<習近平の世界戦略(2)>アジア経済圏からの米排除狙う=米国の機先制す「TPP加盟検討」

八牧浩行    2021年1月2日(土) 8時30分

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中国・習近平主席はTPPへの加盟を検討すると表明した。TPPから離脱した米国の政権交代を前に、アジア太平洋地域の主導権争いで優位に立とうとの思惑がある。自由貿易圏を巡る米中の確執から目を離せない。

「環太平洋経済連携(TPP)への加盟を検討する」――。11月下旬にオンラインで開催されたAPEC首脳会議で、習近平主席は唐突に表明した。TPPから離脱した米国の政権交代を前に、アジア太平洋地域の主導権争いで優位に立とうとの思惑が透ける。

中国のシンクタンク幹部は「バイデン次期政権になって米国がTPPに復帰すれば、中国にとってTPPが強力な対中包囲網になってしまう。その最悪のシナリオを回避するには、中国が米国の復帰前にTPPに加盟するのが得策と判断したようだ」と解説する。

習主席には米国をアジア経済圏から排除する思惑があるとみられるが、中国にとってTPP加盟のハードルは高い。RCEPに比べて関税自由化の水準が高く、知的財産権の保護や技術移転の強要禁止といったルールも厳格である。さらに電子データの扱いや国有企業など中国共産党の統治体制にかかわる課題に対応する必要がある。

しかし中国社会科学院の研究者は「米中対立が強まる中で多国間協調をアピールするメリットは大きいと判断した。課題をクリアするのは可能でTPP加盟は実現するだろう」と指摘。加盟により米国をアジア経済圏から排除することに注力すると分析している。

◆アジア経済圏の確立を優先

仮に中国がTPPに加盟すると、米国はアジア経済圏から排除されかねない。米国の対応が注目されるが、米国では超党派で反自由貿易、保護主義を強めており、簡単にTPP復帰が可能になる状況にないのが実情だ。TPPが志向する自由貿易が米国の職を奪っているとのトランプ氏の主張は、米国中西部のラストベルトの人たちにアピールした。

一方でベトナムなどTPP加盟国の中には、当初のTPP交渉ではさまざまな米国の要求に譲歩させられた国も多い。「トランプ政権が交渉から離脱した結果、譲歩させられた項目の一部が凍結になり、それが前提で国内手続きも何とか切り抜けた。米国が戻り、さらに厳しい内容の協定を求められるのを懸念する。厳しい要求をせず、大市場を有する中国の加盟の方がありがたい」(アジアの開発途上国)との声があることも事実である。

昨年12月1日、李克強首相が議長を務める国務院常務会はRCEP協定の発効・実施に関する方針をまとめた。

(1)当局間の連携を強化し、国内の承認手続きを加速する。

(2)協定実施後に域内の物品貿易において関税の撤廃される製品数が全体で90%に達することなどを念頭に、関税減免、税関手続きの簡素化する。

(3)協定の実施と関連する規則や制度の整理及び整備を急ぐ。

(4)地方政府、業界団体、企業に向けた協定実施に関する説明・研修を強化するーなど4項目である。

中国政府の迅速な積極姿勢は異例だ。まずRCEPで中国経済に依存する国々を囲い込んでからTPP加盟に踏み出す戦略のようだ。

◆EUに続き対米投資協定も視野

中国の有力大学教授が語る。「中国にとっての戦略的意義は、米国バイデン新政権によるTPP加盟の動きにも関わりなく、中国は周囲国やRCEP 関連国と地域経済の一体化に尽力していく。米国がTPPを離脱した4年前と比べて、中国はさまざまな分野で国力も大幅に増強されたので、たとえ米国が中国を押さえようとしても徒労に終わる」。

名実ともに世界一の経済大国への道が射程に入った中国が、RCEP、対EU投資協定の合意のあと目指すのは日中韓FTA(自由貿易協定)である。毎年3カ国持ち回りで開催される日中韓首脳会議の議題となっている。さらには長年交渉してきた対米投資協定も視野に入れている。「最大の消費市場」を武器に多国間経済協定をさらに拡大する意向を隠さない。同協定には米国の産業金融界も強く求めているのが実情だ。

(つづく)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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