<習近平の世界戦略(3)>米の対中「デカップリング」奏功せず=日本は米中和解促せ

八牧浩行    2021年1月3日(日) 8時10分

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コロナ禍で世界経済は大きな転換点を迎え、ダイナミックな変貌から目を離せない。菅首相は米国と中国との狭間で、国際情勢を冷静に見据えた戦略を描くことになろう。(出典:内閣府FB)

トランプ大統領は、米国経済を中国から切り離し(デカップリング)、米国を「世界の製造業大国 」に復帰する計画を掲げてきた。中国に拠点を持つ米企業に対し中国を放棄してアメリカに戻るよう求めたわけである。

しかし、在上海アメリカ商工会議所の調査によると、中国に拠点を置く米企業の70%以上が反対した。同会議所のケル・ギブス会頭は「世界最大の消費市場の中国で事業を継続するメリットは大きい」と述べている。

一帯一路・AIIB総動員、アフリカ、中東、南米にも迫る

一方、米中対立の長期化を見越し、中国はアジア、中南米、中東、アフリカを中心に勢力を広げている。広域経済圏構想「一帯一路」、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、中国・ロシア・インドなど8カ国で構成する上海協力機構のほか、中東欧や南米など世界各地で多国間の枠組みができている。中国貿易統計によると、コロナ禍の下、アジア諸国連合(ASEAN)や欧州諸国との貿易額は着実に増加している。

さらにアフリカ、中東、南米諸国の多くがファーウェイに代表される、中国の安価で高性能のハイテク製品への依存を深めている。アフリカの4G基地局の7割はファーウェイ製で、5Gへの転用を考えれば脱ファーウェイは非現実的。ジンバブエやベネズエラ、イランなど60カ国以上が中国と契約し、AIを使った中国流の都市監視システムを導入する。

中国企業は5G対応機器、高速鉄道、高圧送電線、再生可能エネルギー、デジタル決済、AIなど広範囲にわたり世界をリードしつつある。低成長に苦しむ国々にとって、中国の巨額投資や巨大市場は魅力的だ。

途上国を中心とした大半の諸国は民主主義や人権にはあまり関心がなく、重視するのは「経済」。コロナ禍でその傾向が強まっている。多くの国にとって最大の貿易投資国は中国であり、本土との窓口である香港にも世界各国の多数が進出している。

昨年6月、中国が香港の一国二制度を見直し、国連人権理事会で香港国家安全維持法が審議されたが、反対したのは日本をはじめ27か国に対して、支持する国が53か国に達し、中国を擁護する国が大半を占めた。

◆中国輸出管理法、運用は抑制的

中国は20年12月1日、中国は安全保障などを理由に戦略物資などの輸出規制を強化する輸出管理法を施行した。国の安全と利益を守るため、軍用品やデュアルユース(軍民両用)品について、輸出を禁止できるようにする。米国のトランプ政権が始めた華為技術(ファーウェイ)など先端IT企業を対象とする輸出規制に対抗すべく導入した報復措置である。

中国が対抗措置として米企業を禁輸対象にすれば、対中制裁に同調した外国企業も制裁対象になりうる。輸出の許認可審査の際、関連技術の開示を要求されるのではないかという不安も広がるが、日中貿易関係者の多くは「直接には米国に対して発動することを念頭に置いており、軍用品、デュアルユースの範囲は米国が取る措置に応じて柔軟に対応する」と見ている。

米中の覇権争いが激化する中、米国が貿易をツールに中国を攻撃する狙いは、軍事面での優位を維持するためにハイテク覇権を保持することである。日本の商社幹部は「日中両国は軍事に関わる部分ではデカップリングが必要でも、その他の分野は相互依存が大きく、米中経済全体をデカップリングすることはできない」と指摘。特に貿易の比重が高い中国はサプライチェーン(供給網)分断の回避を最優先せざるをえず、抑制的に運用すると見通している。

◆アジア太平洋の経済相互依存、高まる

アジア太平洋の経済相互依存で、日本は絶好のポジションに位置する。米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)と中国、韓国、東南アジア、インドなどが加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をともに推進し結合させればこの地域の繁栄と安全に繋げられる。

菅義偉首相は日米同盟を基軸としながら、中国とも経済を中心に協調する戦略を描く。安全保障を依存する同盟国・米国と最大の経済貿易相手国である中国との狭間で、激動の国際情勢を冷静に見据えた戦略を描くことになろう。米中の2大国に向け和解を促す役割も期待される。

コロナ禍で世界経済は大きな転換点を迎えている。ダイナミックな変貌から目を離せない。米中GDPの逆転が取り沙汰される局面では一方的な「対米依存」は国益にとってリスクにもなる。「親米リアリズム」と中ロ欧州など「ユーラシア諸国」とのバランスが日本にとっては生命線となろう。

◆専守防衛・全方位外交で対処を

米オバマ前大統領は「世界の警察官」の役割から降りると宣言し、トランプ氏も引き継いだ。安倍前首相は集団的自衛権の行使容認など日米同盟の強化に動き、オーストラリア、インドを加えた4カ国協力を構想して「力の空白」を埋めようと努めた。しかし安全保障の要諦は「軍事」より「外交」。巨額財政赤字にあえぐ日本には軍拡競争に参戦する余力はない。攻撃を受ける前に相手の拠点をたたく敵基地攻撃は専守防衛方針に逆行するリスクは甚大。全方位外交で対処するべきだろう。

中国のしたたかな中長期戦略について予断を持たずに、正確にフォローし分析し備えることが今こそ求められる。

(完)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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