<直言!日本と世界の未来>米中経済戦争、一刻も早い収束を望みたい=世界経済の発展を阻害―立石信雄オムロン会長

立石信雄    2019年5月19日(日) 8時10分

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米中の対立は次代の経済覇権争いの様相を呈し、関税引き上げなどを巡り激しい攻防が続いている。世界経済を委縮させるこの種の貿易摩擦は一刻も早く収束させてほしい。対立激化で世界は分断され、衛材発展が阻害される恐れがある。資料写真。

米中の対立は次代の経済覇権争いの様相を呈し、関税引き上げなどを巡り激しい攻防が続いている。世界経済を委縮させるこの種の貿易摩擦は一刻も早く収束させてほしい。対立激化で世界は分断され、衛材発展が阻害される恐れがある。

トランプ大統領は来年秋の大統領選の勝利が至上命題といわれる。中国への強硬姿勢を人気の源泉と見ており、途中で引き下がるわけにいかないようだ。世界全体の繁栄に背を向け「米国ファースト」を突き進むトランプ氏の泣き所は景気とマーケットではないだろうか。景気が落ち込み株価が下落すれば一気に逆風にさらされる。

一方、中国の習近平政権は持久戦に持ち込む戦略だ。4月に北京で開催された「アジア文明対話大会」で習国家主席は「もし各国が孤島に閉じこもれば、人類文明は活力を失う。各国が開放精神を守り、政策の意思疎通、円滑な貿易などを促進することを願う」と保護主義に走る米国を批判した。

トランプ大統領は先週、米企業が安全保障上の脅威がある外国企業から通信機器を調達するのを禁じる大統領令に署名した。さらに米商務省はファーウェイへの米国からの輸出を原則禁止すると発表。日本企業をはじめとする、同社への部品供給企業も大きな打撃を被る恐れがあるという。

中長期的にみて深刻なのはイノベーションの停滞。5G(次世代通信システム)を主導するファーウェイの排除で5Gネットワークの整備が遅れると、その上で実現する自動運転や遠隔診断など次世代サービスも遅延する。米中ハイテク新冷戦は世界経済にとって大きなリスク要因となる。

高い技術力や品質を誇るドイツは「安全対策は通信法で定められ政府によって検証もされている」と、ファーウェイを政府調達から排除しない判断を下した。英国は「5Gについては各国が判断する」と米国に追随しない考えで、マクロン仏大統領も「ファーウェイを排除することは考えていない」と明言した。世界の大勢は「経済的なメリット」を重視している。

ファーウェイがトランプ政権の標的になったのは、同社が次世代通信「5G」の技術で米国などを大きくリードしているためだという。貿易問題では妥協が可能でも、次世代の技術覇権を巡る争いは根が深く、米国は今後も次々と中国に揺さぶりをかける可能性が高い。

関税を巡る交渉では、トランプ大統領が5月10日に「中国が合意文書案を撤回した」ことを理由に、2000億ドル(約22兆円)分の中国製品に一五%の追加関税の発動を決定した。

さらに米通商代表部(USTR)が打ち出した中国への制裁関税「第4弾」は身近な消費財を一気に網羅した。特に大きいのがスマホなど中国に依存するIT機器だ。スマホなどへの関税引き上げは中国の工場だけでなく、米国の消費者も打撃を受ける「もろ刃の剣」だ。日本の電子部品メーカーにも飛び火する。

第4弾が実際に発動され中国も報復すれば、双方の経済が打撃を受ける。IMFの試算によると、米中の貿易は長期的に30~70%落ち込み、国内総生産(GDP)を米国で0.6%、中国で同1.5%程度引き下げる恐れがあるというから深刻だ。

 トランプ大統領は次の大統領選を来年に控え、早期の成果を切望しているという。両国の主張が隔たる部分に関してはトランプ・習近平の電話会談などで詰め、大阪G20の際の会談で合意を目指してほしい。大阪でのG20で米中首脳が合意に達するよう、日本も良好な対話に向けて雰囲気を醸成すべきだ。

こうした激動の世界情勢の中で、貿易立国・日本の役割は重要である。最大の同盟国である米国と最大の貿易相手国である中国の間で橋渡し役を担うべきである。日本がめざすべきはアジア太平洋融合の枠組みだ。環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合して「スーパーFTA(自由貿易協定)」をつくり、米国を呼び込むことである。

6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議は、議長国である日本にとって活躍のチャンスだと考える。米中首脳が合意に達するよう、ホスト国・日本は建設的な対話に向け積極的な役割を果たしてほしい。

<直言篇87>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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