<コラム>ニュース中国語事始め=安倍晋三氏は日本の総理でない、李克強氏は中国の首相ではない

如月隼人    2018年11月21日(水) 19時20分

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日本語では「総理大臣」「総理」「首相」を同じ意味で使いますが、中国語では「総理」と「首相」を区別します。写真は日本の国会議事堂。

日本語では「総理大臣」「総理」「首相」を同じ意味で使いますが、中国語では「総理(zong3li3)」と「首相(shou3xiang4)」を区別します。

その前に、中国発のニュースでよく出てくる「国務院(guo2wu4yuan4)」という言葉を考えましょう。

「国務院」は「日本の内閣に相当」と紹介されることがありますが、正確には違います。日本の内閣は内閣総理大臣と国務大臣で組織される合議制機関です(日本国憲法第66条)。日本政府の中核部分と考えてよいわけです。一方、中国では「国務院すなわち中央人民政府」と定められています(中華人民共和国憲法第85条)。つまり、ニュース記事で「中国国務院」という記述があれば「中国政府」と読み換えてよいわけです。国務院のトップは「国務院総理」であり、略称は「総理」です。

中国語と日本語では、同じ漢字を使う語でも、意味に違いのある場合があります。ニュース用語に限らず、中国語単語は日本語と比べて、その語を構成する各漢字の字義が語全体の意味に反映される傾向があります。単語を構成する漢字字義をしっかりと知っておくことは、中国語単語がもつ意味やニュアンスを理解する秘訣のひとつでもあるのです。そこで、「総理」という中国語単語についても、字義から分析してみましょう。

まず、「総」とは「全体をまとめる」または「全体のまとめ役」で、この場合の「理」は「すじみちを立てて整理する」または「取り上げて処理する」です。やや俗な言い方をすれば「国務院総理」とは「国務院を仕切る人」ということになります。

次に、「首相」について考えます。「首」は「トップ」です。そして、この場合の「相」は、「そばについて助ける」という意味から派生した「君主の介添え役」という意味です。君主の介添え役である「相」の中でも筆頭の存在が「首相」というわけです。

ちなみに、中国で最も標準的な辞書である現代漢語詞典は「首相」について「英国、日本など、立憲君主制国家の内閣の最高官職。日本では総理大臣とも称する」と説明しています。つまり中国では立憲君主国の政府トップを「首相」と呼ぶわけで、自国の国務院総理を「首相」と呼ぶことはありません。

ですから、中国では「安倍晋三総理(an1bei4 jin4san1 zong3li3)」と言うことも、「李克強首相(li3 ke4qiang2 shou3xiang4)」と言うこともないわけです。

ちなみに、「内閣(nei4ge2)」とは、明・永楽帝(在位:1402~1424年)が優秀な学者を宮中の「内淵閣」という建物に集めて重要な政治に参与させたのが始まりで、後に「内閣」と呼ばれるようになったものです。「臣(chen2)」は「奴隷」の意でしたが、君主に対してへりくだって言う自称になったことから「君主の家来」を指すようになりました。「大臣(da4chen2)」とは「君主の家来の中の高位者」というわけです。

「内閣」も「大臣」も現在の中国の制度では用いられません。過去の君主制と関わりの深い語であるため、用いるには齟齬(そご)感が大きいからと理解できます。

なお、中国の「総理」と日本の「首相」では、権限の上でかなり大きな違いがあります。まず知っておかねばならないのは、中国では「国務院総理」の上に「国家主席」という存在があることです。国家主席の権限には、「国務院総理などの任免」や「戦争状態の宣言」「外国と締結した条約などの批准」などが含まれます。

中国では国家機関全体のトップとして「国家主席」という存在があり、その下に「総理」がいるわけです。また、中国では軍の行動を決定する組織として中央軍事委員会が設けられており、国家主席が中央軍事委員会主席を兼任することが恒例です。つまり、いわゆる有事の際には国家主席が「戦争状態」を宣言し、同じ人物が中央軍事委員会主席として、自軍の行動について最終決定を行うわけです。

日本の内閣総理大臣は自衛隊の最高指揮監督権を持ちますが、中国の「総理」は軍事関連の権限を持っていません。このあたりも、日本の「首相」と中国の「総理」の大きな違いです。

ピンインの表記について:本コラムでは中国語を<>の中に、日本語の常用漢字の字体で表示しています。以下の部分のピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。uの上に2つの点を添えるピンインにはvを用います(例:東西=dong1xi0、婦女=fu4nv3)。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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