【週末美術館】最憶西塘

写真家・唐勁松（タン・ジンソン）が撮影のために浙江省の風情ある水郷・西塘を訪れた時、その日はあいにくの雨だった。明清代に築かれた古民家が数多く立ち並ぶノスタルジックな街並み。あちこちに張り巡らされた水路の水が波立つと、路地の石畳や街路のひさしに、ゆらゆらとたゆたう影絵が描かれる。そんなしっとりとした風景に、雨はむしろ晴天よりもよく似合う。

【その他の写真】

予定を変更して、室内での撮影に切り替えた。時代を刻んだ調度品に、憂いを含んだ伏し目がちの裸婦たち。淑やかな恥じらいを表す扇子。花鳥風月。これらが透かし絵のように折り重なる。

撮影を終え、夜が訪れると同時に漆黒の闇に包まれた。黒々とした瓦屋根と無明の水面に、ただ提灯のか弱いあかりが点々と散らばる。美しくも奥ゆかしいその風景に、「隠すことの美しさ」を見出した作者は、撮影写真の加工処理過程で、その感銘をそのまま表現したという。（文/山上仁奈）

●唐勁松（タン・ジンソン）

中国の写真家。江蘇省南通市写真家協会理事。作品は「人民撮影報」「時尚旅游」「新世紀週刊」「北京一週」「金橋」などの著名雑誌にも発表され、「中国写真家作品選」「東方風来写真作品集」への入選歴もある。代表作に「最憶西塘」「尋城」「上海前夜」など。

写真提供：唐勁松

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。