月面土壌を採取するサンプル・リターン、中国・嫦娥5号はAI技術を駆使

Record China    2019年7月9日(火) 13時20分

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月面土壌のサンプルを地球に持ち帰る中国の無人探査機・嫦娥5号は、月面への軟着陸、離陸してからのドッキング、地球帰還軌道への移行に際して人工知能(AI)を利用する。写真は月面上での嫦娥5号の想像図。

宇宙開発など中国の科学技術の発展に大きな功績があり、1992年に中国人として初めて月探査の実施を提唱したことでも知られる欧陽自遠氏(1935年生)は、5日に開かれた「ソフトウェア定義衛星サミット」で、月に軟着陸して土壌サンプルを持ち帰る計画(サンプル・リターン)の嫦娥5号について、人工知能(AI)を用いて技術上の諸問題を解決したと説明した。科技日報が2019年7月7日付で記事を発表し、多くの中国メディアが転載した。

「ソフトウェア定義衛星」とは、従来型の衛星が、いったん打ち上げられた後は最初から搭載されているハードウェア・ソフトウェアにより長期間の運用を行うのに対して、打ち上げ後にもソフトウェアの変更により、新たな機能を割りあてることのできる衛星。米ロッキード・マーティンが4月に「スマートサット」として概念を発表したばかりだ。

会合に出席した欧陽氏は嫦娥5号の飛行について改めて説明。飛行計画は打ち上げ、月遷移軌道への投入、月周辺での制動、月周回軌道、月面への下降、月面での土壌サンプル採取、月面からの離陸、月周回軌道上の孫衛星とのドッキング、月を周回しながらの地球帰還への待機、地球へ向かう軌道への投入、大気圏再突入用カプセルの分離、大気圏再突入と回収――と、打ち上げから回収まで12の段階に分けられているという。

嫦娥5号として打ち上げられる探査機の総重量は8.2トンで、新型の宇宙ロケットにより海南省の文昌発射センターで打ち上げられる。欧陽氏によると、技術面で「重大な突破」を実現せねばならないのは、月面でのサンプルの自動採取、月面からの離陸、地球から38万キロ離れた宇宙空間でのドッキング、第2宇宙速度(秒速約11万2000キロ=時速約4万キロ)近い高速での地球への帰還――であり、いずれも中国の宇宙開発としては初の経験になる。

欧陽氏は、月面軟着陸について、米国がアポロ計画で着陸した6カ所からは1000キロ以上離れていると説明。そのために、これまでに知られていない現象に遭遇したり、新たな発見がある可能性があるという。

新たな発見があれば月探査の成果の一つということにはなるが、想定外の事態は軟着陸を失敗させる要因にもなる。欧陽氏によると、探査機は着陸予定地点の写真撮影を続けて、安全性の評価を行う。もし、探査機の支柱4本の着地個所が水平面になければ、ただちに着陸を中断する。

判断するのは探査機自身が備えるAIだ。AIを利用する理由は、地球から月までの無線連絡に片道1.3秒、往復で2.6秒の時間を必要とするからで、それに地上での判断時間を追加した場合、「間に合わなくなる」事態を防止するためという。

月面軟着陸時のAI利用は嫦娥3、4号でも採用され、実証済みだ。嫦娥5号では、これまで実施した経験のない月面着陸機の再離陸と月面周回軌道で待機する探査機本体とのドッキング、地球帰還軌道への移行の際にもAIが使われる。月面から再離陸してからの月軌道周回機とのドッキングはピンポイントで成功させねばならない。地上からデータを送信してコントロールすることは根本的に不可能という。

また、大気圏にカプセルを再突入させる際には、速度が大きすぎて大気の抵抗による発熱で機器が破損する恐れがある。そのため、最初の突入では大気にはねかえされるようにジャンプさせ、速度を減じてから改めて大気圏に突入させる。この技術は2014年に打ち上げた月探査のための実証機で確認されたという。

なお、記事は直接触れていないが、初めて月の無人軟着陸に成功したのはソ連のルナ9号(1966年)だ。ソ連はルナ16号、同17号、24号でも無人軟着陸に成功し、16号と17号は地球に月の土壌を持ち帰るサンプル・リターンに成功。米国はサーベイヤ1、3、5、6、7号(66~68年)で月への無人軟着陸を成功させたがサンプル・リターンは実施していない。有人月面着陸を成功させたアポロ11、12、14~17号(69~72年)で月の土壌標本を地球に持ち帰った。

無人機による月への軟着陸は過去にも比較的多い成功事例があり、いずれもAIが登場するはるか以前の時期だった。しかし、無人探査機による臨機応変な対応のできない月面単着陸などでは「運まかせ」の要素がどうしても大きくなる。無人機といえども、月面探査には膨大な費用と人力が必要だ。AIを可能なかぎり利用する中国の試みは、許される予算全体を効率よく活用する効果があると理解してよい。(翻訳・編集/如月隼人

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