「通訳ガイド業界は実質崩壊」!―JFG山田理事長インタビュー全文

Record China    2010年6月18日(金) 8時26分

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2010年6月、通訳案内士(通訳ガイド)団体JFGの山田澄子理事長はこのほど、レコードチャイナのインタビューに答えた。

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2010年6月、通訳案内士(以下通訳ガイド)団体JFGの山田澄子理事長はこのほど、レコードチャイナのインタビューに答えた。

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インタビューの全文は以下の通り。

(通訳案内士のあり方検討会)

通訳案内士(以下・通訳ガイド)のあり方検討会は、昨年6月に第一回が開催され、これまで6回開かれた。初回の挨拶で観光庁の課長が「業務独占の廃止という可能性も入れて広く討議をしてほしい」と述べたことから、通訳案内士法(以下・法)の業務独占規定の廃止が法の業務独占規定を廃止する意図で開かれると感じられた。案の定、その後事務局により、その方向に結論を導くためと思われる資料が毎回準備された。

検討会のメンバーは15人で構成されていて、業界からは2人だけ。通訳ガイドの試験問題作成に関わっている大学教授と、何故委員として呼ばれたのかわからないと言うボランティアガイド代表、3年前の法改正後に地域限定通訳案内士制度を導入したものの地元の通訳ガイドにまったく仕事がないと、深刻な実態を踏まえて発言する地方自治体を除けば、後はほとんど利害関係のある旅行業関係者だった。

初回では、各委員とも通訳ガイドには専門的知識や、外国語によるコミュニケーション能力が重要と強調していたが、回が進むにつれ、一部の委員は「日本歴史や文化に詳しくなくてもよい」「外国人受験者にガイドに必要な日本語以外必要はない」など、通訳ガイドの質について大幅にトーンダウンし始めた。

観光庁は、一昨年秋に観光立国をめざして創設されたが、産業としての歴史が浅いうえ、担当者が頻繁に異動するため、「訪日外国人3000万人プログラム」の数値目標達成と旅行業者の思惑に沿って検討会が進められ、通訳ガイドの発言はまったく無視されてきた。

(観光庁はガイドが地方に足りないと言うが)

観光庁は「ガイドが足りない」と繰り返す。しかし、3年前に通訳ガイド試験が見直され合格率が緩和されてから、合格者数は大幅に増えた。この4年間に英語は3757名、海外での合格者を除き中国語は日本国内だけで639名、韓国語は235名合格している。しかし、仕事がないため業界に見切りをつけ転職する人が後をたたない現状をみると、観光庁の発言はまったく実態から遊離していると言わざるをえない。特定の地方に需給のミスマッチがあるとしても、それは他の方法で改善が可能だ。訪日外国人数はまだ年間700万人なのだから、計画段階の1000万人、2000万人を想定して性急に通訳案内士法の業務独占を廃止するよりも、700万人の今こそ、今後、より多くの有資格者がこの業界に魅力を感じ定着し育っていくような施策をたてるほうが日本にとって賢明だと思う。

検討会で挙げられた熊野古道ガイド、富士山ガイドなどのエコツアーガイド、博物館、美術館などのミュージアムガイドのように、特定の観光施設にガイドを配置することは、“旅行”という概念とは少し異なるので、法の独占規定を削除しなくても、法解釈で対応できるのではないか。 各地の観光施設に外国語でのガイドが配置されれば、地方に住み埋もれている有資格ガイドが活かされるだろうし、観光立国としてのインフラが整う。添乗員だけのツアーでも観光施設できちんと説明がされれば、観光の質は保てる。そのためには予算が必要なだけ。

<提案された新ガイド案について>

中国、アジアからの観光客を増やしたい、それによって数値目標を達成したい、その為に外国語の話せる中国人や留学生を安く観光ガイドとして使いたい、それには、法が邪魔になる、だから、法を改正し業務独占規定をはずし誰でも観光案内ができるようにするという。その結果、先回の検討会に、観光庁から “新ガイド”とか“認定ガイド”と呼ばれる案が出された。

検討会で、「お客様のニーズ」とか「お客様の目線で」という発言を良く聞いたが、本当に旅行者の言い分か? 旅行会社の言い分に聞こえる。政策立案者は国の為を考え、利益追求の業者とは別の目線で観光政策を考え対応して行くことが必要だと思う。視聴率だけを気にして低俗な番組を提供するテレビ局と同じになってほしくない。

「中国人は母国の人に案内してもらいたがっている」、「日本人のガイドは中国人のメンタリティがわからない」と観光庁と旅行業者は繰り返し主張し、日本の中国語ガイドは使われない。そして、数値目標達成の担い手として中国語圏の外国人や留学生を想定し、法の業務独占を廃止するという。「Yokoso! Japan」のキャンペーンを繰り広げ、アジアから観光客を迎え入れながら、日本の通訳ガイドを活用し育成しようとせず、中国語圏の外国人や留学生に研修をして、日本の観光案内をさせるという考えはあまりに安易すぎないか。

新ガイド案では、ボランティアガイドを有償で使うことも想定している。地方のガイド不足を補うためと言うが、地域限定通訳案内士制度は導入されてたった3年。この資格を取った人たちをどう位置づけるのか。また、地方には通訳ガイド資格を持ちながら埋もれている人材もいると思うが、中国語ガイドと同様、まったく置き去りにされている。

<新ガイド案の問題点>

「通訳案内士」という名称を使わなければ誰でも観光案内ができるとしながら、国家試験は継続するという。3年前から台北、北京、香港、韓国の4都市でも同時に実施している国家試験も継続するという。現在は法があり、語学では日本唯一の国家試験だから、多くの人が一生懸命勉強して挑戦している。外国語を学ぶ学生にとっては一つの目標でもある。難しい試験を受けても受けなくてもOKとなれば、わざわざ難しい試験に挑戦するインセンティブが失われ、受験者数は減少し、その結果、10カ国語のガイドの質は必然的に下がるだろう。結果的に、訪日外国人の満足度に影響し、観光業界や国にとってマイナスになる。

“新ガイド”の安い報酬は、徐々に有資格ガイドに波及するだろう。これ以上安くなれば業としてなりたたず、経験豊かな質の高い通訳案内士は減少する。観光立国推進基本計画に謳われている、「日本の観光の発展を持続可能にする人材の育成」は不可能になるし、通訳ガイド業界も崩壊しかねない。

<現ガイドへのバックアップ案については>

今回の改正案は、通訳ガイドがワーキングプアの職業であることにまったく触れていない。法を遵守し国家試験に合格し研修を受け登録証を得て、いざ働こうとしても仕事がない新人が多い。仕事がないというと「努力が足りない」「営業をもっとしないさい」「使ってもらえるガイドにならなければダメだ」とか言う。まるで有資格ガイドが悪いように言うが、結局は、低価格競争による業界の秩序のなさなど外部的な要因もある。通訳ガイドは一種の職人であり、日本全国を仕事場とし毎回行き先も異なるため、常に研修に参加し自己研鑽に努めている。しかし、年収は専業でも200万円未満の人が多いなど惨憺たる状態であり、観光立国を目指して官民あげて努力し訪日外国人数が増やそうとしている国の話とはとても思えない。

民主党は、観光を日本経済活性化の切り札として、雇用の創出に期待している。しかし、観光立国政策が展開しても通訳案内士の雇用は拡大されていないのに、観光庁は、有資格ガイドの生存権を脅かすことを百も承知の上で、目に余る違法行為を野放しにするばかりか一気に解決する道を選択しようとしている。

現ガイドへのバックアップ案はあるのか? 観光庁は、研修だけで試験もない“新ガイド”の導入を提案したものの、まったく放任することにはさすがに問題があると考えたのか、新ガイドのガイドラインを作るという。しかし、現在、法律で罰則規定があっても違法行為が日本全国を席巻しているのに、強制力もないガイドラインを作って守られると思っているのだろうか。

(業務独占を廃止しても名称独占を残すというが)

日本語の「通訳案内士」という名称は日本社会ではまったく知られていない。私たちは、通常「通訳ガイド」とか「ガイドさん」と呼ばれている。英語ではlicensed tourist guide

又はcertified tourist guide(公認ツアーガイド)という。名称独占は残すというなら、「ガイド」という名称は、まぎれもなく私たちの職業を表すものであり、他の人は使えないはず。しかし、観光庁の今回の案では、「認定ガイド」という紛らわしい名称を“新ガイド”に使っている。

また、「通訳」と「通訳案内士」は同じでない。「通訳」には、仕事の現場に日本人が常に同席しているが、通訳ガイドは外国人と行動しており、一般の日本人から仕事ぶりを評価される機会は非常に少ない。名称だけの独占、しかも、認知度の低い「通訳案内士」の名称をもらっても仕方がない。

(最後に言いたいことは)

法の業務独占規定の廃止に絶対反対である。通訳ガイドの既得権を守ろうというのではない。外国語を使い訪日外国人の接遇のプロで、民間外交官と言われる一方で法違反が野放しにされる悪環境の中でワーキングプアーと言われながらも、私たちは訪日外国人に日本を紹介する仕事に誇りを持って働いている。私たちの仕事ぶりやサービスが、日本の印象を左右することも自覚している。今後より多くの訪日観光客を増やすというなら、観光立国推進基本計画で謳われているように、今必要なことは、「観光の発展に持続可能な質の高い人材の育成」であり、外国人や留学生、ボランティアガイドに観光案内を任せようという性急な政策は、決して日本の国益にプラスになると思えないからである。

国際観光は、国家や民族の固有の歴史や文化などの様々な情報を世界に発信する手段の一つ。通訳のようにその上手い下手が本質的には仕事の依頼者の私益に帰するというものではなく、通訳ガイドの仕事には公益性がある。外国語が話せれば誰でもいいと観光案内をさせれば、国益を害する結果をもたらしかねない。そのため、観光に力を入れている国ほど、法律を整備し国がガイドの質を一定に保とうと努力している。中国では、訪中観光団に中国政府公認のガイドをつけることを義務づけている。観光推進のために、誰でも観光案内ができるように法律改正して規制を緩和するという国は聞いた事がない。

検討会のやり方に疑問を感じている。最初から結論ありきで、時間を費やして関係者に一応発言させる機会を与えているが、検討したとは言い難く、意に沿わない委員の発言は聞き流され、「主な意見」に書かれることもない。最終回の検討会で報告書を作成するのなら、各委員の発言を偏ることなく公平に書き、今後の観光政策や通訳案内士のあり方への提案として進言し、政策に反映できるようにしてもらいたい。

最後に、前原国土交通大臣に訴えたい。「訪日外国人3000万人プログラム」を推進するにあたっては、数値目標と経済効果だけでなく、国際観光の理念や果たす役割にも留意していただきたい。(インタビュー・三木)

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