<コラム>新型肺炎後の中国、オンライン医療アプリが医療界を席巻、イノベーションを促進

高野悠介    2020年3月23日(月) 9時40分

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新型肺炎の防疫体制下、オンライン医療プラットフォームが大繁栄している。写真は問診アプリ「平安好医生」。

新型肺炎の防疫体制下、オンライン医療プラットフォームが大繁栄している。2011年のスタート以来、順調に発展してきたが、新型肺炎でさらにジャンプアップした。終息後の中国医療に、どのようなインパクトを与えるのだろうか。

■問題山積の中国医療

中国の医療には、問題が多かった。“医は算術”的なエピソードには事欠かないし、中国駐在員たちの語る恐ろしい体験は、ほとんど事実である。しかし今回は、それらをスルーして、問題の本質に迫りたい。

中国では、個人開業医を「西医」、漢方医を「中医」と呼ぶ。中医は、漢方薬の調剤だけでなく、針灸、整体、按摩まで、さまざまな施術を包含する。総合病院には、中医科を設置している所もある。身体機能の回復や強化のアプローチである。一方の西医は、大掛かりに根治を目指すアプローチだ。そこで中国人は、どうせ西医にかかるのなら地元診療所より、最初から設備の充実した大病院へ行きたがる。その結果、中国の大病院は、大騒ぎとなってしまう。

地方都市が、医療資源を著しく欠いているのも大問題だ。薬局の主人が、平気で抗生物質を処方していたりする。大病院自身、ごっつあん体質や、アングラリーダーの存在など、前近代的な部分は多い。

2年前、筆者の義兄(中国人)は結石手術のため、山東省の病院に入院した。そのとき義姉は、担当の大夫(医術者の尊称)へ1000元(1万5000円)を包んだ。ところが同室の病人は3000元(4万5000円)を渡していたらしい。義姉は、看護師のサービスが全く違う、とひどく憤っていた。

■オンライン医療の急発展

こうした中国の風土は、オンライン医療発展には追い風だった。スマホ時代の到来とともに急発展していく。

最初の問診アプリ「好太夫」は、2011年にスタート。以後「平安好医生」「丁香医生」「春雨医生」などが続く。さらにテンセント「企鵝杏仁」、アリババ「阿里健康」、京東「京東健康」等、IT巨頭も参入した。

互聯網週刊「2019医療APPランキング」のトップ5は

1位 平安好医生

2位 春雨医生

3位 好大夫在線

4位 I薬店

5位 微医

中でも中国平安グループの「平安好医生」は、頭一つ抜けた存在だ。目標は「移動医療+AI」を確立し、すべての家庭にホームドクターを提供することである。主要な効能は、ホームドクター、問診カルテ、名医館、健康コミュニティーの4つ。会員制の「平安好医生私家医生会員」もある。2019年12月のユーザー数3億1500万(18.9%増)、月間アクティブユーザー6690万、売上50億6500万元(51.8%増)、うちオンライン医療業務は8億5800万元(108.9%増)だった。香港市場の上場企業である。

中投投資顧問の推計では、2018年、中国“遠程医療”市場規模は、130億元(2000億円)だった。これからの5年、平均27.6%で成長し、2022年には345億元に達する見込みだ。将来的に1000億元も狙えるという。何もなくても順風だった。そこへ新型肺炎特需の後押しである。

■新型肺炎特需に湧く

易観数居の最新データによると、防疫体制入り以後、30の問診アプリが活動し、10万の医師が診療した。国家衛生健康委員会が、率先して利用を推奨したのも追い風となった。

この期間、平安好医生アプリの累計閲覧者数は11億におよび、新規ユーザーによる問診数は、平常の9倍になった。

他のオンライン医療アプリも爆発した。京東グループの「京東健康」は、オンライン問診が1日平均10万回に達した。これは世界最大の病院5日分に当たる。呼吸器内科、感染科、精神心理科への問診が大幅に増加した。中でも呼吸器内科は、通常の10倍以上、総問診の35%前後を占める。性別は男性60%、女性40%。年齢別では、16~25歳 14%、26~35歳 53%、36~45歳 22%で、若い層が多かった。

もう1つ「微医」の取組みも“インターネット+未来”モデルとして注目を集めた。1月21日、人民日報などマスコミ各社や公的機関と提携し、無料の「新冠肺炎防治服務プラットフォーム」を立ち上げた。全国21省の125都市、1000の病院、2万人の医師の協力により、1万2000種類のオンラインサービスを提供中だ。1日50万を超えるユーザーが相談に訪れた。

■まとめ

2013年以降、中国ではスマホを核としたイノベーションが一気に進んだ。既存業界の抵抗や既得権益層の少なさは、日本に比べアドバンテージだった。キャッシュレスやシェアエコノミーが一気に浸透した。

医療は例外的に既得権の壁が高く、前近代的な業界だった。オンライン医療の発展で改革は進んでいたが、新型肺炎は爆薬となり、普及は一気に加速している。洗練された“静寂”な大病院が現れるかどうか。その可能性は十分ありそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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