米中対立で世界経済の分断が進行、世界同時不況の恐れ=対立打開の動きも活発化

八牧浩行    2023年1月22日(日) 7時0分

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米中対立の激化やロシアのウクライナ侵攻を受け、グローバル経済の分断が深まっている。こうした中、米中間で対立打開の動きも出始めた。

米中対立の激化やロシアウクライナ侵攻を受け、グローバル経済の分断が深まっている。経済のルール構築をめぐる米中の覇権争いや先進国と新興国の対立などが深刻化。自由貿易体制は危機的な状況にあり、このままでは世界同時不況に突入する恐れがある。

守護神不在の自由貿易

米国は中国に対する先端半導体の輸出規制を発動。ウクライナ危機では、国際的なドル決済網からロシアを締め出す経済制裁を講じた。基軸通貨を握る優位性や技術力のほか、同盟国との関係をフル活用し、経済覇権を保とうとしている。一方中国は豪州や台湾との関係が悪化した際、特産品の輸入を制限して相手国の経済に打撃を与えた。尖閣諸島をめぐり日中の対立が激化した2010年代には、希少鉱物の対日輸出を止めたこともある。中国の習近平国家主席は昨年12月に中東を訪問し、サウジアラビアなど産油国に対し原油取引の人民元決済を提案した。ドル基軸の国際金融システムへの挑戦といえる。

こうした大国の行動がさらに混乱を招く悪循環に陥っているのが実情だ。経済力向上より安全保障、国際協調より特定国間の連携を重視する流れが強まっているのも世界全体の発展を阻害している。米国は国際分業体制の見直しを求めているが、複雑に張り巡らされた供給網を寸断すれば、企業活動に混乱が生じてしまう。こうした振る舞いは経済活動のコストを押し上げ、景気後退に直面している世界経済の不確実性は拡大するばかりだ。

各国間で貿易を巡る争いが頻発しているが、最高裁にあたる世界貿易機関(WTO)上級委員会の委員が不在のため、仲介機能がストップした状態が続く。自由貿易の旗振り役であるはずの米国が紛争解決制度に不満を持ち、委員選出を拒んでいるためだ。

貿易秩序の立て直し急務

多くの国が大国に求めるのは、世界経済の安定につながる秩序の再構築である。覇権を争うよりも、貿易や投資の枠組みの立て直しこそが最優先されるべきである。

アジア太平洋地域でのバランスの取れた取り組みは重要である。日中韓とオーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の合計15カ国が加盟する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が昨年1月に発効した。世界最大の多国間自由貿易圏協定(FTA)で、日本、中国、韓国が加わって締結する初めての協定となる。

RCEPは、域内の人口が約22億7000万人(2019年)、国内総生産(GDP)が約25兆8000億ドル(同)といずれも世界の3割超を占める。米国が抜けた環太平洋経済連携協定(TPP)を上回る巨大な自由貿易圏協定となり、日本企業の進出や輸出入の促進など大きな効果が見込める。日本政府は協定発効に伴う関税撤廃・削減などで部品や素材の輸出が増え、日本のGDPを約2.7%押し上げる効果があると試算する。

中国はTPPへの加盟を申請し、ルール形成に影響を及ぼそうとしている。米国はインド太平洋経済枠組み(IPEF)を発足させ、中国に頼らない供給網の構築を目指す。これらすべての枠組みに参加する日本の役割は大きい。一方、米国には自国第一に傾かず多くの国や地域が貿易や投資の果実を分け合う発想を求める一方、中国に対しては公平で透明性の高い経済運営の価値を説くべきだ。米中双方と距離を置く東南アジアやインドとの連携が進展する。

分断と保護主義は相手の対抗措置を誘発する負の連鎖をもたらし、第二次世界大戦の誘因となった。今日の国際経済のルールは、そうした反省を踏まえて作られたものだ。価値観が異なる国や地域が共存する道を忍耐強く探り、通商秩序の再構築に知恵を絞る時だ。

こうした中、世界銀行は1月上旬、2023年の世界経済の実質成長率見通しを1.7%に引き下げたと公表した。半年前の前回見通しで示した3.0%から下方修正した。世銀は「高インフレと、それに対応した各国の利上げが世界経済を景気後退に追いやる危険性をはらんでいる」と指摘した。

先進国は0.5%と前回見通しから1.7ポイント引き下げられ、米国が0.5%、ユーロ圏は0%成長とほぼゼロ成長にとどめた。いずれも前回見通しから1.9ポイントの大幅な下方修正となった。日本の引き下げ幅は0.3ポイントで、成長率見通しは1.0%になった。

米中対立を乗り越える「グランドデザイン」を

新興国・途上国の成長率も23年は3.4%と0.8ポイントの下方修正になった。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中国は0.9ポイント引き下げて4.3%とした。新興国も7割が下方修正となり、輸出の低迷、高インフレと通貨安、資金調達環境の悪化を反映した。世銀のマルパス総裁は新興国・途上国について「多額の債務負担と投資の低迷により、数年にわたる低成長に直面している」と分析。教育や健康、貧困問題などさまざまな分野に影響が及ぶと懸念を表明した。

23年の世界経済成長率が予想通りになれば、2000年以降ではマイナス成長に沈んだリーマン危機後の09年、コロナ禍の20年に次ぐ低成長となる。21年は5.9%と回復したが、22年は2.9%に減速する見込みで、23年はさらに落ち込む。24年は2.7%と予想している。

リーマン危機の後は中国経済が高成長を続けたが、今けん引役は不在だ。ただ中国では新型コロナウイルス感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策の事実上の終了に加え、不動産会社への厳しい財務指針の緩和観測、IT業界への規制緩和などにより、株式や社債などへの資金流入が増大している。

激しい「米中対立」の中でも米中両国の貿易量は拡大している。米産業・金融界は中国市場の巨大さと成長性に着目し、「中国での貿易・投資権益を失うな」と猛烈なロビー活動を展開。対中デカップリング(切り離し)現象は起きていない。

さらに米中対立の緩和を志向する動きも出てきた。

ブリンケン米国務長官が2月上旬に中国を訪問する予定だ。昨年11月の米中首脳会談を踏まえたもので、中国外交担当トップの王毅氏や秦剛外相らと会談する見通し。

1月18日にはイエレン米財務長官と中国の劉鶴副首相がスイスのチューリヒで会談。経済・金融面での対話強化や、気候変動対応を巡る途上国への金融支援で協力すると確認した。バイデン大統領と習近平主席の相互訪問も検討されている。

米中対立を越える世界秩序の維持発展の「グランドデザイン」をどう描き実現するか、世界経済にとって喫緊の課題となっている。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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