<コラム>日中韓と老人と海と 2

石川希理    2020年6月17日(水) 23時40分

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「老人」の生きざまは、日中韓には相当に差異があるようだ。写真は韓国の高齢者。

◆余談◆

「老人と海」はヘミングウェイの名作である。たぶん映画化もされている。短編、といっても芥川賞受賞作程度の長さはある。ネット上では「青空文庫」などで無料で読める。

一人で沖に出た老人が3日間かかってカジキを捕らえる。大きいので舟に縛り付けるが、流れ出た血によって、サメ襲われ、闘う。

この間の老人の望みのない人間の戦いの心理を、老人の人生をふり返りつつ描いたものだ。骨だけになったカジキを持ち帰り、疲れ果てた寝台で、老人はライオンの夢を見ていた。

◆閑話休題◆

さて、余談から入った(笑)

この小説を持って来たのは、「老人」の生きざまは、日中韓には相当に差異があるようだからだ。

次表は東アジア3国のOECD報告などからのものである。


日本の高齢化率は2020年現在、世界一だ。これだけの高齢化率で新型コロナの死者が劇的に少ないのは、ファクターXがあると考えられている。手洗い・マスクの習慣、(握手・抱擁より)間を取ってのお辞儀・住居での土足の禁止。もちろん公衆衛生の発達、医療体制の整備、健康保険、恥を知る文化、豊かな生活環境などと言ったことも考えられる。

老人の社会的な捉え方も、ずいぶんと違う。

時間軸で考えると、日中韓とも程度の差はあれ「老」はずいぶん軽くなった。

学校の歴史の授業で「大老」なんて聞いたことがあるだろう。江戸幕府の職制である。非常時に設けられる。通常は「老中」「筆頭老中」だ。「若年寄」なんて言う役職もある。

現在なら、「若者のくせに」の意味にも使われる。「老」と同義の「年寄」が高位の役職の名前だ。

「相撲にもあるで」

「そのとおり、相撲界には残ってますなあ」

かように、「老」は格式ある、有意義な言葉であった。村でも「長老」は尊敬の対象である。長い人生経験と知識が、尊重されたのだ。

現在は「老」は「老いぼれ」の意が強い。社会の変化が激しい、科学技術の進歩が早い。だから、老人の知識は陳腐化する。人生経験も分業化・高度化の進んだ産業社会では、多様化し複雑化しているから、役立たないと思われる。

マスコミや、ITの情報が豊富である。人生の儀式に何をどうすればいいかは、「老人」より、そう言った情報の方が早くて正確である。

こうして、時間軸がドンドン早くなり、行動範囲と空間が広がり、情報が行き交う時代には「老」の意味はすっかり薄れてしまった。

どころか、もう「邪魔」な存在と化しつつある。

中国の老人はリタイア後をゆっくり過ごすし、韓国の高齢者も日本よりは価値あるらしい。ただ老人の割合が少ない。日本の半分以下である。

「邪魔にならないんだなあ」

「そう、日本みたいに、4人に一人、3人に一人が高齢者となるとねえ」

「すると、30年も経つと…中韓も…」

「その通り、一人当たりのGDPなんかは日本を抜くかも知れないけれど、高齢化率も日本を抜き始める。そしてその時までに『中進国の罠』という成長の鈍化に見舞われているかも知れない。既にその兆しはあるねえ」

「なにその『中進国の罠』って?」

「コロナ騒動でも判ったように、輸出主導の国の経済的ダメージは大きい」

「日本も貿易立国だよ」

「昔はね。いまは内需が国を支えている。だから、失業者を出さない、所得を保障する政策を行っている」

「あ、中国や韓国の、失業率なんかは高い!」

といっても、日本のように内需中心でも、高齢者の立つ位置は難しい。

日本の場合は高齢者に働いてもらわないと国が成り行かないし、実質的な移民受け入れ政策も動き出している。だから、工夫して高齢者の社会参加、仕事への参加を促さないといけない。

「歳だからはダメか…」

「そう、それは逃げ口上。スマホもネットもドンドン使って、運動もして高齢者は頑張る」

「ちょっと、しんどいなあ」

その意味での高齢者の尊重は大切だが、日中韓ともに「経験を伝える」事も大切なのだ。

「あれっ? 社会の進歩が激しいから経験は役立たないって書いてなかった?」

「近視眼的にはねえ。私も近眼だが、目の物理的悪さはともかく、大きな目で眺めると、老人の経験は大切だよ」

「そうかなあ…」

「技術はともかく、人間社会の基本は、ヒューマンリレーション、つまり人間関係」

「ま、そりゃあね」

「悩み多い親子関係、横を向いている夫婦関係、いやな姑、パワハラの上司、自慢ばかりの同僚、仕事の押しつけ、学校や職場でのいじめ、学校でのし歩くやなグループ、伸びない学力、スマホラインの苦痛、嫌われる教師、伸びない営業成績、嫌な客、モンスターペアレント…」

「あらら、その通りだよ…」

「スマホもネットも出来ないけれど、こういった昔からあり、そして未来永劫に続く『人間の原罪』に対しては、老人の経験は大切だと思うねえ。どこの国であれ」

「その話を聞いてわかった、老人と若者の触れあう機会がない…」

「その通り、その仕組み作りが必要だねえ。レコチャなんかは、そういう面でも役に立っているかなあ(笑)」

「…、しかし、本当の気がするねえ。若者は老人を疎ましく思い、老人は『近頃の若者は』なんて、古代から思い続けている。それが、老人の激増で酷くなっている。うん、考えてみよう」

老人はライオンの夢を見ていた。そういう老人に私はなりたい。

もう、一昔前以上から老人か。(笑)

■筆者プロフィール:石川希理

1947年神戸市生まれ。団塊世代の高齢者。板宿小学校・飛松中学校・星陵高校・神戸学院大学・仏教大学卒です。同窓生いるかな?小説・童話の創作と、善く死ぬために仏教の勉強と瞑想を10年ほどしています。明石市と西脇市の文芸祭りの選者(それぞれ随筆と児童文学)をさせていただいています。孫の保育園への迎えは次世代への奉仕です。時折友人達などとお酒を飲むのが楽しみです。自宅ではほんの時折禁酒(笑)。中学教員から県や市の教育行政職、大学の準教授・非常勤講師などをしてきました。児童文学のアンソロジー単行本数冊。小説の自家版文庫本など。「童話絵本の読み方とか、子どもへの与え方」「自分史の書き方」「人権問題」「瞑想・仏教」などの講演会をしてきました。

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