<連載コラム・東アジアの光と影(6)>日中関係、打開に向けて動き出す=習主席、本音は日中経済協力―尖閣海域を平和友好の海に!

八牧浩行    2018年1月6日(土) 5時0分

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今年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年。2012年9月の尖閣諸島の国有化とこれに反発した中国での大規模デモ以来悪化していた日中関係が打開に向けて動き出す年となりそうだ。資料写真。

今年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年。2012年9月の尖閣諸島の国有化とこれに反発した中国での大規模デモ以来悪化していた日中関係が打開向けて動き出す年となりそうだ。

安倍政権が中国と関係改善に踏み出すのは、世界一の消費大国中国とぎくしゃくした関係が続けば日本経済の発展と安全保障の安定に支障をきたすとの懸念があるためだ。トランプ米政権が中国と28兆円の商談をまとめたり、北朝鮮問題で連携したりし、対中接近政策を展開していることも背景になっている。核・ミサイル開発で挑発し安全保障上の大きな脅威となっている北朝鮮に影響力のある中国の協力も不可欠である。

◆「一帯一路」への協力、呼び水に

中国が総力を挙げるのが広域経済圏構想「一帯一路(海と陸のシルクロード)」。この構想への協力は格好な「対中カード」となる。日本政府は、中国企業と共同事業を手掛ける日本の民間企業を支援することになった。

途絶えていた首脳同士の相互訪問も計画されている。今年4月にも東京で開催される予定の日中韓首脳会談に出席する李克強首相と安倍首相が個別会談し、具体的な共同事業を取り決めることを目指す。既に日中の協力企業を選定する作業を開始している。その後、年内に安倍首相が中国を訪問し、習主席の19年の来日を見込んでいる。19年に日本で開く20カ国・地域(G20)首脳会議の開催時期に合わせる可能性もある。

◆「第5の政治文書」で新たな関係提示へ

両国政府は、習近平国家主席の来日時に、戦略的互恵関係など4つの政治文書に続く「第5の政治文書」の締結を目指している。政治文書の1つ目は1972年田中角栄首相が北京を訪れ国交を正常化した際に周恩来首相と発表した日中共同声明。中国は日本に対する戦争賠償の請求を放棄した。78年には平和友好条約を結んだ。来日した小平副首相は尖閣諸島について「我々は知恵が足りない。次の世代はもっと賢くなる」と棚上げを提起。日中間で暗黙の了解事項とされる。98年の日中共同宣言は21世紀に向けた日中のあり方を幅広く定める一方、歴史認識を巡り「中国への侵略によって中国国民に災難と損害を与えた責任を痛感し、深い反省を表明した」と明記。「戦略的互恵関係」は日中が立場の異なる歴史問題を事実上棚上げし、経済などの共通利益を軸に2国間関係を発展させることを目指す考え方。第5の政治文書では新たな日中関係を打ち出したい考えだ。

自民党二階俊博幹事長と公明党の井上義久幹事長は昨年末に訪中し習近平国家主席と会談、「世界の平和と繁栄に共に貢献する新しい時代の日中関係」を提唱。習氏は二階氏らの訪中を評価した。習氏が長年勤務した福建省を二階氏らが訪問したことを伝えると、満足そうだったという。

習近平氏が浙江省党書記だった時期に、同省と姉妹省県の静岡県知事を務めトップ同士の交流が度々あった石川嘉延氏は「習さんはとても協調的で日本との経済文化交流を大事にしていた」と述懐している。習近平は浙江省のほかにも、福建省や上海市など日本企業の進出が活発な地域のトップを務めていた時に交渉に当たった日本企業関係者の多くは「経済発展の重要性をよく分かっている人だった。本音は日中経済協力推進だろう」と語っている。

◆日本との関係を重視

習政権は安定した権力基盤の下、山積する内外の問題への対処のために、国内的には改革路線を堅持しながら、対外的には日本などとの融和路線をとるとみられる。

日中交流促進実行委員会最高顧問の福田康夫元首相は、習近平政権について、「政治経済が非常に安定しており、リーダーシップも強化されている」と評価。習主席と7回会談した体験を踏まえ、「習氏は日本を小さな存在とは見ておらず、日本が敵対的な行動をしない限り、日本との関係を重視し、相互理解を深めて行くことができる」と強調、より良い関係を構築し、次世代に引き継いでいけばかなりのことが可能となるとの考えを示している。

元駐中国大使の丹羽宇一郎・日中友好協会会長は、第2次大戦後の国際社会を安定的なものにするために、国連安保理常任理事国に日本とドイツを入れる一方、G7(主要7カ国)に中国、ロシア、インドを参加させるべきだと提案。中国のG7入りに日本が主導的な役割を果たせば、日中関係の改善につながるとの認識を示した。

中国には日本の企業が2万社以上あり、21万人もの日本人が暮らす一方、日本に在住する中国人は100万人近くに上る。日本はビジネスや貿易、投資だけでなく人的交流で中国と深く結びついている。

◆人的交流増やし相互理解を

日本と中国・韓国の関係は、やや和らいだとはいえ、なお微妙な状態が続いている。双方に偏狭なナショナリズムが横溢し、相手の国について悪いイメージが浸透し、わだかまりがあるのが実情だ。今こそ旅行や留学を通じた交流が重要であり、実際に相手国を訪問し、実際の姿に接し国民同士が対話すれば相互理解が進む。

中国人の訪日客は毎年増え続け、17年には700万人以上に達したが、日本人の訪中旅行は減少している。北京で取材した北京市旅遊発展委員会の任江浩処長は「文化と歴史を融合させ観光の目玉にしたい。北京では春は花見、夏は郊外での避地、秋は収穫と体力増進、冬は春節祭りなど四季折々に楽しめる。日中の観光客が相互にもっと行き来するようになれば、日中はさらにウィンウィンの関係を築くことができる」と語っていた。

日中間に「刺さったトゲ」と言われる尖閣諸島めぐる領土問題については、1972年の国交正常化以来、事実上「棚上げ」されてきたことを再確認し、実力・武力で問題の解決を図ることを避けたい。日中両国は偶発的な軍事衝突を避けるためのホットラインや危機管理メカニズムを早期に設定し、尖閣諸島周辺の海域・漁場を含む東シナ海全体を「平和・友好・協力の海」として共同管理していくことも視野に入れるべきだろう。

発展めざましい「東アジアの世紀」を実現する上で、重要なのはリスクを未然に取り除くことだ。その最大の必要条件は「平和と安定」の維持。日中韓台湾などアジア諸国の経済相互依存関係をさらに深め、「繁栄」に繋げたい。(八牧浩行

<完>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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