<東アジア新時代(3)>不確実性増す朝鮮半島、韓国の「中国依存」加速=北朝鮮は「並進路線」回帰へ

八牧浩行    2020年1月3日(金) 10時0分

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韓国や北朝鮮と日本との関係は冷え込んだまま。日韓関係がぎくしゃくしている背景には、韓国の中国依存度が飛躍的に増大し日本より中国との関係を重視するようになったという冷徹な構造要因がある。写真は板門店。

日中関係が改善する中で、韓国や北朝鮮と日本との関係は冷え込んだまま。日韓関係がぎくしゃくしている背景には、韓国の中国依存度が飛躍的に増大し日本より中国との関係を重視するようになったという冷徹な構造要因がある。トランプ米大統領の「自国第一主義」「定まらない北朝鮮政策」も影を落としている。

◆中国と「戦略的協力パートナー」に

文在寅政権の親中政策は「左翼政権特有の現象」との見方もあるが、あくまでも普遍的な現象だ。韓国と中国は朴大統領と習近平国家主席の体制が同じ頃にスタート。以来、多様な戦略対話チャネルが結ばれ、朝鮮半島問題など政治・安保分野における協力関係も拡大した。中韓両国民の連帯と信頼を増進するため、文化交流、地域レベル交流、両国間貿易の年間3000億ドル目標の達成などを通じた戦略的な協力パートナー関係を推進。さらに文在寅政権になって加速し、韓国経済における中国との結びつきが一段と強まっている。韓国の輸出に占める国別シェアは中国が日本を15年ほど前に追い抜き、今では5倍以上の規模に拡大、なお増え続けている。

世界は『米中2大国』時代になるというのが韓国内の共通認識であり、米中とバランスをとる『連米・連中』が基本戦略。東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共に共有することが理想と見ており、米国同盟を中心に中国をけん制し「囲い込む」という発想はほとんど皆無だ。

韓国の対中接近の背景には、最大の貿易相手国かつ世界一の消費市場である中国についた方が得とのリアリズムがあり、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を巡る混乱もその延長戦にある。

安倍晋三首相と文在寅大統領が昨年12月下旬中国・成都で会談した。一衣帯水の隣国にもかかわらず日韓首脳の正式な会談はなんと1年3カ月ぶり。首脳同士が諸懸案の解決に向けた政府間協議の重要性を確認した意味は大きい。日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国最高裁の判決後は初めてである。

安倍首相は「重要な日韓関係をぜひ改善したい」と表明。文大統領も「決して遠ざかることのできない仲だ」と応じた。韓国は日本とのGSOMIAの破棄方針を転換し、日本も韓国向け輸出管理の厳格化措置を一部緩和した。

◆日韓首脳はリーダーシップ発揮を

両首脳の対話は歓迎すべきことだが、昨年から相次いだ対立の傷痕が両国内に深く残っている実態を認識する必要があろう。内閣府の世論調査で、韓国に親しみを感じるとの回答が26%で過去最低となった。韓国では日本製品の不買運動と日本旅行の自粛が継続、日本の関係企業や観光地は厳しい冬を迎えている。隣国関係を下支えする民間交流や企業連携の後押しは政府の役割である。

文大統領が輸出管理措置の撤回を要請したのに対し、安倍首相は韓国側の責任による徴用工問題の解決策が欠かせないとの立場を表明。韓国国会では、日韓の企業と個人の寄付金などで賠償を肩代わりする内容の法案が提出されたが、韓国国内で批判が噴出している。

日韓は少子高齢化などの国家的課題のほか、足元の米中貿易戦争への対応を含めて協力できる分野が多い。企業間でも双方の強みを生かした第三国での協業の実績が着実に増えている。

地域情勢が不安定なときだけに双方の政治家は首脳会談の結果を後戻りさせるような感情的な応酬を自制し、戦略的な協力関係を探るべきだろう。このような時こそ両首脳の頻繁な往来とリーダーシップ発揮が重要になる。

「米国ファースト」を貫くトランプ大統領はかねて「韓国は自らの防衛のためのコストを負担する能力を持っており、駐留する米軍は大幅に減らすべきである」と言明。平和協定への移行が検討されている朝鮮休戦協定には「すべての外国軍隊の朝鮮半島からの撤退」が盛り込まれている。平和協定が締結されれば縮小・撤退も可能になり、日本列島が大陸に立ち向かう最前線になってしまう。

◆「日本は朝鮮半島後、最大の敗北者は日本」―米ユーラシアグループ

世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社、米ユーラシアグループのロバート・カプラン専務理事が米外交専門誌「フォーリンポリシー」に昨年寄稿した「アジアに近付く予測不可能な時代」と題する記事は衝撃的だ。「地政学の逆襲」などの著作もあるカプラン氏は「日本は20世紀に実現したドイツやベトナムのような分断国の統一が21世紀に朝鮮半島で再現されることを望んでいない」「日本は朝鮮半島の統一を阻もうとしている」「日本は自国の安保のために分断された朝鮮半島を必要としている」などと主張。また「1910年から45年まで続いた日本の残酷な植民地支配、第2次世界大戦の遺産のせいで統一韓国は本能的に『反日本』になる」とし、「朝鮮半島が統一された場合、最大の敗北者となるのは日本だろう」と予想している。また、最近の日韓の貿易緊張について「日本が戦争当時、強制労働と性奴隷政策を施行したことで悪化したもの」と断じたうえで、「これはいつか統一韓国が実現した後に現れる日韓間の政治的緊張の予告だ」とも指摘している。

トランプ・金正恩のディール(取引)が成立すれば、中長期的には在韓米軍の縮小・撤退の可能性が浮上、東アジアの安全保障に甚大な影響を与えることになる。トランプ大統領は対朝経済的支援を日中韓3カ国に委ねる方針も示しており、コストがかかる朝鮮半島問題からの関与離脱につながる。これらの動きは米国中心の「戦後秩序」の終焉を意味し、世界で地政学的なリスクが高まることが懸念される。

2018年6月の史上初の米朝首脳会談で北朝鮮は非核化に合意したはずだったが、その後、2度の首脳会談を経ても具体的進展はない。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は年末12月31日の朝鮮労働党中央委員会総会で核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」への回帰を示唆。同国の核開発は着々と進捗し、新エンジン装着の「多弾頭ICBM(大陸間弾道弾)」の発射が近いとの観測もある。再び緊張局面に戻れば、トランプ氏が「外交成果」と誇ることはできなくなり、米朝軍事衝突のリスクも高まる。

日本としても、韓半島の対中傾斜という厳しい情勢を踏まえて、情勢を正確に分析し、冷静かつ的確な対応をすべきであろう。

(続く)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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