<東アジア新時代(1)>米の中国切り離し策通じず、貿易戦争「休戦」へ=世界経済「ブロック化」は困難

八牧浩行    2020年1月1日(水) 5時0分

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世界の成長センター、東アジアを中心に地政学的な地殻変動が起きている。2019年12月下旬に1年7カ月ぶりに日中韓首脳会談が中国・成都で開催され、この地域の発展への協力を確認した。写真は日中韓サミット。

世界の成長センター、東アジアを中心に地政学的な地殻変動が起きている。2019年12月下旬には1年7カ月ぶりに日中韓首脳会談が中国・成都で開催され、この地域の発展への協力を確認した。激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を連載企画で探る。

トランプ政権が「アメリカファースト」の旗印の下、保護主義的な政策を推進。米中間の貿易戦争や次代覇権争いが激化し、世界経済の「ブロック化」危機が進行している。米ソ冷戦の象徴、ベルリンの壁の崩壊(1989年11月)から30年が経過した今、今度は米国と中国の間の緊張が高まり、世界には再び地政学的な境界線が誕生する懸念が浮上した。

一方で、中国の経済的、政治的な影響力はアジアの勢力圏を越え、遠く中南米や西欧諸国など、かつては当然のように米国の勢力圏と考えられてきた地域にまで及んでいる。米国は、中国の「一帯一路(海と陸のシルクロード)」構想が成功すれば、ユーラシア大陸全体が中国との緊密な関係を深めると警戒している。

◆ビッグデータ巡る争い

米国と中国が特に覇を競っているのは人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)など次世代産業を左右するビッグデータ分野。インターネットの閲覧や買い物履歴など経済のデジタル化が進行する中で、世界最大14億人の人口を有し、一党独裁の中国では、データを集めやすく、それだけ人工知能(AI)の性能を高められる。

世界の覇権国家として長らく君臨してきた米国は、常に「ナンバー1」の座確保が“国是”であり、「ナンバー2」国家を“排除”してきた。かつての標的はソ連の軍事力であり、日本の経済力だったが、これらライバル国をことごとく退けた。今は台頭する中国をターゲットとして「中国デカップリング(切り離し)」政策を打ち出している。

ファーウェイ「5G」排除、徹底されず

米政権は中国が技術を盗み出し個人のデータ情報を国民監視や治安維持の道具に使っていると非難。中国からの輸入品への高関税付加や中国企業の米IT企業買収阻止を推進している。中国側は「グーグルなど米国企業もブラックボックスであり、膨大なデータを米政府も活用している」と応酬している。米国のデカップリング政策は、中国の「経済・人口パワー」の前に逆風にさらされているのが実情だ。

その象徴的な事例が米国による、次世代通信規格「5G」の通信網構築に向けた中国・華為技術(ファーウェイ)製品の排除圧力。同盟国に使用しないよう求めているが、米国の方針をそのまま受け入れたのは日本、豪州、カナダの3カ国だけ。中国は周辺国や途上国との関係改善を進めて米国をけん制する構え。ドイツはファーウェイ製品の排除を明示しない方針を決め、英国も慎重姿勢。欧州はトランプ米政権と一定の距離があるため、中国にとっては切り崩しの対象だ。アジアや中東、アフリカ、中南米の途上国は高性能で安価なファーウェイ製機器を導入している。

大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。韓国の対中接近も最大の貿易相手国である中国についた方が得とのリアリズムが背景。米国だけでなくドイツ、フランス、英国、東南アジア諸国、なども世界最大の消費大国・中国のパワーを無視できない。

トランプ米大統領は19年12月31日、中国との貿易交渉を巡る「第1段階の合意」について1月15日に米国で署名式を開き、後日に北京を訪問すると発表した。トランプ氏はツイッターで「非常に大きく包括的な第1段階の対中協定に署名する」と明らかにした。署名式はホワイトハウスで開き、中国政府の高官が参加するという。同氏は11カ月後に大統領選を控え、米経済や市場への影響を考慮、対中貿易戦争を「休戦」に持ち込みたい考えである。

◆ブロック化が招いた悲惨な歴史

米中の対立は次代の覇権争いの様相を呈し、厳しい攻防が続いており、世界経済の低迷に拍車をかけている。特に懸念されるのは、世界経済の「ブロック化」だ。保護主義の蔓延が誘導するブロック化の危険性は歴史が証明している。

1929年に米国に端を発した世界大恐慌を受けて米国が30年代に実施した貿易戦争により、全世界の貿易は66%萎縮。米国が関税率を引き上げ他の国も対抗、全世界の貿易コストが10%上昇した。さらに主要国は相次いで「ブロック経済」政策を採用。英国によるポンド圏、フランスによるフラン圏、さらに米国のドル圏などの、貿易の「囲い込み」現象が出現した。

世界経済がブロックに分割されたことにより、ドイツやイタリア、日本など植民地を持たないか少ない国は不況の影響をより深刻に受けることになった。その結果、イタリアやドイツではファシスト、ナチス、日本では軍部など、「世界秩序の変更」を求める勢力が台頭し、第2次世界大戦の引き金になった。戦後の自由貿易体制の構築は、「ブロック経済への反省」の結果実現した。ブロック化が進行すれば、特に資源が乏しく貿易投資立国の日本は大きな影響を受ける。

◆経済の相互依存の進化を

世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突や経済の落ち込みを防ぐ最大の抑止力になる。2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)。

こうした中、2019年12月下旬には日中韓首脳会談が開催された。会議の冒頭、安倍晋三首相は「地域と国際社会の平和と繁栄に大きな責任を有する、われわれ3カ国に対する世界の期待はますます高まっている。北朝鮮情勢を始めとする地域の重要な課題、めまぐるしく変化する世界経済情勢を踏まえた国際経済秩序の強化、国際社会共通の問題である地球規模課題への対応などについて、3カ国の連携をより一層深める機会としたい」と述べた。

乗り越えるべき複雑な課題が山積しているが、3カ国首脳はこの地域の発展への協力を確認。東アジアの新たな時代に向け踏み出した。

(続く)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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