「孔子学院」は中国のスパイ機関!?その実態は―立命館孔子学院名誉学院長・周瑋生氏に聞く

Record China    2021年9月17日(金) 18時40分

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「中国のスパイ養成機関」などの批判のある孔子学院。その実態について立命館孔子学院名誉学院長・周瑋生氏に聞いた。2007年5月立命館大学で開催された第1回「世界孔子学院論壇フォーラム」で講演する周教授。

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中国語や中国文化を海外に広めるための機関「孔子学院」。アメリカなど一部の国では「中国のプロパガンダ機関」「スパイ養成機関」などの警戒や批判の声があり、また一部は閉鎖された。日本政府も今年、孔子学院を設置する国内大学に対して情報公開を促していくと表明した。

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では、孔子学院とはいったいどのような機関なのか。批判の声をどのように受け止めているのか。立命館大学教授で立命館孔子学院名誉学院長の周瑋生氏に話を聞いた。

――孔子学院とはどのような機関なのでしょうか?

この問題は多くの外国人だけでなく、実は多くの中国人もよく理解していないようです。孔子学院は中国と外国の協力により設立される非営利公益性教育機関で、中国語の普及促進を目指し、世界の人々の中国語と中国文化への理解を深めること、中国と外国間の人的・文化的交流を推進し、国際理解を増進することを目的としています。

「孔子」の名前を冠した理由は、孔子が中国のみならず、国際的にも広く認められている中華の伝統文化における最も代表的な存在だからです。孔子が主張する「和をもって尊しとなす」、「己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」などの儒家思想は、中国の伝統的な文化思想と行動規範の一部であり、それはまた中国の外交政策における「仁善隣」(隣国と仲良くする)、「和して同ぜず」(他者と協調するがむやみに同調はしない)の哲学的基盤でもあります。

もちろん孔子学院は儒家学院ではありません。大学などのような教育機関でもなく、中国語や中国文化の普及機関です。

――現在では世界約160カ国に設置されているということですが、孔子学院はどのように普及していったのでしょうか。

私は2004年から、日本初の孔子学院である立命館孔子学院の設立(2005年)に携わってきました。当時、中国の方針は「一国一校」で、世界に100校の孔子学院をつくる「百校計画」がありました。しかし、中国語学習者の増加に伴い、外国の大学が孔子学院の設立を申請する件数も急増し、2006年には各国に設立された孔子学院の数が100校を超えました。もともとの「百校計画」では世界のニーズは満たせなかったのです。

中国国際中国語教育基金の報告によると、2019年末現在、世界162カ国・地域に550の孔子学院と1172の孔子学堂(学院より規模が小さい中国語教育機関)が設立されています。2004年の7校から大きく増加しており、年間平均成長率は30%を超えています。成長スピードがあまりにも速いため、「孔子学院現象」とも呼ばれています。

これは、中国が自らの文化や言語を主体的に海外に「輸出」していると同時に、中国の将来性に期待している学習者自身の選択でもあると考えられます。

――孔子学院はどのような手順で開設されるのでしょうか。また、運営方法はどのようになっているのでしょうか。

開設には、まず外国側から孔子学院本部(現在は教育部中外言語交流協力センター)に申請をします。そして、双方が十分な協議を行った上で調印に至るわけですが、共同運営を行う中国側の提携大学が必要となります。資金や教師などは中国側と外国側が共同で負担します。つまり、孔子学院は中国が単独で運営しているのではなく、現地のパートナーと協力して運営するという方法を取っています。

学院長や理事長、教学担当副学院長、事務局長は、一般的に外国側の機関が中国側と協議することなく自ら任命します。一方で、もう一名の副学院長や副理事長は中国側の協力機関が任命し、外国側とは協議を行いません。立命館孔子学院の理事長は立命館大学の学長が兼任し、院長と教学担当副学院長、事務局長はいずれも理事長が任命します。協力機関である北京大学が副理事長1名、副院長(中国側院長)1名を任命します。

各孔子学院では、それぞれ独自に教育内容と交流プログラムを計画し、実施しています。各学院は主に本部に対する資金補助の申請を目的として年次業務計画を作成していますが、本部はその内容について具体的な指導や要望を出すことはしません。私が院長を務めた5年間、中国側から具体的な指導や要求を受けたことは一度もありませんでした。

――孔子学院で実際に指導に当たっている教員の方はどのように採用されるのでしょうか。また、教材の指定はあるのでしょうか。

教員については主に外国側がその人選を決定します。中国の提携先と事前に協議する必要はありません。ただし、現地の中国語教師が不足した場合などは双方で協議し、中国側から派遣することもあります。

日本について言えば、欧米諸国に比べて中国語教育の基礎が優れており、大学にも関連のカリキュラムが多くあります。街中には多くの中国語教室も存在し、教師の質も高い。そのため、主として日本にいる日本人教師や日本で中国語を教える華僑・華人教師が教員を担当することになります。

教材の選択は担当教員に一任されています。中国側から図書を寄贈されることもありますが、指定はされません。私の5年間の在任期間には、担当教員や事務室から中国からの教材指定があるという話は聞いたことがありません。

――運営にかかる費用負担はどのようになっていますか。

基本的に中国側と外国側が半分ずつ負担します。2015年の孔子学院業務報告によると、中国と外国の投資比率は「1:1.4」で、外国側が中国側よりも多く投資をしている場合が多いです。

孔子学院では毎年、中外双方の協力機関からなる理事会を開き、経費やプロジェクトの実行状况を報告するとともに、孔子学院本部に書面で年間助成経費の実施結果等を報告しています。現在、一部で指摘されている孔子学院の「管理の透明性」の問題、つまり運営状况を外国側の政府機関に報告すべきかどうかの問題は、中国というよりも現地の設置大学の責任と判断の問題だと考えます。

――おっしゃるように、欧米や日本で孔子学院への懸念や批判の声が上がっています。これについてはどのようにお考えでしょうか。

アメリカをはじめとする一部の国から、「孔子学院はスパイ機関だ」と非難されています。こうしたことは、2004年の孔子学院事業の開始以降ずっと存在していました。しかし、事業開始から17年が経ちましたが、各国の政府やメディアがそれを裏付ける証拠を提示したという例は見当たりません。

私が調べた限りでは、これまで「スパイ機関である」と告発された孔子学院は存在しません。孔子学院はアリアンス・フランセーズ(フランス)、ブリティッシュ・カウンシル(英国)、ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ)、日本国際交流基金などと同様、自国の文化および言語の普及です。各国のこうした施設が根拠もなくスパイ機関であると言えないのと同じことだと考えています。

――授業内容への懸念の声があることについてはいかがでしょう?

孔子学院の事業が目指すのは双方向の交流です。中国は世界に自らを知ってもらう必要があり、世界もまた中国を理解する必要があります。つまり、中国の需要であると同時に世界各国の需要でもあるのです。これは、孔子学院の設立・運営を中国側と外国側とが協力して行う理由の一つであり、各国の言語文化機関と同じです。文化事業や語学学習を通じて自国への理解と支持を得ることは、他国も同様に行っていることではないでしょうか。

私が立命館孔子学院の初代院長を務めた5年間には、授業でいわゆる政治的な宣伝を行った教員は一人もおらず、時間割を確認しても政治宣伝に関する授業は一つもありませんでした。本部から立命館孔子学院に寄贈された図書の中にも、政治宣伝に関するものは1冊もありませんでした。

上述の通り、院長や理事長、事務局長はいずれも外国側の機関が任命し、中国側は関与しません。教員、教材、カリキュラムなど、その運営の主導権は外国側の機関にあります。本部が各孔子学院の申請に基づき補助経費を提供することはありますが、それをもって大学の教育システムや教育内容に影響を与えることができるでしょうか。2019年2月にアメリカ政府監査院(GAO)が孔子学院90校を対象に行った調査報告書によれば、このような指摘を裏付ける証拠は1つもないとされています。

孔子学院の設置・運営などは、すべて双方の自由意志であると同時に、双方の国と大学の法律と規定を厳格に遵守するという前提の下で行われています。何の根拠もなく、アメリカ政府が一方的に孔子学院を強制閉鎖したり、孔子学院に参加しているアメリカ側の学校運営機関に対してアメリカ政府の補助を取り消すなどの威嚇的な行動を取ったりすることこそが、大学の自治と学問の自由の原則に反するものであり、ユネスコの「文化多様性宣言」と「文化多様性条約」にも違反していると言えるのではないでしょうか。(取材・構成/北田

■周瑋生氏プロフィール

工学博士(京都大学)。立命館大学政策科学部教授、立命孔子学院名誉学院長。専門は地球環境学、エネルギー経済政策学、政策工学、サステナビリティ学。新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)産業技術研究員、地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員、研究顧問、大阪大学特任教授、立命館孔子学院初代学院長、立命館大学サステイナビリティ学研究センター初代センター長、東京大学・京都大学客員研究員、国際3E研究院長、一帯一路日本研究センター事務局長などを歴任。著書(共著)に『地球再生計画-CO2 削減戦略』、『サステナビリティ学入門』、『一帯一路からユーラシア新秩序の道』、『現代政策科学』、『East Asian Low-Carbon Community』など。

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