<コラム>消えてしまったのか?抗日ドラマ、実は…

岩田宇伯    2019年6月30日(日) 13時40分

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数少ない日本の抗日ドラマファンの皆さま、最近、抗日ドラマが制作されなくなったとお嘆きでは?

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●めっきり見かけなくなった新作抗日ドラマ

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数少ない日本の抗日ドラマファンの皆さま、最近、抗日ドラマが制作されなくなったとお嘆きでは?事実、ニュースやまとめサイトで流れてくる抗日ドラマネタは、はっきり言って数年前のネタばかり。最近のベストセラー『Fact Fullness』にあったように情報のアップデートがなければ、いろいろ見誤ることも多くなる。そこで、抗日ドラマの放映がいま、どんな感じなのかレポートしたいと思う。

●数年前のお触れで全滅!?

2016年ごろ、ゴールデンタイムのドラマの話数を2話までに制限する、とのお触れが出て、無条件に放映枠が減ってしまった。従来3話4話放映していたものが2話までとなったため、30-50%減ということだ。商売をしていていきなり次の月から売り上げがマイナス30-50%減となると考えると、これはかなり大変な事態である。ただし、これは抗日ドラマに限らず宮廷ドラマやトレンディドラマも影響を受けている。

もうひとつ、娯楽に寄り過ぎた抗日ドラマは偉大な革命の歴史を冒とくしている、というお叱りが出たため、ゴールデンタイムでの放映禁止のあおりを受け、多くの作品がお蔵入り、塩漬けとなり制作者は涙をのんだ。これも商売に例えると、いままで安定した売り上げのあった得意先から、いきなり取引停止に陥ったことと変わりない。いずれにせよ、抗日ドラマ制作サイドにとっては大きな痛手である。

中国の大手動画サイト「優酷」や「愛奇芸」にも最新作の公開は極端に激減、逆に過去作品が削除されていたりと厳しい状況だ。(画像1 愛奇芸における2019年の戦争ドラマ)

果たして抗日ドラマは真面目な戦争もの以外なくなってしまったのであろうか?早朝や午後の再放送タイムで旧作を観るしかなくなったのであろうか?

●ローカル局でしぶとく新作放映中

ところがである、中央電視台(CCTV)及び省級衛視局のゴールデンタイムから消えた抗日ドラマ、実は多数あるローカル放送局で19時のニュースのあと、絶賛放映中なのだ。

中国では日本でいうところのキー局という考え方はないので少し説明したい。皆さんご存知の中央電視台、中国政府国務院直轄の放送局だ。日本でいえばNHKに相当するが、NHKのような各県地方局はない。その次のクラスに各省及び直轄都市の衛星放送局がある。北京衛視や東方衛視といった放送局だ。衛星放送なので中央電視台と共にほぼ中国全土で受信可能である。そして各都市のローカル放送局、上海でいえば上海新聞総合、外語頻道、第一財経などといった放送局が相当する。こちらは地上波及びケーブルテレビでの放映となるので、ネットストリーミング以外では地元でしか見ることができない。それぞれの放送局で独自の番組制作をしたり、有力放送局から番組を購入して番組枠を埋めている。田舎のローカル放送局になるに従い、番組制作能力は低くなるため、他局から購入した番組の再放送や不人気作品、さらには学芸会レベルの番組ばかりになる始末。(画像2 内モンゴル赤峰の学芸会番組)

以上、中国の放送局がどのような序列になっているか前提を把握したうえで話を進めてみたい。これらのローカル放送局では、なぜか抗日ドラマがゴールデンタイムに放映されているのだ、放送局がホームページで公開している番組表で、それは確認できる。(画像3 上海新聞総合より)これらを勘案すると、どうやらゴールデンタイム規制は省級衛視クラスまでのようだ。

以前、こちらのコラムに書いた『名曲?珍曲?抗日ドラマの音楽』において紹介したファンキー末吉氏が音楽監修したトンデモ抗日ドラマ『怒江之戦』も、こういったローカル放送局をたまたま観ていて発見した作品だ。最初に書いた通り、大手動画サイトでも公開数が激減したため、こういったローカル放送局で拾うしか、新しい作品と出会うすべが限られてしまっているのが現状なのだ。

中国のTVガイドサイトや百度百科では、ドラマ作品がどの局で放映されたかの一覧がある。最近観賞したお宝強奪抗日ドラマ『宝護風雲』では、結構予算のかかった面白い作品であるにもかかわらず、放映された局はすべてローカル局。その内訳は2016年の広東経視に始まり、東方電影頻道、湖南経視、江蘇総芸頻道とローカル放送局のさらにサブチャンネルである。(画像4 百度百科より)これでは、新作抗日ドラマが日の目を見ないはずである。

また、数年前に完成したものの塩漬けとなっている多数の作品が、このようなローカル放送局にてひっそりと初放送されたりするなど、いわば地下に潜ったような形となり、傑作ドラマを漁るのが非常に困難な状況となっている。

●広電局への申請状況

中国ではあらかじめ映画ドラマの制作に関し政府への申請が必要となる。そこで政府側はどのような作品が申請されたか公開情報として過去作品を含め専用サイトにて公示している。 その国家広播電影電視総局サイトの「電視劇政務平台」において公示されている2019年5月度の申請に関しては、全体で65作品、そのうち抗日ドラマに該当する近代伝奇、革命ジャンルが12作品とおよそ割合が18%ほどである。(画像5)抗日ドラマ黄金期の2011年の同じく5月を見てみると、 85作品のうち、近代ジャンルは34作品、およそ40%という数値となっており、現在では抗日黄金期から半減している。代わりに数字を伸ばしたのは現代ものの当代ジャンル、同じ2011年と2019年の5月期で割合49%から75%へと大躍進だ。以前指摘した通り、トレンディドラマのほか、警察ドラマや解放軍ドラマ、そして改革開放40周年のあたりからは企業ドラマも増加中ということで、政府の規制の中、いかにウケる作品を制作するかクリエーター側も新しいネタさがしに躍起といったところだ。

とはいえ、いまだに20%近く抗日ドラマの申請があるということなので、また何かの拍子に審査をすり抜けたトンデモ作品が放映されることは十分考えられる。そのようなクソ作品を発見次第、皆様にお知らせする所存である。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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