<コラム>なぜ中国はINF条約に参加したがらないのか?

洲良はるき    2019年3月3日(日) 15時0分

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中国がINF条約に参加したがらないのは、航空機や艦船から発射されるミサイルは禁止されていないからだという。中国軍は航空機や艦船より、多くの陸上発射ミサイルに頼っているので、陸上発射のミサイルだけを廃棄する条約は、中国にはメリットがない。資料写真。

中国がINF条約(中距離核戦力全廃条約)に参加したがらないのは、INF条約が禁止しているのが陸上のミサイルだけで、航空機や艦船から発射されるミサイルは禁止されていないからだという。中国軍は戦力として、航空機や艦船より、多くの陸上発射ミサイルに頼っているので、陸上発射のミサイルだけを廃棄する条約は、中国にはメリットがない。

2019年2月にドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、中国にINF条約に参加する交渉をしてほしいと呼びかけた。しかし、同会議に参加していた中国政治局員の楊潔チ氏は、多国間INF条約への中国の参加には確固たる反対の意思をしめしており、中国がINF条約に参加する計画を持っていないことをほのめかした。

INF条約は1987年にアメリカとソ連が締結した条約だ。この条約は、陸上から運用される射程500km~5500kmの弾道ミサイルや巡航ミサイルと、それらの発射装置をなくすというものだ。

元中国人民解放軍少将の姚雲竹氏によると、INF条約の大部分は陸上ミサイルに関するものであり、海や空から発射されるミサイルについてはほとんど言及されていないという。サウスチャイナ・モーニング・ポストが伝えている。

「中国のほとんどの核攻撃能力は地上発射のものです」姚雲竹氏は言う。空や海から発射されるミサイルについては、米露と、中国の間には著しい不均衡があるという。地上発射のミサイルのみを禁止すれば、中国に圧倒的不利になるので、中国はINF条約に参加したがらないのだという。

アメリカ軍高官の公式発言によれば、中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルのうち90パーセントが、INF条約に調印していたとすれば禁止されているものであるという。中国はINF条約で規定されている短・中距離ミサイルに多額の資金を注いできた。この戦力が中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)と呼ばれる戦略を可能としてきたのである。

INF条約の最終期限までに、アメリカとソ連は2692発のミサイルを廃棄している。しかし、これらは、アメリカやソ連(ロシア)が大量に保有する核兵器のほんの一部にすぎなかった。INF条約で廃棄されたのは、陸上から運用されるミサイルだったので、アメリカやロシアの、航空機や艦船から発射されるミサイルの大規模開発が止まることはなかった。

たとえば、中距離ミサイルを発射する航空戦力の中核になる爆撃機を例にあげても、アメリカと中国の差は非常に大きい。現在、アメリカ軍の大型長距離爆撃機としては、数々の実績をあげてきたB-52爆撃機や、超音速のB-1爆撃機、ステルス機で有名なB-2爆撃機がある。現在の中国軍には、これらに相当する爆撃機が存在しない。戦略爆撃機と呼ばれている中国のH-6爆撃機は中型中距離爆撃機で、これらに相当する機種ではない。また、H-6爆撃機は亜音速機であり、ステルス機でもない。

フライトインターナショナルの『世界の空軍2019年』レポートでは、活動中の爆撃機は、アメリカでは、74機のB-52H、59機のB-1B、19機のB-2Aの計152機となっている。対して、中国は120機のH-6である。

アメリカのB-52などの大型爆撃機と中国のH-6では機体のサイズが違うため、搭載できる巡航ミサイルの数も違っている。米中の爆撃機部隊の戦力の差は、単なる数以上に大きい。

INF条約で禁止されている中距離ミサイルが運用できた場合、アメリカ側の視点では次のような利点が考えられている。

・アメリカの中距離ミサイルは中国の抑止に役立つ。

・ミサイルは航空機や艦船から発射するものより、陸上発射のほうが維持費などの面で、はるかに安くなる。

・敵から攻撃された場合、車載型陸上ミサイルは、航空機や艦船よりも生存能力が高い。

しかし一方で、INF条約破棄を支持している人々はアメリカが中距離ミサイルを配備しようとする国の政治的な問題を無視している、という批判がある。

アメリカの陸上発射の中距離ミサイルで問題となるのが、配備されることになる国の世論の強い反発だ。アメリカ領グアムに中距離ミサイルを配備するのは簡単だろう。しかし、日本やフィリピンにアメリカの中距離ミサイルを配備するには、やっかいな政治的配慮が必要になるだろう。

日本の現在の在日米軍についてさえ、特に沖縄での反対運動や多くの日本メディアでの抗議が、よく知られているところだ。アメリカの中距離ミサイルが日本に配備されるような話があれば、当然ながら、これらの強い反発が予測される。フィリピンにおいても、ドゥテルテ大統領が対中姿勢において、すり寄りなどのさまざまな変化を見せており情勢は複雑だ。

これらの国がアメリカの中距離ミサイルの配備に協力的でないせいで、政治、軍事の両面でアメリカへの不利益が発生する可能性がある。その場合、INF条約の破棄で起こる問題のデメリットが、中国に対抗できるメリットを上回る、とカーネギー平和財団のプラネー・ヴァディ氏が主張している。

■筆者プロフィール:洲良はるき

大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。

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