<追求!世界平和>もう打ち止めにしませんか!世界の世論から見識を疑われるだけ―浅野勝人・元外務副大臣(下)

Record China    2014年6月8日(日) 5時22分

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河野談話の見直しや天皇陛下も自重している靖国参拝を総理大臣に強いるような政治的言動は、木の枝ぶりだけを見て、森全体を眺める視野に欠けている議論としか言いようがない。写真は南京市の利済巷に残存する大規模な日本軍慰安所の跡地。

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第一次安倍内閣の外務副大臣だった2007年2月21日、民主党の岡崎トミ子、円より子両参議院議員が付き添って、韓国人の戦時慰安婦だった方(李容珠さん)を外務省に連れて来られました。

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厳しい抗議を受ける覚悟はしていましたが、植民地下で旧軍の行った全ての行動について、現在の日本政府及び日本人にも道義的責任が伴うこと。特に戦時慰安婦の問題についてはお詫びして許されることではないけれども、先輩たちの犯した罪については我が事として改めて謝罪させていただきたい旨を申しあげました。そして、戦後60年の節目に発表された小泉談話が「過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています」(2005年8月15日)と述べて、河野談話、村山談話を追認していることを丁寧に紹介しますと、気品のある高齢の韓国婦人はうっすらと涙を浮かべたあと、私の目を見て微笑んでくれました。

だから「どこの国でもやっていたではないか」というNHK会長の発言は、世界の世論から見識を疑われるだけです。

維新の会の石原慎太郎代表が、2014年2月28日、衆議院予算委員会の質疑で「当時の河野官房長官がバカな発言をして従軍慰安婦を捏造した」と発言したことが、自由人の立場にあるジャーナリストOBの某氏との間で話題になった折、「国会内での発言は何を言っても憲法で守られているとはいえいささか品性に欠ける」と述べた上で、「キチガイにバカと言われるのは正常な証拠。ヒトさまざまだねぇ」と言った某氏の感想には恐れ入りました。

それから「強制連行でなければ構わない」と受け取られかねない橋下・大阪市長の証拠と事実の使い分けは、法廷では勝訴するかもしれませんが、現実を直視して問題の処理に当たる政治家の発言としては繰り返さない方がよろしいでしょう。

 

もともと河野談話や村山談話( 1995年8月15日、戦後50周年の終戦記念日:植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明した村山富市総理談話 )それに戦争責任者のA級戦犯を合祀した靖国神社への政府首脳の参拝自重は、近隣諸国との歴史認識をめぐる反目の繰り返しを断ち切るための高度の政治判断だったはずです。

 北京大学特任講師の私が「過去に学んで現在を正し、未来に生かそう」と学生たちに繰り返し述べてきたのは、反目の連鎖を断ち切って前に進もうと指摘したかったからです。

安部首相も参議院予算員会(3月14日)で「河野談話の見直しは考えていない」と答弁しました。これでやっと落ち着きを取り戻すことができると思った矢先、政府は河野談話の作成過程調査委員会を発足させるという報道があり、一体なにをどうしようとしたいのか理解に苦しみます。

いつまでもけじめをつけられずにモタついているうちに、東京に次いでソウルを公式訪問したオバマ大統領が朴(パク)槿(ク)恵(ネ)(パク・クネ)大統領との首脳会談(4月25日)で慰安婦問題に言及して「戦時下であっても言語道断な人権侵害」と述べて、実にひどい人権侵害と考えなければならないという見解を示しました。すっきりと村山談話、河野談話の維持・継承を明確にしておれば、事前に韓国側から慰安婦関連発言の要請が仮にあったとしても、おそらく言及しなかっただろうと思われます。

新華網は、先頃、南京市が利済巷に残存する大規模な日本軍慰安所の跡地を文物保護対象に指定する方針だと伝えています。ネットで見ると、8000平方メートルの敷地の中に、今でも木造モルタル造りのような2階建てで部屋が16室ある大きな建物が7棟、朽ち果てたまま残っています。「アジアに現存する最大規模の日本軍慰安所旧址を文化財に指定して保存する」という記事は胸が痛んで読めません。

もう、卵が先か鶏が先かの議論を近隣諸国との間で繰り返すのは打ち止めにしませんか。誰にも、どこの国にも何の益も齎(もたら)せません。

愛国心とは、自らの国を大切に育み、他国から侵略を受けたら、命を賭して戦う決意です。他国から侵略されたら、76才の私は鉄砲を担いで前線で戦います。おそらく何方(どなた)の決意にも負けないつもりです。とても大切なことは、愛国心の中には自国が犯した過ちを率直に認める勇気が重い位置を占めている点です。それを忘れない河野談話や村山談話が、近隣アジア諸国だけでなくアメリカやヨーロッパの国々でも至極当然な日本の歴史認識として受け止められているのだと思います。

河野談話や村山談話を見直すことによって骨抜きにすることを狙い、天皇陛下も自重しておいでの靖国参拝を総理大臣に強いるような政治的言動は、木の枝ぶりだけを見て、森全体を眺める視野に欠けている議論としか言いようがありません。中韓両国への配慮から指摘しているのではありません。もう、これ以上、政府を困らせるなと申しあげているのです。

<追求!世界平和>第1回(下)=(上)は7日配信済み。

浅野勝人(あさの・かつひと) 1961年NHK入局、政治記者として自民党、外務省、首相官邸各キャップや解説委員を務めた後、政界に転じ衆参両院議員(自民党)、第一次安倍政権で外務副大臣、麻生政権で官房副長官などを歴任。現在、一般社団法人 安保政策研究会理事長、東北福祉大学特任教授。著書に「日中反目の連鎖を断とう―北京大学講義録」(NHK出版)、「成熟」(時評社)など。

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