<コラム>中国軍の大きな弱点、軍用ジェットエンジン技術の現状

洲良はるき    2018年9月2日(日) 14時40分

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元米上院外交顧問が、ウクライナによる中国への軍用ジェットエンジンの供与について、「背信行為」だとして抗議している。写真は中国の戦闘機・J―20。

元米上院外交顧問が、ウクライナによる中国への軍用ジェットエンジンの供与について、「背信行為」だとして抗議している。

8月14日に中国国営メディアが、中国の新型ジェット練習機「洪都 JL―10」の公開を報じた。JL―10練習機は、中国海軍の空母パイロットの訓練に使用されると公式に中国軍が発言している。

ワシントンタイムズ紙(2018年8月15日付)によると、中国政府が発行する英字メディア・チャイナデイリー(中国日報)には、最初の12機のJL―10練習機がウクライナのジェットエンジンを使用していることがご都合主義で書かれていないとしている。

中国の軍用ジェットエンジン技術は、ここ約十年にわたって中国軍の大きな弱点のひとつと言われてきた分野だ。

ワシントンタイムズ紙によると、2016年に中国の12機のJL―10練習機のために、ウクライナは20基のエンジンを販売した。同紙によると、トランプ政権がウクライナに圧力をかけて、他の軍用製品の譲渡と同様に、中国へのエンジンの販売をやめさせるべきだと批評家たちが主張しているという。

中国のジェットエンジン生産問題を解決するためウクライナが支援している、とアメリカの中国専門家で元アメリカ合衆国上院外交顧問のウィリアム・トリプレットは抗議している。「中国海軍のパイロットが空母への着艦を学ぶペースを加速度的に早くする手助けをすることを、アメリカは望まない」とトリプレットは不満を述べる。ウクライナのエンジンで飛行する空母パイロット用中国ジェット練習機が公開されたのは、アメリカ国防総省がウクライナ軍を援助するために2億ドルを提供すると発表してから、わずか1カ月後のことであった。

一方、環球網(2018年8月20日付)によると、ウクライナ急進党党首オレグ・リャシコ議員が、批判に対して反論している。リャシコ議員はフェイスブックで次のように発言した。「ウクライナのモトール・シーチ社の航空機エンジンが中国に売られるのを、アメリカ人が批判している。けれども、ウクライナが中国に航空機エンジンを売るのをアメリカ人が嫌がるのなら、アメリカがウクライナの航空機エンジンを買うべきだ。ウクライナが中国に売ることを禁止しながら、アメリカが買わないのなら、モトール・シーチ社は破産するしかなく、高度な技術を持つ数千人のウクライナ人が失業することになる」。

かつて、ウクライナはソビエト連邦の一部として、多くの軍需にかかわる製品を製造していた。しかし、ソ連が崩壊し、ウクライナの軍需産業はソ連という最も重要な顧客を失った。ソ連崩壊後に至っても、多くの軍需品をウクライナはロシアに供給していたが、2014年のロシアによるクリミア併合ではじまったウクライナ危機で、ウクライナとロシアとの軍事産業分野での断絶は決定的なものとなる。内需の少ないウクライナの軍需産業は、製品の販売先の大部分を海外の顧客に頼っていた。

ロシア軍事アナリスト小泉悠氏は、日本語ウェブメディアJBpress(2014年4月24日付)『ウクライナで軍事技術流出の危機』で、次のように書いている。「ロシアがウクライナに依存していたのと同様、ウクライナもまた、ロシアに大きく依存していたわけだが、両国の断交が今後も続けば、ウクライナ軍需産業がたちまち苦境に陥るであろうことは容易に想像がつく。(中略)そこで懸念されるのが、技術流出である」。

ウクライナの中国への軍需品の提供は多岐にわたっている。ウクライナから製品そのもの、もしくはライセンス生産などで中国に提供された軍需品としては、航空機や軍用ヘリコプター用のエンジン、戦車用ディーゼルエンジン、軍艦用のガスタービンエンジンをはじめ、その他多くのものが存在する。

中国の空母である「遼寧」は、元はソ連の未完成空母「ヴァリャーグ」だったのは、よく知られているところだ。ヴァリヤーグはウクライナの造船所で建造されていた。ソ連が崩壊すると、ヴァリヤーグは完成に至らず放置されていたが、それをスクラップとして中国が購入し、完成させたのが現在の中国空母遼寧だ。

多維新聞(2017年9月4日付)によると、ウクライナの技師バレリー・バビッチ氏が、中国の空母遼寧の再生・建造においてコンサルタントをしたという。バレリー・バビッチ氏は、ウクライナの造船事業で働いていた設計技師だ。しかも、遼寧の前身である空母ヴァリヤーグの建造においては、バビッチ氏は同空母の設計技師長を勤めていたという。バレリー・バビッチ氏はソ連時代の数多くの空母や巡洋艦の設計・建造のブレインとして高く評価されていた人物である。つまり中国空母遼寧の建造においては、ソ連時代の空母建造を担っていたウクライナ造船所の技術者が直接に顧問をしているということになる。遼寧建造にはウクライナの数多くのオリジナルの技術やノウハウが投入されているといってよい。多維新聞の報道が事実なら、もはや遼寧は中国独自のただの劣化コピー品とは言えない。

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