世界の海運はフィリピン人船員でもっている!=日本の商船隊船員の75%・4万人以上占める

山本勝    2022年1月23日(日) 8時30分

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世界の物流の大半を占める海上輸送をになう外航商船に乗り組む船員の約3割40万人がフィリピン人。断トツで世界一位の船員数を誇る。

数量ベースで世界の物流の大半を海上輸送が占め、昨年コロナ禍で起こった主要港湾の滞船による物流の混乱はあらためて海上輸送の重要性を明らかにした。この海上輸送をになう外航商船に乗り組む船員の約3割40万人がフィリピン人で、断トツ世界一位の船員数を誇る。

2020年の統計で、世界の主要貨物(コンテナで運ばれる電気製品、機械、衣類、食料などの雑貨、専用船で運ばれる石油、ガス、鉄鉱石、石炭などの原材料、穀物など)の海上輸送量は約114億トン。約5万3千隻、14億3 千万総トンの船で7つの海を行き来している。 

日本を取り出してみると、同年の数字でわが国の海上輸出入貨物量は、合計約8.2億トンで世界の海上物流量の約7.2 %を占め、石油、ガス、鉄鉱石、石炭などの原材料、羊毛、綿花ほか衣類はほぼ100%、食料などの必需品も50~100%を海外からの輸入に頼っている。まさに国民の生活は海上輸送なしでは成り立たないのが実態である。

前回コラムでもとり上げたが、昨年はコロナ禍による港湾の機能低下や、船員の交代困難に起因する運航効率の低下などにより、世界の主要港湾で多数の船の滞留が起こり、結果として物不足による生産の低下や運賃の高騰など世界のサプライチェーンに大混乱をきたしたのは記憶に新しい。これは国際的物流における海上輸送の役割の大きさをあらためてあぶりだした事象といえる。

この世界の物流の大動脈である海上輸送の現場をになうのが外航商船に乗り組む船員であるが、その現状を少し詳しく見てみたい。

◆日本船籍でも日本人船員はごく少数

海上で働く船員の数は、各国政府ほか国際的海事団体・機関などが算出する種々の数字があり、それぞれ算出のベースが必ずしも同じでないため特定するのは難しいが、それらをザッと見わたして推定される数字は現在約130万人である。

船には国籍があるが、日本の旗を掲げているから日本人船員が乗り組んでいるというのは半世紀も前の話で、現在の制度では一船の乗組員は時々の経済合理性にもとづいて供給される世界のさまざまな国籍の船員で構成されているのが一般的である。

現在の世界の商船隊5万隻余、130万人の船員のうち国籍別でみると、断然トップがフィリピン人で約40万人とほぼ30%を占め、次いで中国、インドネシア、ロシアウクライナといった国の船員がつづく。

わが国は支配船隊規模で世界の商船隊のほぼ1割を占める実質的に世界最大の海運国である。ところが日本の商船隊約3,900隻に乗り組む約5万6千人の船員のうち実に75%超に当たる4万人以上がフィリピン人である。インド、ミャンマー、中国の船員が合計1万1千人、20%でこれに次ぎ、日本人は2千人強、3.5%程度に過ぎない。

◆比船員は40万人、「英語力」「勤勉」に評価

フィリピン人が日本のみならず、世界の海運で活躍している理由は、一つには英語が話せること、また性格が明るく勤勉なことなどがあるが、背景にはかつての日本、欧州といった主要海運国から供給されていた自国籍船員が、グローバルな競争にさらされる外航海運にあって主として高コストという経済的要因によって発展途上国船員に置き代わっていったという経緯がある。

近年ではインド人、中国人船員の進出もめざましいが、日本をはじめとして主要な海運企業が30年以上も前からフィリピン国内で船員の教育・訓練のための施設を整え、船員としての能力開発をつうじて安定的供給体制の構築をはかってきた歴史がある。またフィリピンが国をあげてこうした需要に応えていることもあって、当面世界の海運で最大の船員供給国である地位を譲ることはないと思われる。

まさしく世界の海運はフィリピン人船員でもっているのである。

■筆者プロフィール:山本勝

1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。

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