放棄した米国の足元を見すかした形だ。米国は、覇権を争う中国を「唯一の競争相手」と位置づけ、エネルギーを「中国叩き」に集中してきたが、その隙をつかれた格好。戦略の見直しを迫られている。

その見直しの第一弾と見られる動きが出てきた。米司法省は2月23日、産業スパイなど中国の技術窃取を重点的に取り締まる「中国イニシアチブ」を打ち切ると表明した。トランプ前政権が2018年に始めた取り組みだが、人種差別を助長したり科学の国際連携を妨げたりするとの批判が出ていた。トランプ前政権は中国イニシアチブを立ち上げ、産業スパイやサイバー攻撃を通じた行為を重点的に取り締まり、著名な米大学教授などを起訴してきた。中国イニシアチブをやめる理由について、アジア系を標的とした憎悪犯罪(ヘイトクライム)の増加など人種差別の懸念を挙げた。

◆中国は「深入り」を回避

ロシアが一線を越えてウクライナに侵攻したのは、国内に深い分断を抱える米国の国際社会での指導力が衰えていることが背景にある。欧米諸国がロシアに対する反発を強める中、ロシアと蜜月状態にある中国は慎重な態度を見せている。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対するロシアに同調しつつ、ウクライナの主権侵害に難色を示す。各国の自制や対話による解決を呼び掛けながら、深入りを避ける構えだ。

王毅国務委員兼外相は2月24日、ロシアのラブロフ外相と電話会談し、NATOの動きを念頭に「ロシアの安全保障上の合理的な懸念を理解する」と述べた。中国外交部の華春瑩報道局長は同日の記者会見で、ロシアの行為は侵略かと質問されたが、正面から答えなかった。

中露は米国に対抗して共闘する思惑で関係を強化している。習近平中国国家主席とプーチン露大統領は北京冬季五輪の開会式当日の2月4日に会談し、共同声明でNATO拡大反対を表明した。米側では中国が影響力を行使してロシアを説得すべきだという意見が出ているが、中国は中露の友好関係を引き離す企てだと警戒。華報道局長は「ロシアは独立自主の大国で、己の判断や利益に基づき自国の外交や戦略を決めている」と語り、中国が介入する余地はないと突っぱねた。

王氏はラブロフ氏に「中国は一貫して各国の主権や領土の一体性を尊重している」と説明した。中国は2014年のロシアによるクリミア半島併合時と同様に、ウクライナ東部・親ロシア派2地域の「独立」も承認しないとみられる。地域の分離・独立を容認すれば新疆ウイグル、チベット両自治区などに影響が及びかねないためだ。 

◆中国・ウクライナ関係も緊密

一方、中国にとってウクライナも重要な友好国。習氏は2022年1月、両国国交樹立30年を祝うメッセージをゼレンスキー大統領に送り、「戦略的パートナー関係の発展を非常に重視している」と記した。中国の専門家は同月に、共産党機関紙・人民日報系の環球時報で、中国の友好国である両国による戦争の泥沼化を「中国は見たくない」と指摘している。

ウクライナは「一つの中国」の方針と「一帯一路」戦略を支持し、2019年以降、中国が最大の貿易パートナーとなっている。2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36%増で、輸入額は25%増。いずれも20%を超える伸びを示し、輸出、輸入ともに過去最高となった。2020年の両国間の貿易額は国交正常化後30年間で60倍以上に増えている。中国からもエンジニアリング企業やエネルギー企業がウクライナに巨額の投資を行っている。軍事面でも協力関係にあり、中国の空母第一号「遼寧」はウクライナから中古船を購入し、修理した。

中国は外交的な意思決定を行う際に、事前に様々な面での「損得」をしたたかに勘案する。その基本方針は「対話による平和的解決」(中国シンクタンク幹部)である。発展途上にあり経済力で米国に迫りつつある中国にとって、「経済的な安定」が最優先であり、戦乱に巻き込まれないよう周到に配慮するという。中国がロシア側に就けば欧州諸国を敵に回すことになり、米中両国が対立する中での欧州との関係悪化は自国の利益を損なうとの懸念も根強いようだ。

その中国への働きかけも国際社会としては重要となる。中国はロシアと「反米」で思惑が一致し、蜜月関係にある。しかし、この件でロシアを擁護することに正義はない。国連安保理の常任理事国としての責任を果たすべきである。

◆「イデオロギー先行」や「国家のメンツ」が招いた悲劇

戦後の国際秩序は今、大きく揺らいでいる。ロシアと新興大国インドも接近している。ロシアへの経済制裁についてインド外務省は「影響を考えて慎重に検討する」と明言を回避、ロシアに配慮した。インドのモディ首相とプーチン大統領は2021年12月にニューデリーで首脳会談を開き、新たな10年間の軍事協力を締結した。インドはもともとロシア産の兵器を大量に調達する親密な関係にある。この両国と中国は上海協力機構(8カ国による国家連合)の有力なメンバー国である。

米中の対立は世界史で繰り返されてきた新旧勢力の衝突に向かうかのようにも見える。衝突回避に有用なのは、戦争の歴史に学び、真の姿に対する理解を深めることだろう。「民主主義対権威主義」などのイデオロギーを先行させたり国家のメンツにこだわったりせず、人類の「負の歴史」である「戦争」を改めて検証する理性が重要となる。

戦争とは自衛も侵略も入り乱れており、「正義の戦い」「防衛のため」といっても、水掛け論になるケースが多い。なんとしても事前に回避する基本姿勢と外交努力を忘れてはならない。また日本が中国、韓国などに多大な被害を与えたことは拭い去ることができない事実であり、その反省の上に、日本外交を展開すべきだ。さらに「狭隘なナショナリズム」に陥らないよう、戒める必要がある。

◆フォークランド紛争の教訓

戦後78年、主要国で日本だけが戦争をしなかった。ベトナム、湾岸戦争、イラク戦争。フォークランド紛争もあった…。戦後78年の平和は貴重である。悲惨な戦争の記憶を継承し、「永遠の不戦」を目指したい。

筆者は1980年から5年あまりロンドン特派員を務めフォークランド紛争を取材した。1982年、アルゼンチンが英国と領有権を巡り係争中の大西洋上のフォークランド諸島に侵攻した。サッチャー首相(当時)は「主権の侵害だ!」と叫んで艦隊を地球の裏側に派遣。3カ月にわたる戦闘の末に奪還し、国民の熱狂を呼びその後の長期政権に弾みをつけた。しかし両国間の兵士約1500人が死傷したため、欧州ではサッチャー氏は「戦争扇動人」として批判されている。

日本では戦争法制が成立、「平和憲法」改正を求める勢力は増している。「専守防衛」理念に逆らう「敵基地攻撃」まで取り沙汰されている。

国際社会が認識すべきなのは、世界にとって共通の脅威を取り除くことである。大国による露骨な「侵略」行為を制御できなければ、世界には悲惨な未来が待っている。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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