日本人をつないだ本のリレー、図書室管理人が見た日中関係の変化―北京市

Record China    2012年11月21日(水) 12時18分

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19日、中国各地で湧き起こった反日デモから2カ月が過ぎた。領土問題で悪化した日中関係の回復がまだ見えないまま、2012年の冬が到来した。写真は北京日本人会図書室の管理人・任さん。

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11月19日、中国各地で湧き起こった反日デモから2カ月が過ぎた。領土問題で悪化した日中関係の回復がまだ見えないまま、2012年の冬が到来した。

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北京市内の日系ホテル・長富宮飯店の隣にあるオフィスビルに、日本人会の図書室がある。ここも利用者が減っているという。この図書室は1989年に設立された。この年に天安門事件が発生し、多くの日本人が帰国する際に大量の日本語書籍を残していき、これらが日本人会事務局に送られてきた。当時、中国で日本語の本を入手するのは非常に困難だったため、日本人駐在員の妻たちが有志で本を整理して貸し出しノートを作り、北京在住の邦人に提供するようになった。これが図書室の前身である。

わずかな経費で運営するため、主な蔵書は在住邦人の帰国時に寄贈を受けたものが最も多い。現在は約2万5000冊が所蔵されており、これは日中関係の風見鶏にもなっているようだ。両国関係が良好な時は、「中国人のおもてなし術」「中国で儲けるために」などの書籍が多く、逆に関係が悪くなると「人民解放軍が日本を侵略する」「中国人は日本を買い占める」のようなタイトルが目立つようになる。まさに日中関係の変遷の目撃者である。

今回の尖閣問題の影響はかなり深刻だ。事件後に帰国した日本人駐在員の家族のなかにはそのまま戻らない人もいる。北京マラソンの参加を断念した日本人もいる。やはり今の環境に不安を感じるのだろう。北京日本人会図書室の管理に携わる任正平(レン・ジョンピン)さんは、北京の日本人についてこう語る。

今年51歳の任さんは80年代後半、大学の事務員を務めていた。改革開放政策が始まったばかりの当時、誰もが旺盛な知識欲を持っていたという。彼もキャリアアップのために、働きながら大学の夜間コースで日本語の勉強を始めた。きっかけは日本語クラスの募集枠に偶然、空きが出たこと。他のクラスはすべて満員だった。「日本語は漢字を多く使っているから勉強しやすいだろう」、そんな軽い気持ちで受講を始めた。

任さんは当時を振り返り、「あの時代の中国社会に反日感情はあまりなかった。むしろ、テレビトラマを通して日本への親近感があり、先進の科学技術など、中国人にとっては学びの対象だった」と話している。

89年の初夏、天安門事件をきっかけに多くの日本企業や在住邦人が中国から撤退すると、任さんは日本へ留学することを決意した。日本滞在中の92年2月、トウ小平の「南巡講話(なんじゅんこうわ)」を境に、中国は対外開放を一層拡大することが明確になった。もちろん、日本企業の対中投資や日中貿易も再び活発になる。任さんは約7年間の日本生活に終止符を打ち、北京に戻った。日本人が多く入居するマンションの管理会社で、駐在員やその家族の世話役を担った。

休日には日本人会図書室でボランティアをした。多い時には、月10日間をここでの手伝いにあてた。この仕事が好きな理由は、かつて自身が東京で生活していたときにさかのぼる。当時たびたび、池袋周辺にある中国人向けの本屋やレンタルビデオ屋に行った。そこには、本やビデオを借りる喜びだけではなく、店員さんと中国語で会話することの楽しみもあった。ホームシックの時、母国語で話ができる相手さえいれば気持ちも少しなごやかになるのではとの思いと、日本への恩返しのためにとの思いだった。

2008年、北京五輪開催の年に、任さんは図書室唯一の専属スタッフとして正式に転職した。帰国する多くの日本人たちが、読み終えた本を図書室に送ってくる。中にはわざわざタクシーで運んでくる人も少なくない。「もっとたくさんの人たちに読ませてあげてください。よろしくお願いします」と挨拶してくれる時の感動は忘れられないと任さんは言う。彼らの中には、旅行や出張で北京を再訪すると、日本から持ち込んだ書籍を寄贈してくれる人もいる。別れの悲しさ、再会の喜び…いずれにしてもこの仕事は自分に与えられた財産だと任さんは考える。大切な本を毎日、一冊一冊きれいに整理する。どんな本にも、人知れない物語があるからだ。

2012年9月、中国では反日感情が高まっていた。任さんは北京に住む約1万人の日本人のことを非常に心配していた。自分の電話番号を公開して、「困ったことがあれば遠慮なく電話をください」とネットに書き込むことも考えていたという。「まったく罪のない民間人たちが最大の被害者。私は日本をよく知っているからこそ、こんな時に何らかの形で援助しなくてはいけないのです」とも話した。こんな状況改善のためにも、狭い在住邦人ネットワークを開放して、もっと積極的に地元の中国人と交流するべきだと考えている。現在、図書室の利用者は月に約500人、日本人会の会員以外にも多くの日本人や中国人が訪れ、本を借りるだけではなく、情報を交換したり、人を紹介しあったりと、すでに交流の場となっている。中国語の教科書を持ちこんで、任さんに熱心に質問してくる駐在員夫人もいるという。

また任さんは、「人と人は、理解さえできれば信頼関係も自然と生まれる。中国はこの秋に政権交代が済み、これから日本でも衆院選挙が行われる。お互い好きか嫌いかは別にしても、引っ越しもできない一衣帯水の隣国なのだから、友好的な近所関係を築くことは何より大事なことだ。このシンプルな問題は誰にでも分かるはず。ぜひ実現したいものだ」と切実な思いを語った。(取材/RR・編集/愛玉)

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