<コラム>アリババのジャック・マー会長引退報道の衝撃!発表日と退任日の「9月10日」の意味

浦上 早苗    2018年9月10日(月) 14時10分

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中国最大のECサイト事業者であるアリババグループの創業者、ジャック・マー会長が引退するというニュースが9月8日、世界を駆け巡った。写真はジャック・マー会長。

中国最大のECサイト事業者であるアリババグループの創業者、馬雲ジャック・マー)会長が引退するというニュースが9月8日、世界を駆け巡った。

報じたのはマー会長を米国で取材したニューヨーク・タイムズ、という点に、改めて、アリババは世界的企業なのだと実感した。母国より先に、海外で引退が報じられる企業家は、今のところ日本にはいないだろう。その後、報道は二転三転したものの、10日午前、マー会長自身が1年後の9月10日での会長退任を正式に表明した。

【ECのルール作り市場を広げたアリババ】

私がアリババの名前を聞いたのは2007年。日本の新聞社で記者をしていたころだ。福岡の中小企業の販路拡大を支援していた知人から、「中国にはアリババという、とても大きいb to b取引サイトがあるから、そこに県の企業の商品を出そうと思う」「中国では粗悪品が送られてくることもあるから、アリババは、注文者が商品を受け取ると同時に、お金が相手に振り込まれる決済を整備している」という話を聞いた。

当時はiPhoneが発売される前で、中国ではインターネットの普及も十分ではなかったが、日本の人口の10倍を抱える国とあって、トップのシェアを持つアリババが、その後大きく成長することは何となく予想できた。だが、10年後に、世界の小売市場でこれほどの存在感を発揮するようになるとは、想像できなかった。

前述したように、アリババは、「通販の決済手段が整っていない」「粗悪品が多い」というような、環境の遅れを逆手に取り、自身がルールをつくることで市場を広げていった。今ではブラックフライデーを超え、世界最大のECセールになった11月11日のシングルデーも、元々はパートナーのいない男女が合コンなどをする「独身の日」に、アリババがECで買い物をしてもらおうと2009年に仕掛けたものだ。

【教師からインターネットビジネスへ】

さて、ニューヨーク・タイムズが「マー会長10日引退」を報じたとき、中国では「9月10日」という日付が注目された。

1つは、彼が9月10日に54歳の誕生日を迎えること。そしてもう1つはこの日が中国で、「教師の日」に当たるからだ。

教師の日は中国では知らない人はいない一大イベントで、子どもやその親は、お世話になっている教師に贈り物をして感謝の意を示す。私が勤めていた大学では、教師の日は教員食堂に「教師の日、おめでとう」の垂れ幕がかかり、アルコールが出た(午後に授業があるのもお構いなしに…)。

マー会長は、元々、日本で言う教育大学を卒業した高校の英語教師で、1990年代半ばから翻訳会社などのビジネスを始め、インターネットの可能性に目を付けてからは、ポータルサイトの運営などを経て、1999年に17人の仲間とECモールアリババを創業した。その創業メンバーには、大学時代に知り合った妻も入っている。一足先にインターネットビジネスで成功していた孫正義氏が、わずかな時間の面談でマー会長への出資を決断したのは、日本でも知られた話だろう。

【今学期は母校に『アリババ商学院』開講】

多くの人は、マー会長を、経済が発展していなかった時代だから高校教師をしていただけで、元々企業家の資質にあふれた人物だったと思っている。だが、彼自身はこれまで公の場で、「ECは2年で辞めるつもりだった」「教師に戻りたい」「教育への投資は十分でない」と発言しており、教育に重きを置く財団を設立したり、今年9月には母校の杭州師範大学に、インターネットビジネスを学ぶ「アリババ商学院」を開設したりしていた。4月には早稲田大学で学生に向け、講演を行っている。

マー会長は10日、株主や顧客だけでなく、従業員だけに向けた手紙で、「自分が好きだった教師の仕事は、今後自分に比類なき興奮と幸せを与えてくれるだろう」という趣旨の文章を書いている。マー会長はこの中国が生んだ最も素晴らしい企業家の一人にとどまることなく、最も素晴らしい教師を目指していくのかもしれない。

■筆者プロフィール:浦上 早苗

1974年生まれ、福岡市出身。早稲田大学政治経済学部卒業、九州大学大学院経済学府修了。大卒後、地方新聞社に12年半勤務。その後息子を連れ、国費留学生として大連に博士課程留学…するも、修了の見通しが立たず、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のニュース翻訳に従事。頼まれて映画に日本人役として出たり、マナー講師をしてみたり、中国人社会の中で、「日本人ならできるだろ」という無茶な依頼に、怒ったりあきれたりしながら付き合っています。マスコミ業界の片隅に身を置いている経験から、日米中のマスから見た中国社会と、私の小さな目から見たそれの違いを少しでもお伝えできれば幸いです。

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