<激動!世界経済>日本、2016年にも経常赤字に転落、国債の国内消化困難に?―超インフレの恐れも

八牧浩行    2014年2月6日(木) 7時20分

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日本が、2013年に3年連続の貿易収支赤字に陥った。このままでは2016年にも経常収支が年間ベースで赤字に転落する懸念が高まっている。恒常的な経常赤字になれば未曽有の財政赤字と相まって日本経済にとっては危機的状況に陥ってしまう。写真は東京・新橋。

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長らく「貿易立国」「経常黒字大国」といわれた日本が、2013年に3年連続の貿易収支赤字に陥った。赤字幅は前年に比べて約4兆5000億円も拡大、史上最高を更新した。このままでは2016年にも資金の出し入れ額を示す経常収支が年間ベースで赤字に転落する懸念が高まっている。

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円安で燃料の輸入などが膨らむ一方、企業の海外生産が進む中、新興国との競争激化もあって輸出が増えず、円安メリットを生かせないパターンが続く。恒常的な経常赤字になれば未曽有の財政赤字と相まって日本経済にとっては危機的状況に陥ってしまう。

◆揺らぐ「貿易立国」

昨年11月の国際収支統計によると、経常赤字額は5928億円。赤字は2カ月連続で、単月でこれまでで最大だった12年1月の4556億円を大きく上回った。2013年1〜11月の経常黒字は累計で約3兆9千億円にとどまっており、過去13年は最少だった12年(4兆8千億円強)を大幅に下回る見通しだ。

 

 経常収支は、国内外を出入りする資金の差し引きのこと。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支、日本企業が海外で得た収益から外国企業が日本で稼いだ収益を引いた所得収支、外国人客が日本で使ったお金から日本人客が海外で使ったお金を引いたサービス収支などを合算する。日本は、自動車やテレビなど工業製品の対外輸出が大きく寄与して、石油ショック(1973年)を乗り越えた後の80年代以降、ほとんどの年は大幅経常黒字を計上、欧米など海外諸国から「黒字減らし」を要求されるほどだった。

 ところが、東日本大震災後、国内の原発が停止したため、火力発電のための燃料の輸入が拡大。さらに昨年2月以降の「異次元の金融緩和」で円安が高進しで輸入価格が急上昇、輸入額が輸出額を上回る貿易赤字の状態が10カ月連続で続いている。

燃料輸入が増える秋冬季には、月間の経常収支が赤字となる傾向が強まり、昨年11月も、原油や液化天然ガスの輸入が膨らみ、貿易赤字額は11月としては過去最大の1兆2500億円超に達した。

 ◆海外生産シフトと競争力低下で

 

理論的には円安は輸出企業にとって、相手国での販売価格下落をもたらし有利に働く。アベノミクスも超金融緩和による円安効果によって主として輸出企業の業績改善を狙ったものだが、肝心の輸出は伸び悩んでいるのが実情だ。

その最大の要因は「産業の空洞化」。主要産業の自動車を例にとると、日系自動車各社は06年から12年までの6年間で、海外生産台数を500万台増の1580万台に拡大する一方、国内生産を994万台と150万台も縮減した。薄型テレビ、IT機器なども輸出が減退する中で、台湾、韓国、中国などから、スマートフォン、同部品をはじめとする輸入が増加。「従来日本が強かった電気機器を中心に日本企業の輸出競争力が相対的に落ちている」と分析するアナリストも多い。

貿易が苦戦する中、次の稼ぎ頭として注目されるのが旅行などのサービス収支や海外での投資収益を示す所得収支である。

 サービス収支は昨年4月から8カ月連続で赤字幅を縮小。円安を追い風に、アジアなどからの訪日外国人が1000万人を突破するなど旅行収支の改善が大きく寄与した。所得収支も昨年8月を除き、12年の12月以降、黒字幅の拡大が続く。過去の円高局面などで日本企業が種をまいたM&Aや、海外子会社の利益還流が進展。13年1〜11月の所得収支黒字の累計額は15兆6000億円強と前年同期よりも15%増えた。

 

ただ、いずれも貿易収支の悪化ペースをカバーするほどの寄与は考えにくい。暦年ベースの経常黒字は07年の約25兆円をピークに減少傾向にあり、12年は4兆8千億円まで縮小した。このままでは16年にも年間で経常赤字に転落する可能性がある。

日本からお金が流れ出す経常赤字が定着すると、日本の経済活動に必要な資金を国内で賄えない構造になりやすい。特に日本は世界でも断トツの国債発行残高(年間GDPの約2倍の1000兆円強)を抱えているため、国債を国内で安定的に売却できない恐れも出てくる。そうなると、国債の価値が下がり、金利急騰の懸念も否定できない。円安も過度に進みやすくなり、輸入価格の上昇が生活をさらに圧迫することも考えられる。高齢化による国内貯蓄の取り崩しなど構造問題も深刻化してしまうだろう。

 

 ◆抜本的な歳出削減と税制改革待ったなし

経常赤字が定着すれば、新規の国債発行の消化を海外投資家に頼らなければならなくなる恐れがある。中長期的な視点で経常収支の改善に向け、法人減税や規制緩和などで海外投資を呼び込み、企業の競争力を向上させる政策が喫緊の課題だ。

甘利明経済財政相は「貿易立国の原点がいま、若干揺らいでいる。輸出環境の整備に取り組み、まず貿易収支の赤字幅をつめていき、投資収支をしっかり上げていくことに取り組まなければいけない。放置すると財政資金を海外に頼るという米国型になっていく。深刻に受け止め、根本原因を解消していくことに取り組まなければいけない」と強い懸念を表明している。

富士通総研経済研究所の早川英男・エグゼクティブ・フェロー(元日銀調査統計局長)は、対GDP比率でギリシャを上回る国債残高を抱えながら日本の財政が維持されてきたのは、「国債のほとんどが国内で消化されていたことと、デフレ・低金利で利払い費用が増えなかったことによるもの」と分析。「高齢化による貯蓄率の急落や構造的貿易赤字により国債安定消化の基礎は崩れかけ、税収が歳出の半分しかない日本では、デフレ脱却が実現してもプライマリーバランスすら改善しない」と警告し、歳出削減と税制改革など抜本的な対策を講じるべきだ」と呼びかけている。

巨額財政赤字にあえぐ中で、いずれ年間経常収支も赤字となり、大幅なインフレになる可能性が高いと言わざるを得ない。有力エコノミストによると、16年がそのターニングポイントになるという。厳しい財政事情下、人口が減り続けるため内需への依存は難しく、日本企業が今まで続けてきた努力をただ積み重ねるだけでは日本経済の再生はない。大胆な構造改革、財政再建の断行のほか、発展著しいアジアの成長を積極的に取り込むことが不可欠。官民挙げての斬新かつ不退転の施策が求められる。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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