<「中華の夢」の行方(7)>中国が「宇宙開発戦争」で先頭に=地球にない核融合物質狙う―有人深海探査も

八牧浩行    2014年1月4日(土) 7時50分

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宇宙開発競争といえばかつての冷戦時代は米ソ2大国がしのぎを削っていたが、今、中国が主役の座に躍り出た。有人深海探査も積極的に推進、この分野でも覇権を握ろうとしている。写真は酒泉衛星発射センター。

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宇宙開発競争といえばかつての冷戦時代は米ソ二大国がしのぎを削っていたが、今、中国が主役の座に躍り出た。 有人深海探査も積極的に推進、この分野でも覇権を握ろうとしている。

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2013年12月15日、中国の月探査機「嫦娥(じょうが)3号」が月面に軟着陸し、搭載していた無人探査車「玉兎(ぎょくと)号」による活動が始まった。無人探査機による月面着陸に成功したのは、旧ソ連と米国に続いて世界で3番目。実に37年ぶり。中国は宇宙開発大国をアピールして国威発揚を図るとともに、月の資源獲得を視野に宇宙権益を確保する狙いがある。

探査車は、レーダーや撮影装置を備えており、約3カ月間、地球からの遠隔操作で月面を走行しながら月の地形や地質構造のデータを収集する。4台のカメラを備え、ロボットアームによる月面掘削も可能という。嫦娥3号は着陸地点で約1年間にわたり、宇宙観測を続ける。

◆37年ぶりの月面軟着陸

宇宙開発で大きく先行していた米国、ロシア両国は財政難や優先順位の変更などで大きく後退。米国の宇宙開発ではNASA(米航空宇宙局)のスペースシャトル計画はすでに終了しており、スペースX社など民間企業の比重が増しているのが実情だ。

中国は2020年をめどに有人宇宙ステーション建設計画を推進。少なくとも国家主導の宇宙開発分野では中国がトップに立つ可能性が大きい。中国がこの間に宇宙開発に費やした費用は500億元(約8000億円)に達する。内陸部の酒泉衛星発射センター(甘粛省)などに続く発射センターとして、南シナ海に面した海南島にケネディ宇宙センターをモデルにした新施設も完成させた。中国科学技術部(省)、欧州連合(EU)、欧州宇宙機関(ESA)は12年夏に北京で行われた「中国・欧州宇宙科学技術協力対話」で、宇宙科学技術協力をめぐる中国と欧州の対話メカニズムをスタートさせることを決定した。

貧困層が依然多い中国では、「宇宙開発事業に金を使い過ぎだ」との批判がネット世論を中心に飛び交っており、中国の指導者は国民に、宇宙開発への中央政府の巨額の支出を正当化する必要に迫られている。それでも宇宙開発は国家の威信を高揚させ、技術力が向上するとの見方も根強く、「今やらなければ中国は将来、宇宙の支配権を失うことになる」と開発を支持する意見も多い。

中国は今回の探査機月面着陸に続いて、2020年にも米国に続く有人月面着陸を計画している。さらに30年以降には長期の有人滞在を可能にする月面基地を建設する構想を立案している。中国が月面着陸にこだわるのは、核融合反応から未来エネルギーを取得しようという国家計画を推進するためである。

現行の原子力発電はウランの核分裂反応を利用したもので、寿命が半永久的な放射性廃棄物を排出し、処理が非常に困難。これに対し月に豊富にあるヘリウム3を使用した核融合反応は、有害な廃棄物をほとんど出さない。もちろん温室効果ガスの発生もないため、環境問題が深刻化している中国にとっては理想の未来型エネルギーとなる。

地球の上空には磁気圏があり、宇宙線の直接の侵入を防ぎ人体を守っているが、ヘリウム3は磁場に妨げられて、地球上にはほとんど存在しない。核融合炉の技術はまだ確立されていないが、将来可能となる見通しで、中国政府は2017年までにヘリウム3の採取を目指している。このほかウラン、チタンなど、地球では希少な資源が大量に眠っているとされる。

◆未確定の宇宙資源利用ルール

2011年9月に発表された「中国の平和発展」と題された白書は、「中国は人口が多く、基盤がぜい弱で、世界人口の20%に相当する国民を世界のわずか7.9%の耕地と6.5%の淡水資源で養っている。経済発展の成果は13億人の国民によって享受されていなければならないはずだが、常に多くの庶民の生存とニーズを満たすような発展は困難を極めている」と指摘。中国はエネルギー源を求め長期的なプロジェクトとして宇宙への進出を狙っていることが分かる。

宇宙開発の憲法ともいえる「宇宙条約」では、月を含めた天体には領有権を主張できないが、資源の利用についての規定はあいまいだ。月の資源の所有を禁じた「月協定」が1984年に発効したが、日本をはじめ、宇宙活動を展開する国々の多くは批准せず、実効性はない。中国の資源調査は、月の資源利用のルール作りを主導する意図もあるとみられる。今後、このままでは月の資源をめぐって激しい奪い合いになるのは必至。中国がその権益を国際ルールができる前に確保しようとする強い意思も見え隠れする。

◆7000メートルの有人深海探査に成功

宇宙と並んで深海もエネルギー鉱物資源の宝庫である。12年6月には、中国の有人深海潜水艇「蛟龍号」がマリアナ海溝の水深7000メートルに到達した。有人深海潜水艇での大規模な潜水実験に成功したのは米国、フランス、ロシア、日本に次いで5カ国目。作業用の有人潜水艇としては世界記録となった。

中国の有人宇宙船と有人深海潜水艇には多くの軍事的な用途もあると見られている。両分野とも、いつの間にか世界のトップクラスに躍り出た。軍事にも転用可能とされ、世界各国からは「情報開示が進んでおらず脅威だ」との声が高まっている。

中国国防部は「中国は一貫して、宇宙の軍事化に反対しており、宇宙の軍拡競争には参加しない」と反論。「中国の宇宙事業の目的は、宇宙の平和利用のためであり、文明の促進、人類の幸福のためである。また、国の経済発展や、科学技術、安全保障などのニーズを満たすためでもある」と「平和利用」を強調するが、世界各国の不安はなかなか消えない。

また、有人潜水調査船「蛟龍号」についても、「深海の科学研究と海洋環境保護のために研究開発されたもので、海洋に対する認識や平和的な利用に積極的な役割を果たす」と説明しているが、情報の開示は少ない。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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