<直言!日本と世界の未来>日米豪印外相会談の光と影―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年10月11日(日) 6時40分

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日本、米国、豪州、インドの4カ国外相会談が先週東京で開かれ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け様々な分野で協力することで一致した。米国主導で台頭する中国包囲の狙いがあるというのは気にかかる。

日本、米国、豪州、インドの4カ国外相会談が先週東京で開かれ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、海洋安全保障や質の高いインフラの整備など様々な分野で協力することで一致した。コロナ禍にもかかわらず4カ国の外相が顔を合わせ、ルールに基づく国際秩序を築く理念を共有した意味は大きいが、米国が主導し、台頭する中国を包囲する狙いがあるというのは気にかかる。

ポンペオ国務長官は外相会談で「4カ国が連携し、国民を中国共産党の腐敗や搾取、威圧から守る重要性は増している」と強調した。11月の大統領選を前に中国に対抗する強硬姿勢をアピールし、対中包囲網につなげる狙いを強調したとされる。

参加国の間には考え方に相違があるようだ。ポンペオ米国務長官は対中包囲網構築の必要性を強調したが、豪州とインドは中国批判を避け、「包摂的な枠組みである」とくぎを刺したという。豪印両国はこれまで、中国との関係に配慮し、慎重姿勢を示してきた。経済では中国との関係が深い両国にとって、米中の対立は好ましくない。とりわけ「非同盟」の伝統をもつインドは中国ともバランスをとる外交を続けるだろう。中国が強硬的な行動を自重すべきなのは言うまでもないが、中国に対抗して緊張をあおるだけなら地域は不安定化し、繁栄にはつながらない。

外相会談では、他国に連携を広げることでも一致したというが、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、多くの国々は、米国につくか中国につくかの選択を明確にしようとしないのが現実だ。

南シナ海への海洋進出など既存の秩序に挑む中国の行動を抑えつつ、時間をかけて変化を促し、協調による共存をはかる必要がある。米政府には、多国間の安全保障の枠組みに発展させたい思惑もあるようだが、地域の緊張と分断を深める恐れがある。軍事とは切り離し、外交的な協力関係とすべきだ。さらに中国も枠組みに引き入れ、法の支配や人権の尊重といった普遍的な価値を遵守するようこの地域に根付かせることが重要だ。

菅義偉首相は日米同盟を重視しつつ、中国との経済関係を強化する考えとされる。北大西洋条約機構(NATO)を参考にした「アジア版NATO」の設置構想に対し、「アジアで敵味方を作ってしまい、反中包囲網にならざるを得ない。日本外交の目指す戦略的な外交の在り方や国益に資するとの観点から正しくない。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も参加できないのではないか」(9月12日、自民党総裁選討論会)と慎重な姿勢だ。

中国は日本に関係改善を求めている。日本は課題や問題点を厳しく指摘しつつ、アジアのインフラ建設やデジタル経済の国際ルール作りなどで協力することもできる。安定に向けた長期的視点を持ち、中国がルールに基づく国際秩序と調和を図るよう粘り強く促すべきである。

安全保障の要諦は「軍事」より「外交」。巨額財政赤字にあえぐ日本には軍拡競争に参戦する余力は乏しく、全方位外交で対処するしかないだろう。トランプ政権は、「政治」を米中間の主な競争の舞台に乗せようとしているが、大半の国は「経済」第一。米国の中国包囲網は成功しておらず、「国際協調路線」への回帰を米同盟国として日本は促すべきだ。

<直言篇135>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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