<遠藤誉が斬る>「天安門事件記念館」主催者側との対話――事実を残す闘い

Record China    2014年6月2日(月) 7時58分

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6月4日には天安門事件25周年記念を迎える。1989年から四半世紀という節目に当たり、4月26日に香港で「六四紀念館(天安門事件記念館)」が開設された。中国政府がどうしても公開しない事実を残すためだ。写真は天安門。

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6月4日には天安門事件25周年記念を迎える。1989年から四半世紀という節目に当たり、4月26日に香港で「六四紀念館(天安門事件記念館)」が開設された。中国政府がどうしても公開しない事実を残すためだ。

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なぜ「4月26日」に開館したかというと、89年4月26日に中国共産党の機関紙「人民日報」が、天安門に集まる学生たちの動きを「政府転覆」を目的とした「陰謀」あるいは「動乱」と位置付けた社説を載せたからである。

「天安門事件」は、この声明に激怒した学生たちから始まっている。それまで学生たちは、失脚に追い込まれた胡耀邦元国家主席の死を悼み、静かに集まっていただけだった。

だから天安門事件は「6月4日」に、中国人民解放軍が丸腰の若者たちに銃を向け、民主への叫びと渇望を銃口でふさいだという意味では「6月4日」が節目ではあるが、中国の民主活動家の中では、この「4月26日」が、もう一つの大きな節目になっている。

◆記念館主催者側と筆者の共有点

香港の天安門事件記念館の開設は「香港市民支援愛国民主運動聯合会(愛国民主運動を支援する香港市民の聯合会)」(支聯会)が2013年12月17日に香港の九龍尖沙咀柯士甸路3號にある富好中心(センター)5階フロアーを購入したことにより可能となった。

実は筆者は、天安門事件記念館の主催者側と頻繁に電話で話し合ってきた。

なぜなら筆者自身もまた、「中国がどうしても公けにしない歴史的事実」を抱えながら生きてきたからだ。

本コラムでも何度か書かせて頂いたように、中華人民共和国(現在の中国)が誕生するための革命戦争(解放戦争とも言う)において、筆者が住んでいた長春市は中国共産党軍(のちの中国人民解放軍)に丸ごと食糧封鎖された。それにより数十万に及ぶ無辜の民が餓死している。しかし中国はこの事実を、ありのままに公開することを認めない。「チャーズ」という包囲網の門を中国共産党軍が開けないことによって、多くの市民が餓死していったことを認めないのだ。

なぜなら中国人民解放軍は「人民のための軍隊」であるとしながら、鉄条網の柵の目の前で「人民」が餓死していくのを見殺しにしたからである。

1983年、筆者はこの事実を自分の経験として著して以来、中国語版を中国大陸で出版することを目指して生きてきた。しかし中国が言論の自由を認める日は遠のくばかりだ。それを悟ったため、遂に台湾で出版することを決意した。

その本を香港の天安門事件記念館に寄贈して、大陸から参観に来る人々に配ってもらうことになっている。今のところ毎日百名ほどの参観客が大陸から来るという。

支聯会が発足したのは89年5月21日だ。その年の4月26日以降、デモが激しく燃え上がった中で設立した。

あれから25年間、香港の民主活動家は耐え抜いてきた。

一つの事実を、ありのままにこの世に残すことが、こんなにまで阻害されるのか――。

筆者と彼らの思いは同じだ。

天安門事件もまた、「人民の味方であるはずの中国人民解放軍」が、「人民」に銃を向け、戦車で踏み潰して、「人民」の若い命を奪っている。

その意味では筆者が経験した「チャーズ」と、同じ構造を持っている。

◆真実を追及する「民の力」を恐れる中国政府

中国政府が天安門事件を若者に教えず、歴史の風化を待っているのは、今もなお、その火種がくすぶっているからだ。それが再燃するのを恐れている。

そして習近平政権になってから、「西側の価値観を中国内に輸入させてはならない」という強い指示に基づいて、ネット空間における多くのオピニオンリーダーが逮捕されている。

天安門事件記念館があるビル(富好センター)のオーナーも、「使用目的に異議あり」として、記念館主催者側を告訴するそうだ。オーナーは北京政府側と連携しているのだろうと、主催者側は考えている。

そのためネットでは、6月11日には閉館に追い込まれるだろうという情報が流れている。

本当にそのようなことになるのかと主催者側に聞いたところ、「ならないだろう」と言っていたが、「記念館のウェブサイトがハッカーにやられた」と、その声は何とも弱弱しかった。

事実、主催者側の公式ウェブサイトは開けなくなっており、また筆者が送ったメールも検閲を受け、届かない。きっと電話まで盗聴されていることだろう。

言論の自由、事実を公開する自由は、ますます厳しく制限され、取締りは強化されるばかりだ。言論弾圧にめげずに初志を貫くことは並大抵のことではない。命を賭けた覚悟と、時には折れそうになる心を思い留まらせる、堅固な意志力が求められる。

「西側の価値観」は「民主的思考の価値観」であり、「人命を尊重し、尊厳を守り、無辜(むこ)の民の命にも、同等の命の価値がある」とする考え方だと言ってもいい。

このような、当たり前のことを、命がけでないと主張できない国家が、人類の中で長続きするのだろうか。

<遠藤誉が斬る>第37回

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』など多数。

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