日韓関係悪化の構造的要因は「韓国の中国依存」の加速=「離米」「南北融和」進み日本の存在感が低下―「中朝蜜月」も民族統一にプラスと見る 

八牧浩行    2019年10月7日(月) 7時0分

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日韓関係が最悪の状態に陥っている背景には、韓国の中国依存度が飛躍的に増大し日本より中国との関係を重視するようになったという冷徹な構造要因がある。トランプ米大統領の在韓駐留米軍をコストと見る「自国第一主義」も影を落としている。

日韓関係が最悪の状態に陥っているが、この背景には韓国の中国依存度が飛躍的に増大し、日本より中国との関係を重視するようになったという冷徹な構造要因がある。文在寅政権の「左翼政権特有の現象」との見方もあるが、あくまでも普遍的な現象だ。トランプ大統領の在韓駐留米軍をコストと見る「自国第一主義」も影を落としている。

韓国の「離米従中」傾向がはっきりとしたのは朴槿恵政権(2013年2月~2017年3月)の時代。朴大統領(当時)が、2014年9月に北京で行われた中国「抗日戦争勝利記念行事」に出席し、軍事パレードも参観。中国が軍拡を進めるなか、米欧各国が首脳の出席を見合わせた中での米同盟国・韓国の参加は衝撃的だったが、「中国との友好協力関係を考慮し、中国が朝鮮半島の平和と統一に寄与することを望んで決めた」(韓国大統領府)という。

◆朴槿恵政権時代に「戦略的な協力パートナー」に

韓国と中国は朴大統領と習近平国家主席の体制が同じ頃にスタート。以来、多様な戦略対話チャネルが結ばれ、朝鮮半島問題など政治・安保分野における協力関係も拡大した。中韓両国民の連帯と信頼を増進するため、文化交流、地域レベル交流、両国間貿易の年間三千億ドル目標の達成などを通じた戦略的な協力パートナー関係を推進。さらに文在寅政権になって加速し、韓国経済における中国との結びつきが一段と強まっている。韓国の輸出に占める国別シェアは中国が日本を15年ほど前に追い抜き、今では5倍以上の規模に拡大、なお増え続けている。

世界は『米中2大国』時代になるというのが韓国内の共通認識であり、米中とバランスをとる『連米・連中』が基本戦略。東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共に共有することが理想と見ており、米国同盟を中心に中国をけん制し「囲い込む」という発想はほとんど皆無だ。

日本には、かつての先進国と途上国の間柄だった日韓関係の古い固定観念から脱却できずに「韓国にとって日本は重要なはずだ」との誤った思い込みが根強いが、経済的にも安全保障的にも日本の存在感が低減。日本が上で韓国を下に見る「日韓秩序」に対する反発も、韓国内にはくすぶっている。韓国の対中接近の背景には、最大の貿易相手国かつ世界一の消費市場である中国についた方が得とのリアリズムがあり、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄もその延長戦にある。

文政権になって南北首脳会談が開かれ、北朝鮮との緊張が大幅に緩和された。韓国国民の多くが、韓国や北朝鮮との交流を進めている習近平政権に対し、日本と異なり「中国に対する脅威」を抱く人は意外に少ない。中国が主導する「一帯一路(海と陸のシルクロード)」「AIIB(アジアインフラ銀行)」に韓国はいち早く加盟した。

THAAD配備めぐる中国の報復もトラウマ

一方、二〇一七年に米ミサイル迎撃システムTHAAD(サード)の韓国への配備を巡って、中国が猛反発し、韓国に「報復措置」をとったことはトラウマとなっている。THAAD配備の敷地をロッテが提供したとして、中国に進出していたロッテマートの店舗に営業禁止処分を下し、八十七店舗が閉店。中国の報復措置を受けた韓国経済は深刻なダメージを受けた。

このような事情に加えて、文政権の中長期戦略には「北朝鮮との民族統一」があり、韓半島の発展へ、中国の経済的軍事的な影響力に期待する面もある。南北統一と朝鮮半島の発展は朝鮮民族の悲願。中国の習近平主席と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が国交樹立70年を迎えた9月6日、祝電を交換し、一層の関係強化を互いに呼び掛けた。こうした「中朝蜜月」も南北統一や半島発展へのプラス材料になると文政権は評価している。

「米国ファースト」を貫くトランプ大統領はかねて「韓国は自らの防衛のためのコストを負担する能力を持っており、駐留する米軍は大幅に減らすべきである」と言明。平和協定への移行が検討されている朝鮮休戦協定には「すべての外国軍隊の朝鮮半島からの撤退」が盛り込まれている。平和協定が締結されれば縮小・撤退も可能になり、日本列島が大陸に立ち向かう最前線になってしまう。

保護主義を推進するトランプ政権が米韓FTA(自由貿易協定)の大幅な見直しを要求、韓国が不利な形で決着したことも韓国民の対米不信につながっている。

日本としても、韓半島の対中傾斜という厳しい情勢を踏まえて、冷静かつ的確な対応をすべきであろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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